2010年くらいからワーッと盛り上がったドライエイジドビーフ、いわゆる熟成肉のブームもだいぶ治まってしまった。その治まるというのが、定着するということならいいのだけれども、残念ながらそうではなく多くの熟成業者が「採算がとれないので辞めます」といって撤退しているのが実情だ。「なんちゃって熟成」をしているようなところが消えていくのは大歓迎なのだが、じっさいにはきちんとしたドライエイジングをできる技術と設備をもった業者が撤退しているので、とても悲しい。
そんな中、新潟県で牛肉のドライエイジングをきっちり行い、品質を維持し続けているのがIDEALという外食企業を率いる和田亮さんだ。
もともとスノーボードのプレーヤーとして新潟へやってきて、ひょんなことから飲食業の世界へ。それも和食がベースだけれども、いまや業態はさまざまな方面へと拡大している。その一つが、新潟県内の牛肉をおいしく熟成する、ドライエイジング事業だ。
その和田さんから「TheBurnの米澤シェフと飲むんですが、ご一緒にいかがですか?」とお誘いが。
なぜ米澤くん!? かというと実は、TheBurnでドライエイジドビーフを頼むと出てくるのが、イデアルで熟成されたあがの姫牛というF1のドライエイジドビーフなのである。食べたことある人、多いよね。あれがそうなんですよ。
ということで伺ったわけだ。東急線の三軒茶屋駅から歩いて3~4分くらい。この日は翌日から関西出張で撮影機材をトローリーバッグとスタンドバッグで持っていたのだが、なんとエレベーター無しのビルの3F!!! 普通ならどうってことないがまだ右足が骨折からのリハビリ中なんだよな、、、なんとか登りました。でも、これぞ三茶の隠れ家イタリアンってかんじだなあと思った。
■三軒茶屋 薪火イタリアン&バー ciocco
https://ciocco.wine/
一日一組限定の、薪火焼きでの火入れを特徴とするリストランテだ。もちろんここでも、和田さんとこの肉を仕入れているとのこと。
以前からもよくみかけたが、コロナになって拍車がかかったのが、シェフが一人ですべてを行う形態。チョッコもそれなのだが、ここはサービスの人が間に入るよりも、このシェフが食材や酒についてちょこちょことお話をしてくれ、「へえ~」と相づちを打ちながら楽しむという形がいい感じ。
一皿目は松坂牛の肉の生ハム、黒イチジクフリット、佐渡ミルクのモッツァレラチーズ。
松阪牛の生ハムって誰がつくってるの?
「あ、僕です」(シェフ)
えええっ まじかよ!と思ったら出てきたのがこれ。すげーな!
「イタリアにはブレザオラがありますので、それをベースにしながら、試行錯誤してつくりました。」
うん、ブレザオラ、先日ぼくの牛である柿衛門君のお肉で、ビコローレヨコハマの佐藤シェフがつくってくれたあれですな。柿衛門君のお肉はウチモモでサシが無かったこともあって赤身のおいしさ炸裂パターンだったが、こちらはこのサシである。
サシは生体の時にどんなに硬い性質の脂だったとしても、熟成過程で分解が進むのでもとよりも融点が下がり、やわらかな脂質になっていくものだ。それにしてもこの松阪牛生ハムうまい!
そして元の皿に立ち返って、このイチジク、モッツァレラと生ハムのコンビネーションが最高! 前菜がうまかったらその後も旨いの法則、これは期待できるな!
余韻を楽しんでいると、なにやら取り出して炎でちょいちょい。
サワラである。肉や魚と合わせるとなまめかしい味がするイチゴとのとりあえわせ。
これがまたすばらしく美味しい。ネットリしたサワラがまたもや熟成をかけている。ただ、魚の熟成は面倒なものだが、、、イタリアン特有のオイルでシーリングする方法での熟成だ。
自家製パンには、これまた佐渡ミルクのバターを。
いやもうこれがまたおいしい。
さっきからなんで佐渡?というと、シェフのご家族が佐渡出身とのこと。それで、和田さんと新潟繋がりなのね。ということでこれも新潟県産のシイタケだったっけ。
こいつが鮮烈においしかったなぁ、分厚い身肉の穴子をフリットにしてあるんだけど、穴子の揚げでの脱水の加減が最高。
しっとり感がのこっているそれは、近年の穴子天ぷらのしっかり火を通しきる感じともまた違う。うん、これは官能的だね! トリュフとの相性もすこぶるよい。
牡蠣とトリュフの茶碗蒸し(笑)
こういう人ならきっと、、、と思ったらやっぱり、地の部分は牡蠣のすり流しである。これまた濃くてすばらしく進む!
こうやってドンドンドドーンと怒濤のように味が押し寄せてくる感覚は、シュングルマン小池君で慣れているのでどんとこい(笑)
このチョッコの味は高級食材にありがちな、濃さがクドさになっているようなことがなくて、美味しく食べ進められる。
そして、麺が出て参ります。えっ シェフはどこで修業したの?と思わず問いたくなったのは、出てきたのが実に正しきタヤリンだったからだ。
タヤリンは細い分、空気を含みやすく口中で独特の咀嚼感を味わうことができる。桜エビの香ばしさ、菜花の苦みがよく合います。
そして、どうやら本日のセコンドとなる肉が焼き上がった模様、、、
牛と豚の二種盛り、豚のことはちょっと忘れてしまいました。というのも、牛の肉が闘牛だったから。
闘牛! つまりは去勢をしていないオスです。
オス牛の肉、これまでにも機会があり、何度も食べて来ました。そのたびに「やっぱりおいしいとは言えないな」と思うことばかり。最も多いのは、肉の世界でオス臭と呼ばれる、男性ホルモンが一杯分泌されましたよって感じのおっさん臭い匂いがすること。発情期のオスのイノシシ肉の臭いヤツといえばいいですかね。
また、オス臭がそれほどなかったとしても、どうにもシマリの無い味になっていることが多い。フランスのシャロレー牛の産地にいったとき、オスを去勢せずに22ヶ月程度肥育しているのをみたことがある。未去勢なのでまだ若いのにどでかく成長していた。これ、おいしいの?と訊ねたら「美味しいワケないじゃん、オスなんだから」という。じゃあ、どうすんの?と訊くと「ギリシャかトルコに輸出するんだよ」というのだ。なるほどね、自分が食べるわけじゃないから、とにかくデカく肉がとれる牛になればいいのか、と。オスの肉なんてそんなもんなんだと思っていた。
「やまけんさん、やっぱり新潟で牛といえば、闘牛の文化は欠かせないんです。ご存じの通り、日本の闘牛はスペインのように、牛を殺してしまう闘牛ではありません。牛の持ち主は牛を家族同様に大切に育てます。そんな闘牛のお肉を食べないなんてもったいない。熟成したらなんとかおいしくなるんじゃないかと試行錯誤しているんです。この肉は90日間ドライエイジングしています。」(和田さん)
えええええええ、90日!?
うん、でもまあ10歳のオスともなれば、スジも強くなっているだろうし90日は妥当かもしれない。
それにしても、長期のドライエイジドなのに、しっとり水分がにじみ出しているのがスゴい。
「本当ですね、けっこう枯れた感じの肉になっていたんですが、シェフが上手に焼かれたんですね」(和田さん)
この闘牛のお肉を食べてほんとうに驚いた。これはおいしい、、、もちろん、メスの未経産牛や経産牛のおいしさを横に並べて選ぶかという問題はあるものの、いままで食べて来たオス肉のなかではぶっちぎりにおいしいといえる。熟成香がブンブンするというものではなく、落ち着いた香りである。そしてギリギリに残された肉の水分が加熱によってじわりとにじみ出し、そこに長く生きてきた闘牛の蓄えたであろううま味がのっている。
驚きの体験であった。これならまた食べたいと思えるお肉だ。
付け合わせの黄色いサツマイモもネットリ甘くすばらしいものだった。
トリは炊き込みご飯。
ポルチーニ、イクラを濃厚なブロードで炊いた贅沢な炊き込みご飯。おいしゅうございました。
なお、ワインなどのサイドで、テーブルウォーターが供されていたのだけれども、こんな風にいろんなハーブやエディブルフラワーを入れたサーバーに水を注ぐというもので、清涼感満載。
そこにお湯を注いで、ハーブティーが出来上がる仕掛け。
おいしい! 食材を無駄にしないこと、実践されてますね。
そしてここから、チョッコが誇る古酒レパートリーが開陳! 僕の生まれ年のコアントローとか、スゴかった!
よねちゃんも大満足!
三軒茶屋チョッコ、足が完全に治ったらまた行ってみたい店になりました。
和田さん、またご一緒しましょう!