やまけんの出張食い倒れ日記

Wagyu生産者であるケビン・グリフィンは、数々の企業を所有しつつ3000エーカーもの土地でWagyuの繁殖・肥育一貫経営をし、また仲間のためにと畜施設まで建ててしまった。こういう成功者たちがノンホルモン・放牧肥育の牛肉をアメリカで作っている。 その2 グリフィン家にてサンデーランチをご家族といっしょにいただく!

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と畜施設を見学した後、ケビンの車に乗って彼の自宅へ向かう。嬉しいことに、アメリカはテキサスの家庭料理をいただくことができるのだ!なんたる僥倖。

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道すがら彼の素性を聞くわけだが、現実離れしたというか、「おいおいホントかよ~!?盛ってるんじゃない?」というくらいの成功者譚である。

「実家は畜産農家だったんだけど、僕は大学で資格を取って、飛行機のパイロットをしてたんだよ。プライベートジェットの手配をする会社にいたんだけど、そのうち、その航空会社のプロジェクトマネージャーになって、その後は副社長になったんだ。いまも取締役には名を連ねているけどね。あと、不動産も扱ったりいろいろな事業をしている。」

けれども、いまの彼のメインの仕事はWagyuの生産だという。

「2011年だったかな、Wagyuに初めて出会ってその素晴らしさに感動したんだ。Wagyuは肉の歩留まりがよく、霜降りが入り、しかもその脂肪は不飽和脂肪酸を多く含み、健康にいい肉を生産することができる。それに気性も飼いやすいしね。これはビジネスとしてすばらしいと思ったんだ」

と話しを聞いているうちに、車は小高い丘の一角にある団地のようなところへ吸い込まれていく。電動で開くゲートがあって、そこをくぐる時に「彼のことだから、もしかするとここは団地じゃなくてほぼぜーんぶケビン家なのかもしれませんね」と冗談を言ったのだが、実際のところ、このエリア一帯がケビンの所有する土地であった、、、(汗)

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ホームオフィスでちょっと話をしよう、と白い家へ。

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ここがWagyu Excelenteのオフィスだ。

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彼の後ろに航空写真があったので、自分の土地はどのくらいの広さなのかと尋ねると、こともなげに「ここは3000エーカーだね。」という。1200ヘクタールである!

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ちなみに1ヘクタールは100m×100m。日本の平均的な一戸あたり農地面積は3ヘクタール程度、北海道でさえ30ヘクタール程度なのだから、その規模感には参ってしまう。

「あ、もうちょっと行ったところに1200エーカーの牧場がもうひとつあるんだけどね」

がびーん、、、デカいです、、、

ケビンの経営では100%フルブラッドWagyuの種雄牛が120頭いて、その種をつける母牛が1200頭いる。ここでケビンは種牛であるフルブラッドのWagyuを作ったり、受精卵移植で種牛候補または母牛を育てたり、また最初から肉用にF1、F2の交雑種を作ったりしているのだ。

順序としては逆になるが、このあと車で廻ってくれた、自宅至近の牧場内の写真をみていただこう。

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こちらの牧場はあまりに広くて、草地だけではなく湖がふつうにある。

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こんなところで選抜されたWagyuたちが飼われている。

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肉牛として出荷する場合の飼育方法を訪ねると、基本的にはグラスフェッドで、取引先が求める場合は2ヶ月程度はコーン中心に穀物を与えることもある。ただ、概ねグラスだよ、とのことだった。これだけの草地資源があるならば、しっかり肉が付くグラスフェッドを実現できるのだろう。

さて、ホームオフィスに戻る。窓の外を子供達が鍋、皿をもって入ってきた。

「僕の家族を紹介しよう!」

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わーお、なんとも素敵な家族です!

奥様のアレックス(本名はアレキサンドラさん)とは高校時代からの付き合いだという。まじか~、長いなあ。しかも彼女は教育関係のPh.Dを取得したインテリだそうだ。っていうか、ケビン自体がどうみたってインテリ中のインテリだからね!

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山田さんがお土産にプレゼントした綺麗な箸の使い方を子供達に教えるケビン。

そのかたわらで、アレックスがサンデーランチの準備を。

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うわーーーーー アメリカの家庭料理をいただくのは、考えてみればこれが初めてである。嬉しい!

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もちろんメインはケビンの牧場の肉をローストしたもの。

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ピーマン、トマト、ナスにポテトはすべて自宅の菜園でアレックスが育てたものだそうだ!

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鉢に盛られた米料理は、ガーリック入りのリゾット。各自とりわけて、いただきまーす!

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ケビンのお子さん達は、学校に通わせるのではなく、自宅でアレックス自身が教育をするというプログラムをとっているらしい。そういうことができるんですね。アレックス、とても聡明そうな人。子供達も落ち着いていてフレンドリーで(警戒はしてたけど(笑))、教育のよさを感じる。

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いや、美形な子たちだ!

肉の焼き加減はごらんのとおりウェルダンで、日本人的には焼きすぎかな~という感じではあるが、お手製のホースラディッシュのソースをかけていただくととても美味しい!

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ていうか、ガーリッククリームリゾットが最高に美味しくて、3回ほどおかわりをしてしまった(笑)アレックスにレシピを教えて貰おうかな。

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とても楽しく豊かなランチのひとときでした。ケビン、アレックス、ありがとう!

全米和牛協会でいろんな参加者と触れあったけれども、代々続く農家という人達もいる一方で、面白みを感じて他産業から参入してきた人達も多いのだ。そういう人達は例外なく他産業で成功している人達で、その経営感覚を活かしつつ畜産を行っている。そうした人達は既存の牧場を買い取るなど、経営移譲の形をとっているようである。

日本で畜産といえば、多くは家業を継ぐものだ。畜産はどんなものでも初期投資が一定以上かかり、参入障壁も高いため、そうそう簡単に参入することができない。僕は家族経営型農業はとても大事なものであり、これからも一定数が続いていって欲しいと願う立場の人間だ。しかし一方で、業界をぐいぐい牽引していくパワーとして、ケビンのような人がいることも重要だと思っている。その点、やや乱暴な言い方で申し訳ないが、アメリカでは自由主義がよい方向に作用しているケースもあるのだな、と感じた。

ちなみに最後に付け加えておくと、ケビンは自分の牛肉を日本へ出荷することも見据えている。

「われわれのWagyuを日本に盛っていっても和牛と称して販売できないことはわかっている。だから、アメリカのプレミアムビーフとして販売するので構わない。いつか、販売できたらいいと思う。」

さて、この旅ではいくつかのマジックが目の前で起きたのだが、ここで最大級のマジックがあった。この翌日、あと2週間は取材調査を続けるという山田さんと別れて帰る最終日に、B&B Butchersというレストランに取材に行くことにしていた。この店は日本から神戸ビーフを仕入れて食べさせている、テキサスで評判のステーキハウスなのだ。

そのことを言っていないのにもかかわらず、いきなりケビンが話し出したのだ。

「僕の牛の肉は、ダラスやフォートワースでは人気のあるB&B Butchersというレストランで扱ってもらっていてね。」

ええええええええええええええええええええっ それ、明日行くんだよ!

「えっ 本当に!? なんだなんだ、あそこの肉は僕のWagyuだよ。それに、店の二階の壁面に印刷してある牧場風景は、僕の牧場の写真なんだよ。そうか、それなら君たちのことを社長に連絡しておくから。」

さあ、次回いよいよ、日本のA5黒毛和牛とアメリカ産Wagyu、そしてUSプライムビーフをを食べ比べする。