いやー最高! なんといっても食い倒らーとしては、事前情報なしに、勘で美味しい店を見つけることが最上級の喜びですな。
昨年から、京都府の福知山市で仕事をしている。前回訪問の際に、駅前の小さなビジネスホテルに宿泊したのだが、その一階にイタリアンの店が入っていた。朝はホテルの客のために朝食を出し、ランチとディナーはその店の本来の姿で営業するというのはよくあるスタイル。
ただ、朝食を食べに入ったとき、なんかここは、やっつけ的イタリアンではなくて、ちゃんとした料理を出す店なんじゃないかな、と思ったのだ。本当のイタリアっぽい内装、本棚に並んだ料理専門書、、、一緒に泊まった徳島の地域商社「阿波ふうど」の溝口さんも「なんかここ、本格的な雰囲気だよね」と。
それが心に残っていて、昨日また溝口さんと一緒に福知山泊。ホテルはそれぞれ、また違う場所にとったのだけれども、「あの店、ちょっと行ってみたいねえ」「一件、ご当地系の店でやってから、二件目にでも行ってみます?」と言っていた。
でも、肝心のご当地系のいい候補を絞りきれず、「一軒目に行ってみましょうか。焼き鳥やお好み焼きは二軒目でもいいんだし」という結論になった。
結果的に、この日の幸福はこれで決まったのである。
ホテルアールイン福知山。auショップが入っている横に、その店「イル・プルチネッラ」が入っている。
ホテルのエントランスからみた入り口。まあ、これで「ここいい店っぽい!」と思う人もあまり居なさそうな感じでしょ?
でも、これがまた、い~い感なんです。
そしてこの本棚。
専門料理のイタリアン特集などが!あ、俺が連載を書いているバックナンバーがけっこうあるじゃん!
いちおう予約していきましたが、席数が意外に多いので楽に座れます。19時の時点ではホールが女性ひとりだったので先客へサーブするのが忙しそうで、「いらっしゃいませ、すみません、メニューは日替わりが多くて、ここの黒板に書いているので、お席から来ていただいてよろしいですか?」と。
このメニューが、、、半端なくそそるんですよ!
ね!?この店はナポリ料理の店らしいのだが、ピッツァ用の石窯はないようで、「揚げピッツァ」が板書されている。
「うーーむ、とりあえず前菜盛り合わせをお願いしたいんだけど、黒板に書いてある宮津産の魚介とか、丹波のハムとか、ご当地もので固めてもらえますか?」
「少々、あそこに書いてある価格を超えてもよろしいですか?」
「もちろん!」
ということでオーダー。
そっから、ズドドドドドドドドドと至福のアンティパスト攻撃が始まった!
なんか興奮していたのか、手ぶれがひどい。だって、、、
生ハム、正真正銘この店のシェフが造ってる自家製だってさ!丹波の養豚農家からの豚後腿を使ったものだそうだ!
モッツァレッラも丹後産。
これなんだったかなあ、ジャンドゥーヤと煮こんだ豚肉!?チョコレート味なんですよ!
宮津のミズダコ。美味しい、ミニマムでぶっきらぼうな仕立てだがしっかり美味しい。
春菊とオリーブ、松の実のオイル煮?旨い!
久美浜産の牡蠣フリット、下に敷いた白菜のブレゼみたいなのがまた美味しい!
これも宮津のナマコ!
これがまためっぽう美味しかった、サヨリとブロッコリー。もう料理名はすべてぶっ飛びました。
しかもブレブレ。久しぶりだな、こんなふうに興奮するのは。
そしてこの料理がどうやらこの店の名物、「ズッパ・フォルテ」。
フォルテはフォルテッシモ?ドカンと来る煮込みみたいな感じ? カラブリアの唐辛子ペーストであるンドゥイヤでビッと辛みをつけた、インパクトの大きなモツ煮である。
マジで旨い、、、
この前菜盛り合わせだけでもうかなりの満足度。
そこに、小鯛のアクアパッツァを。
オリーブの実も、アサリも入っていない、とてもシンプルな仕立て。東京で食べている人だと拍子抜けするかもしれない。
が、、、
美味しい! 実に美味しい!
アクアパッツァって本当に美味しいのにあたることが滅多にないけど、魚のダシがしっかりと抽出され、またオイルと乳化し合って、素敵なソースになっている。
いやーーーテンションマックスです。もうこの時点で、「お好み焼きとか焼き鳥とか要らないね!ここで討ち死にしましょう!」というモードに。
パスタは2品、まずは宮津産イワシのタオルミーナ風。
アルミホイルに包まれて出てきたのを開けると、、、
太麺のブカティーニに、イワシ、松の実、干しぶどう、ミニトマトなどが絡んでいる。フィノッキオ(フェンネル)の葉は使われていないが、フェンネルシードであの香り付けがされている。
味わいはヴォーノ!
もうひとつはお肉とふきのとうのカサレッチェカラブリア風唐辛子煮込み。
あ、しまった、これのベースは、さっき食べた辛いモツ煮込みだ!けど、そこにふきのとうが加わり、これはまた美味しい!それに、むちゃくちゃボリュームあります。
この店のパスタはかなり、かな~りイタリアで食べる感強し!だと思う。この店に「ウニ明太子スパゲッティ、たべた~い」なんてノリで入ってくると、まったく違う味わいの世界に戸惑うこと間違いないですな(笑)
さて、メニュー黒板を観たときに、その横の冷蔵ケースにドルチェが並んでいたのですよ。
ベーシックなパンナコッタとカップ仕立てのティラミス、それにブリオッシュを洋酒に浸したババ。
「ああ、ババがある!きっとこれにリコッタクリームを載せて、ミントの葉でも添えて出てくるんだろうなぁ」
と思っていたら!
いっさい、一切、装飾なしでキタ!
しかも、、、
激烈甘い!
これはっ
キーコこと重シェフと一緒に行ったシチリア島で体験した、あたまがキーンと居たくなるような甘さに近いっ!
でも旨いっ!容赦ないイタリア! フレッシュ感溢れるティラミスも美味しかったが、、、 パンナコッタが素晴らしく旨いっ。ちまたにはツルンとしたあっさり風味のパンナコッタが多いけど、こっちのはなんか”ドゥルンッ”としてて、濃厚。ミルクとクリームをさらに煮詰めた感があって、これがアタリでしたね。 いやーーーー 食った! と思っていたら、厨房にいたシェフが挨拶に来てくれました。 「たくさん食べていただいて、ありがとうございます!」 キャップが似合う栗林シェフ、本場のイタリアンを食べて感動して料理人を志す。香川県の店でバイトから入り、上のシェフが抜けてしまっていきなりシェフに任命され、なんとかこなす日々。もう無理だ~と限界を感じていたある日、東京の一流店でやっていた女性シェフが就任。その本場仕込みの技術をみて衝撃を受け、日々修行。観光ビザを駆使しながら何階もイタリアへ。とくにナポリの味わいが気に入って、ナポリ料理を志す。 福知山出身だが、子供の頃はなーんにもないこの街が嫌で嫌で、出ていきたくて仕方が無かった。それが、イタリアンをやろうと定まったとき、海のものは丹後に行けば手に入り、また山の食材もイノシシやシカに恵まれた丹波という地であるという地元の利に気づく。 シカ肉やイノシシ肉は猟師から「使ってくれ」ともたらされる。どうしたら使えるかなと思って、記憶を辿ると生ハムを仕込んでいる原風景を思い出す。塩をすり込み、山の上などで試行錯誤してハムを仕込んでみた。いまでは安定してできるようになり、丹波周辺の養豚農家さんから分けてもらった後腿をハムにして使っている。 「原木、みてくださいよ!」 とフットワーク軽く厨房へ。 庫内には2本、原木が眠っていた。 ビジネスホテルの一階、朝食を出す条件でランチ、ディナー営業。ほんとにうっかり見落とす立地だけれども、こんなところに地域色を打ち出すイタリアンの名店があった! 「そういえば宮津の『アチェート』って店、しってる?」 「ああっもちろんです、東京のシチリア料理の大御所の重シェフですよね?いちどうちにも、昼に来ていただいていたみたいなんです。でもその日確か僕、友人が来ていてベロベロに酔っ払ってた日で!(笑)印象悪いと思います、、、」 そうかそうか(笑) 福知山市に寄ることがあれば、ぜひイル・プルチネッラへ。そうそう、プルチネッラとはイタリアで有名な道化師のキャラクターだそうだ。 大満足!