やまけんの出張食い倒れ日記

食料自給率(カロリーベース)が過去最低の37%に、というニュースをどうみるか。

011-11

6日、農水省から2018年度の食料自給率が発表された。カロリーベースでは37%と、米の凶作で最低値をマークした平成5年度とおなじであり、つまり過去最低の数字となった。

これを巡って、僕もよくしる人達がさまざまな意見を表明している。友人の農家である久松達央くんは2014年の段階でこのような優れた論を大手新聞に寄稿している。

http://hisamatsufarm.com/portfolio_page/%e6%af%8e%e6%97%a5%e6%96%b0%e8%81%9e2014%e5%b9%b410%e6%9c%883%e6%97%a5%e6%9c%9d%e5%88%8a

たしかに、食料安全保障のために自給率を高めようというスローガンに、いくつかつっこみどころがあるところはそうだと思う。ただ、そうだとしてもなお、僕はカロリーベースの自給率の数字を明らかにしていくことは意味があると考えている。

なぜなら、カロリーベースの自給率は、消費者が「なにを食べたか、何を選んだか」という結果から求められる数字だからだ。多くの人がカロリーベース自給率の数字を観て思いうかぶのが「生産者が減っている」とか「輸入食品が増えている」ということだろうが、実はそういうことではない。「消費者が好きなものを選択して食べている結果としての自給率」なのだ。

つまり、日本人は食料自給率を気にしているわりに、食べたいものは自給率が下がるものばかりであるという事実がみえてくる。その是非はともかく、日本の食料需給の立ち位置を把握するために、自給率を求めることは有効だと考えるのだ。

というだけでは何を言ってるかわからないかもしれない。2014~2015年に発刊していたメルマガでこの自給率について書いた回がある。もうすでに時点の古い情報もあるが、これをここに引用したいと思う。

(2015年に執筆したもので、いまの時点では意味の通らない部分もあるため、若干、修正をしています)

ちなみに、長いですよ。

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日本の自給率と自給力を考える(前)

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  今回のテーマを食料自給率としたのは、この数字が大なり小なり、日本の食料政策の基本となっているからだ。農業に関する法律や制度、予算などを決めるとき、「どれくらいの自給率を達成するためには、こうしたモノ・コトが必要」というように、意思決定に大きな影響を与えている数字なのだ。

しかし、この食料自給率ほど理解しにくいものもない。ちまたでは「食料自給率が低いというのは、自分たちの仕事を増やしたい農林水産省のでっちあげ」などという人もいるし、そうした言説を引用する人も多い。

その一方で、国民の多くが食料自給率が低いことに明らかに不安感を抱いている。平成20年度に内閣府が実施した世論調査では、当時の自給率(40%)に対し「低い」とする回答の割合が79.2%。将来の食料輸入に対し「不安がある」とする回答の割合が93.4%にのぼる。つまり、日本の国民はある程度の自給率を確保して欲しいと思っているといえるのである。

実は今、農林水産省では面白い試みをしている。それは、これまで使ってきた食料自給率という指標に加えて「食料自給力」という指標をつくろうとしていることだ。食料自給率は、実際に供給されている食料をベースにした、いわば「結果」の数値だが、この食料自給力というものは「いま国民がしている贅沢をすべてあきらめ、全部の土地にカロリー重視の作物だけを植えて頑張って生産すれば、日本ではこれくらいの食料を自給する力がある」ということを表す指標だ。これが3月に出てこようとしている。

そして昨年、日豪EPAが合意に至り、TPP交渉もそろそろ日米の合意が近いと言われている。国内では農政改革・農協改革の嵐が吹き荒れ、日本の食料事情が今後どうなっていくかの分かれ目となりそうな状況である。

このような状況で、食料自給率をめぐる話題をあらためて読み解いてみることが、この国のたべものの最前線をみていく上で大事なのではないかと思うのである。

■日本の現状、カロリーベース食料自給率39%から考える

ご存じとは思うが、日本は食料自給率が低いといわれている国だ。前編の今回は、この食料自給率という指標について、さらっとどんなものかをおさらいする。なんとなくわかっているようなつもり、という方にはいい確認になればと思う。

食料自給率とは、「国内で消費された食料」を分母にし、「国内で生産された食料」を分子に置いたものと考える。

国内生産
食料自給率 = ━━━━━━━━━
国内消費仕向

これを、国内の生産量の統計や輸入・輸出統計などを組み合わせながら数字を求めていく。平成25年度の食料自給率は以下の通りである。

カロリーベース 39%
生産額ベース 65%

※農林水産省「日本の食料自給率」より(http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html)

多くの人はこの二つの数字を並べられると、ん、どっちが何を表してるの?と戸惑われると思う。

カロリーベースというのは、人間の活動に使われるカロリーすなわち熱量で考える自給率ということ。たべものはそれぞれ大きさや重量、含まれる栄養価が違うので、重量ベースで計算してもあまり意味がない。そこで、たべものの評価軸として汎用的に使える「カロリー」に換算して表すものだ。対して生産額ベースというのは、そのたべものが流通する価格で計算された自給率だ。

と書いても、多くの人は「よくわからないんだけど?」となるだろう。そこで、農林水産省の友人で食料自給率の専門家のS氏(差し障りがあるので仮名でご了承いただきたい)に、見事にかみ砕いた説明をしていただいた。

「ようするにね、カロリーベースは消費者側の自給率。消費者が食べたものの何%が国産かということです。対して生産額ベースというのは生産者側の自給率。食料の販売額の中で国内生産者の取り分が何パーセントかということ。」

どうだろう、非常にわかりやすいと思うがいかがだろか。

この二つの食料自給率のうち、数字が大きくとりあげられるのは前者のカロリーベースであることがほとんどだ。人間活動に重要なのはカロリーであって、その自給がどの程度できているのかという指標として、カロリーベース自給率が使われてることが多いわけだ。

世の中には「生産額ベースでみれば食料自給率は高いのだから、日本の農業は大丈夫」と結びつける人もいるが、そう簡単に結びつける話ではない。

もちろん生産額ベースが重要な場面もある。例えば日本では野菜の自給率はかなり高いが、野菜のカロリーは非常に低いので、カロリーベース自給率の上昇には寄与しない。こうした品目はカロリーベースでは評価しづらいので、生産額ベースで経済価値を表現することになるのである。

さて、このカロリーベースの自給率で39%という数字だが、これは高いのか低いのか。と問うまでもなく低い数字であることはご存じだろう。これも農林水産省が公表している13ヶ国の数字を観ると、このようになっている。


カ ナ ダ 258%
オーストラリア 205%
フランス 129%
アメリカ 127%
スペイン 96%
ド イ ツ 92%
イギリス 72%
スウェーデン 71%
オランダ 66%
イタリア 61%
ス イ ス 57%
韓 国 41%
日 本 39%

  ご覧のようにカナダ・オーストラリアという麦類の二大産地の自給率は200%を超えている。トウモロコシ生産のトップであるアメリカも127%と高く、EUの農業国であるフランスやスペイン、ドイツも非常に高い位置にある。

下位を観ると日本の39%はダントツで最下位、お隣韓国が41%、日本より耕地面積の少ないスイスは57%。そして日本と同じく島国であるイギリスは72%と高い。このような状況がここ20年以上続いているのである。

■なぜ日本はカロリーベース自給率が低いのか

多くの日本人が国産のご飯を食べているのに、なんでこんなにカロリーベースが低いのかといぶかしむ人もいる。しかし、統計的に観るともう日本人はあまり米を食べていないのである。

下記の資料をネット経由で開いてみて欲しい。

●平成25年度食料自給率をめぐる事情
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/25mekuji.pdf

この資料2ページ目に「カロリーベースと生産額ベースの総合食料自給率(平成25年度)」というタイトルで、品目ごとの自給率を変則的な多段棒グラフで示したものがある。

二つあるが、左側のカロリーベースの方を観て欲しい。この多段グラフがよくできていて、左側の目盛りは供給カロリーの割合だ。そして右側の目盛りが成人一日分の供給熱量である2424キロカロリーに換算すると、この品目がこれくらいだよ、という風に読めるようになっている。

そして縦軸に沿って、下が摂取割合の高い食品、上に行くほど摂取割合が低いものというように段が並んでいる。その品目の段の中が青く塗られている部分が自給している割合というわけだ。

非常に情報量の多いグラフなのだが、つまり私たち国民が摂取している食べもののカロリーの内訳がどうなっているかということがわかるのである。

これを観ると、一番下段にあるのが「米」で、いまだにご飯がカロリー源の第一位であることがわかる。またその自給率は97%であることがみてとれる。ホッとするかもしれないが、そこから上が悲惨である。

第二位のカロリー源は「畜産物(肉・卵・牛乳など)」であるが、16%という数字の横に黄色く塗りつぶされた囲みで49%という数字がある。実は、単純に国内で生産されたものというなら、この数字を足し合わせた65%である。しかし日本の畜産は、餌となる穀物をほぼ海外に依存している。その餌となった輸入穀物分のカロリーのみを計算したところ49%となり、これを除外すると畜産物はたったの16%しか自給していませんよ、ということなのだ。

そして第三位には、これにもビックリする人が多いのだが「油脂類」が位置している。なんと油である! 日本人のカロリー源の第三位は油だというのは、ちょっとショッキングではないだろうか。しかも、その自給率はたったの3%なのである。油に関してはまた回を改めて書きたいが、ここ50年の日本人の食卓で激変したことといえば、畜産物と油脂の摂取量の増加なのである。

第四位は小麦。第五位は砂糖と続く。あとは表をみていただきたいが、わかるのは米以外の品目の自給率は、かなりお寒い状況だということである。逆に言えば、米がほぼ100%自給できていない状況だったら、日本の食料自給率は39%どころではなくなっているはずである。

よく「日本は農産物の輸入を自由化しない、保護主義の国」といって政策批判をする人がいるが、この実態をみれば、日本ほど開国している国もないということがわかるだろう。

さて、それではなぜカロリーベース自給率が低いのかということだが、これは実に明白だ。昭和30年代後半、日本人は年間で約120kgもの米を食べていたといわれている。それが今、年間に60kgも食べなくなってしまった。代わりに増えたのが、先にも書いたが畜産物と油脂、そして砂糖である。昭和30年代にはまだまだ貴重品だったこれらの品目が一般化していき、普及された結果、自給率の高いコメの位置を浸食してきたのである。

つまり日本人の食生活が変化し、自給率的に弱い品目を率先して食べるようになってしまったことが、自給率低下の大きな要因だ。

ではそうした実勢に即して、変化した日本人の食生活に必要なもの、つまり畜産の飼料になるトウモロコシや油脂を搾れる大豆、小麦といった穀物を日本でもいっぱいに生産すればいいじゃないか、と思われるかもしれない。しかし、それは実に難しい。技術的につくることができないわけではなく、現実的に不可能なのだ。

例えば日本人が食べている畜産物の餌をすべて国産でまかなおうとすると、量的な問題と価格の問題が発生する。量的な問題とは、日本の限られた耕地面積のうち、国民生活が破綻しないだけのコメを作付けしながら、余った土地をフルに飼料穀物の畑にしたとしても、残念ながら十分な量の餌を確保することができない。
そして金額でいうと、穀物飼料の代表であるトウモロコシに大麦、コーリャンといった品目は、人件費の高い日本が生産すると国際価格に太刀打ちできない。

油脂となる大豆やナタネ、そして小麦の問題も基本的に飼料穀物と同じであると考えていい。したがって、それらを国産にした場合、国民は今より確実に高い畜産物・油・小麦製品を買わねばならないことになる。むろん、それでよいなら日本の生産者は喜んでそうするだろう。しかしいま現実にそうなっていないという状況は、国民がそうしたことを選択していない結果なのである。

では同じように島国で、それほど耕地面積が大きいわけではないイギリスが、なぜ72%もの自給率を達成しているのか。皮肉なことに、日本の食料事情と正反対なのである。

イギリスで重要視されているたべものといえば、今も昔も麦類と酪農製品(牛乳やチーズ)、ジャガイモ、そして食肉である。これらは基本的に国内で生産する率が高い。また畜産の飼料に穀物を大量に使用する日本と違い、基本的に粗飼料と呼ばれる草資源と、国内でまかなえる穀物を使用している。だからイギリスで霜降り肉に出会うことはほとんど無い。イギリスでは食習慣がほとんど変化していないので、昔から生産されている、イギリスの気候風土に合った農畜産物がそのまま受け入れられているのだ。

もう一つは、第一次大戦・第二次大戦でイギリスでは深刻な食料危機を体験したことで、国内世論が「最低限度の自給率は確保しておくべき」という方向に固まったということらしい。事実、昨年10月に筆者がイギリスを取材旅行した際、ヒアリングした農畜産物の関係者のほぼ全てに食料問題の質問をすると、自国の自給率の数字を踏まえた話をしてくれた。つまり自給率を意識しているということだ。

このように、日本の食料自給率が低い一番の理由は、日本で生産しやすい食料を日本人自身が選んでいないからといえるのである。乱暴ないい方かもしれないが、バブル的な食料消費、つまり「消費者が食べたいものを食べる」という傾向はまだ続いているということだと思う。農林水産省からすれば「頼むからもっとコメを食べて欲しい」というところだろうが、深刻な食料危機にならない限り、いまの日本人がそちら側に振れることはないかもしれない。

■食料自給率を巡る批判を考える

さて今までみてきた内容は、その多くを農林水産省が公表している文書やデータを基本としたものである。しかし冒頭で書いたように、この食料自給率という数字自体に問題があるとする声も多い。

その中の代表的なものが、先にも書いた「生産額ベース自給率は高いのだから、日本の農業は大丈夫」というものだ。これに関しては、そもそも見方が偏っていて、生産額ベースとカロリーベースは用途が違うということをご理解いただけたと思う。

その他に下記のような言説もある。


「自給率の計算は、国内への消費仕向け量がベースとなっていて、廃棄されている食料分がカウントされていない。廃棄分をまだ使える資源とみなせば、自給率は上がるはずではないか?」

「そもそも、食料自給率などという指標を問題にしているのは日本くらいで、他の国はそんなことで騒いでいない」


はたしてこれらをどう考えればいいのか。そして、食料自給力という新しい考え方について、次号で解説していきたい。

(続く)