先に書いたトウモロコシ関連の記事が広く読まれているようだ。ただ、あの時点から状況はめまぐるしく動いており、輸入数量の見込みも大きく変動した数字が出てきている。
27日以降、大手新聞数紙が報じている数字は275万トン。僕が飼料関係者に訊いた100万トン程度だろうという数字は、当初の業界見込みだが、その倍以上ということもあって、多くの関係者が「あれれれ」となっているそうだ。
実は農林水産省には飼料業界から「どうなるんだ!?」という問合せが殺到しているようだが、今回のはなしは農水省自体が寝耳に水の状態らしく、困惑しているというはなしが伝わってきた。安部内閣とアメリカ主導で決めた内容なのかもしれない。農水の担当者も気の毒である。
ただし275万トンを一気に輸入すると貯蔵用のサイロのキャパシティを超えてしまう可能性もあるらしく、数量の確定や実際の輸入手順についてはまだまだこれから決まる部分が多いのではないか、ということだった。
さて、100万トン程度であれば、日本国内の総需要1200万トンの一ヶ月分であり、消化吸収はそう難しくないとのことだった。その倍以上となる275万トンだとした場合、影響は大きくなるのだろうか?
「国内で要求される1200万トンという数字自体は増えることはありません。いきなり牛や豚を増やせるわけではありませんからね。そうなると、輸入元の置き換えということが考えられます。
今年の日本は、アメリカで春先の長雨を原因とする洪水でニューオーリンズ港が使えなかったトラブルもあり、南米産のものを多く輸入しています。今後は、そうした他国産の輸入をやめて、アメリカ産のものに置き換えるしかないでしょう。」
そうなった場合、価格は少しくらいはディスカウントするものなのかな?
「うーん、値決めは従来通り、シカゴ相場とプレミアムで決まるので、おそらく世間相場並みかと思います。ただ、急激に日本向けが増えるので、船賃が上がるかもしれませんが、一時的なものでしょう。」
となると、通常価格または少し高い価格で日本が買い取るということになりますね。で、みんなが気にしているのは、結局日本全体でみたときに、これは負けなのか、勝ちなのか?ということなんですよね。
「まず、牛や豚の生産者さんの場合、配合飼料の価格が上がった場合の支えとして飼料安定基金があるので、影響は軽微かと思います。ですから、飼料業界はそれほど声をあげていないのです。ただ、養鶏とブロイラーについてはそうした補助金が存在しないので、生産者によっては辛いというところも出てくるかもしれません。」
飼料安定基金とは、生産者と配合飼料メーカーと国が出し合って基金を作り、配合飼料の原料価格が高騰した際に畜産経営者に交付される補填金のことである。詳しくは こちらを参照のこと。
さて、配合飼料価格安定制度の基金には民間のみならず国のお金も入っている。従って、これが発動するような事態になった場合、国としての損失が発生することになる。
となると、重要なのはこの275万トンのトウモロコシだけの話しではない。これとバーターに日本は何を得るのか?ということが最大のポイントとなる。飼料用トウモロコシを買うことで、他分野でその損を上回る国家的利益が得られるのであれば、という話になるだろう。だからこの問題は、しっかり「この先」をウォッチすべきことである。
ところで、前回の記事がリツイートされる中で、「アメリカが売りつけようとしているのは遺伝子組み換えコーンなのではないか」という疑問が投げかけられているようだ。
これについて書いておくと、現実として、アメリカで生産されている飼料用トウモロコシの9割以上が遺伝子組み換え品種である。そして、日本では畜産向け飼料に関しては、遺伝子組み換えか否かという表示をしないでよい、ということになっている。畜産用飼料にわざわざ非遺伝子組み替え穀物(Non-GMO)を輸入しているのは、一部の生協組織や大地を守る会、らでぃっしゅぼーやなどの専門流通企業に限られている。だってむちゃくちゃ高いんだもん。
その是非については、どうぞご自身で考えてくださいませ。
今回のトウモロコシの話しは、「えっ そうなの!?」という驚きが多いであろう日本の畜産の実情について、消費者が識るいい機会なのかもしれないね。