ごらんの通り、さまざまな色の粒がみえるそば麺。これは、とある新製法(といっていいのかな)で打たれたそばなのだ。
そのおそばは長野県茅野市の街道沿いに、車で10分くらい走らせたくらいの間隔で並んでいる「そばきり道玄」「そばきりきっせい」「そばのさと」の三店で食べることができる。その本拠地がここ「そばきり道玄」だ。
民芸風の「よくある」信州のそば屋という体だが、この店のそばはいろいろとスゴい。
これは通常の二八そば。もちろん手打ちで、これもとても美味しいそばなのだけれども、この店最大の特徴はまた違うところにある。
一日の食数が少なく、それを目当てに来る人が多いためすぐに売り切れてしまう「どうづき十割」のそば。これこそが大本命なのである。通常、そばは蕎麦の実の殻を取りさり、ロール製粉機や石臼などで細かく挽いて粉にし、そこに水を吸わせて捏ねていく。そばの吸水は実にデリケートなので、この水回しという工程でその後のできばえに差が出てくるところもある。
ところがこのそば屋が採用している「どうづき製法」というのは、簡単に言えば引いていない丸のままの蕎麦の実に水を吸わせ、それを搗いてペースト状の生地にしてしまうと言うものだ。粉にするという行程を踏まずにそのまま生地に変換するので、香り成分の流亡などが抑えられることが想像できる。
そば打ちをやっているひとであれば、水回しと捏ねの状態をスキップできるといえばいいだろうか。そこからさき、くくって伸して切るというところをやれば手打ちそばとなるし、製麺機や押し出し製麺などを使えば、均質な食感になってしまうだろうが、大量生産も可能になるだろう。
この詳細については2021 年版の「そばうどん」で詳しく解説されるので、5月まで待っていただければと思う(下のはバックナンバーです。次号は5月発売予定!)。
まあしかしほんとうにそば肌のざらつき感、いろんなものが入ってるぞ感がスゴい。もちろん味わいもとても強い。
「搗いている」わけだから、そばのデンプン質が潰れきれず塊になっている部分などもあるのだが、その「不均質さ」こそが、野趣に富んだ食感、味と香りを生み出している。しかも、その手打ちの技術が高いため、野趣溢れるのに上品というアンビバレンツがそこにある。
そしてさすがに信州、あたりまえのように本ワサビが薬味なのである。極めて美味!
店主の吉田道成さんにいろいろと話を伺う。独自の理論でそば打ちをされていた。
そばうどん編集長のサイトウくん、味わいのあるコーヒーをいただき、考える図。
いやほんとうに驚くのは、こんなに歴史があるたべものであるおそばに、まだまだ新しい味が出てくる余地があるのだな、ということだ。ちょっと感動してしまった。東京から高速で2時間半はかかるが、食べに行く価値があるかもしれない。なお、このどうづきそばが売り切れていたとしても、さきの三店舗のどちらかに残っているかもしれないので、あきらめないこと。もちろん、予約するのに越したことはありません。