やまけんの出張食い倒れ日記

枝肉から24時間以内にスライス加工して出荷する、プレミアム白金豚の「切りたて最速便」が実に意味深く美味しい! 鮮度の良い豚肉はどんな味がするのか、肉好きはトライして欲しい!

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先頃の大雪で、東北新幹線が動かない~!!どうしよ!となった時、僕は岩手県花巻市へ行かねばならない任務を帯びていた。あのプラチナポーク白金豚の高源精麦が行う新しいサービスの記者発表会で、このおいしさについてお話をして欲しいというお願いをされていたのだ。

どうせ花巻へ行くなら、昼に一ノ関で下車して、レストランあさひやや、工房地あぶらに顔を出そう。岩手県職員のK原くんならきっと「僕が車を出しますよ!」と言ってくれるだろうと思っていたのだが、、、あの雪だ。東北新幹線は一時半まで動かず、そこから僕が確保したチケットは15時過ぎの発車。しかも臨時ということで、東北新幹線の全駅に停まるというので、通常より時間がかかる。かくして着いたのは18時過ぎであった、、、(涙)原田シェフ、小野寺君、そしてK原君、ごめんよ、、、

で、その翌日!

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花巻はこの快晴である。朝から記者発表の会場へ入る。

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以前、花巻空港だったところが、移転で建物が空き、そこに市の施設や観光協会が入っている。その一角で、白金豚を展開する高源精麦がプレスリリースをするわけだ。

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前置きが長くなった。このブログ読者なら白金豚はよくご存じだろう。岩手県花巻市の高源精麦(たかげんせいばく)は、大正時代に穀類の商いをしていたが、昭和30年代に養豚事業も始めた。今日、髙橋誠さんがこれを継いでいる。

白金豚はブランド豚ブームの初期にはすでに有名になっていた。通常の豚はL(ランドレース)にW(大ヨークシャー)を掛け合わせ、その子(LW)にD(デュロック)を掛け合わせたLWDという組み合わせの豚を使用しることがほとんどだ。なぜLWDが通常豚になっているかというと、それが経済効率的に最もよいからだ。こんにち、養豚ではこのLWDを170日程度かけて100kgに成長させて出荷するというのが基本となっている。ただしこれは「それが一番おいしいから」ではなく、効率的にそれが最も経済的だからということでこうなっている。

いっぽう白金豚は、LWにB(バークシャー)つまり黒豚を掛け合わせて、肉質と脂のおいしいLWB豚を造っている。バークシャーは産子数が少なく、成長にもLWDよりすこし余計に時間がかかることもあって、Bを使う農家は少ない。また、Bを入れる場合もLBDという掛け合わせ(LにBをかけた子にDを合わせる)出あることが多い。もちろんそれでも美味しいのだが、基本的には最後にかけたオスの特質が強く出るため、やはり最後にBをかけるLWBの方が、バークシャーらしさがよく発現すると思う。

ただしその分、成長効率が犠牲になるため、高源精麦では通常より2ヶ月ほど長く飼っている。これは養豚家にとってはコスト要因にしかならないので、普通はやらない。ただし、豚も長く飼った方が美味しいと僕は思っていて、すくなくとも170日前後で育てるLWDより、230日前後飼う白金豚のほうがきめが細かく、味わいもよい豚になると思う。

しかも高橋さんは面白い試みをしていて、以前から国産子実コーンの取引および栽培に着手している。畜産の餌は圧倒的に餌用コーンがよいのだが、日本ではコストが高く栽培されてこず、アメリカやブラジルから輸入してきた。それが、この10年の飼料高騰、加えてコロナ禍で海運コストが上がってヤバイことになっている状況下で、ここ数年本気で子実コーンの栽培に取り組む農家が増えてきた。また国も、飼料用トウモロコシに転作助成金を出すようになったことで、米ではなくてトウモロコシをという意欲が高まりつつある。高橋さんはこうなる以前から「自前で餌を造らねば、本当の差別化にはならない」ということで、子実コーンや丸刈りコーンの飼料化に取り組んできたのだ。

畜産物のおいしさは「品種×餌×育て方」だと僕はよく説明しているが、高源精麦の白金豚はそのどれに対しても、通常と違う配慮をしているのだ。

その白金豚が新しく取り組むのが「プレミアムプラチナポーク」である。

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白金豚は、と畜された枝肉を自社工場に引き取り、自身で食肉加工をしてお客さんに卸すという仕事をしてきた。その客とは外食業者とくにレストランが多かったわけだが、このコロナでその部分が打撃を受けている。そこで消費者へ、、、というのは誰でも考えることだが、高橋さんがえらいのは「通常のモノと違う価値を訴求しないと」と考えたことだ。

そこでうまれたこのプレミアムというのが、なかなか面白い。ひと言でいえば「白金豚を鮮度の高い状態で届ける」サービスなのだ。

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通常、食肉処理センターでと畜された豚は、枝肉の状態で卸に納品。その後、卸はロースやバラといったパーツに加工して真空パック。これがスーパーや外食に納品されて、バックヤードや加工センターでスライス・カットされて、店頭に陳列される。この間、6~10日くらいの日数がかかっているはずだ。

それを、プレミアム白金豚は「切りたて最速便」と称して、枝肉からの切り出しとスライスカット、梱包して出荷までの時間を24時間以内としている。ここで重要なのは、食肉処理センターで枝肉になった豚は直接高源精麦に運ばれ、自社工場内で一度も真空パックにすることなく部位に切り出して、スライスするということだ。もうこのブログ読者ならよくわかってくれていると思うが、真空パックは保存性の向上する素晴らしい技術ではあるものの、肉に含まれている水分を吸い出してしまう作用があり、肉を理想的に美味しく食べるための技術ではない。できれば真空パックをせずにおいたほうが、肉にはダメージ、ストレスがかからないのだ。そういう意味では、このプレミアム白金豚の切りたて最速便は、いちども真空しない肉が届く、理想的な仕組みなのだ。

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最初の段階では、しゃぶしゃぶ用の薄切りスライスと、しょうが焼き用のロースの二種類を提供し、順次さまざまな部位を提供するという。

ちなみに、僕はこの仕事を受ける前に、「まずは食べさせて下さいよ」とお願いをして、通常処理の肉と切りたて最速便相当の鮮度のものを、同じカットにして送ってもらった。

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どちらも同じ白金豚だが、鮮度が違う。あ、でも厳密にはちょっとカットした部位が違ってるね。上の通常のはロース、下のプレミアム相当はやや肩ロース側だ。まあそこは目をつぶるとして、、、味にどれほどの差が出るの?と思っていたのだが、、、

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全然違うじゃん!

脂の弾力が違い、プレミアムの方は実クニョンクニョンと魅惑的な弾力のものになっている。しかも、脂の味に透明感があり、赤身と合わせて噛んでいくとシルクのような食感である。おそらくこれは脂、つまりトリグリセリドの結合がまだしっかりしているので、食感に弾力感があることから来るものだと思われる。分解が進むとグリセリンが外れていくからね。

でもね、熟成期間が短いわけだから、赤身の旨みは生まれていないでしょう?そもそもヤマケンはドライエイジドビーフ、つまり熟成肉と呼ばれるものが美味しいって言ってたよね?今回の肉は熟成してないじゃん!という人もいるかもしれない。

僕が思うにこういうことなのだと思う。プレスリリースの記者会見で僕がお話しした原稿をここに載せておこう。

    • わたしはこれまで主に牛肉のドライエイジングの普及を後押しする仕事をしてきました。その過程でさまざまな肉と熟成方法との相互作用を目にして、味わってきました。そこでは、肉は熟成期間を経ることでたんぱく質の分解が進みうま味成分であるアミノ酸が増加すること、香りも出てくるということがわかりました。これは言ってみれば「熟れたおいしさ」といえるでしょう。
    • しかし一方で、鮮度の高い肉の美味しさというのも併行して存在するということも言えると考えています。魚の活け作りは捌きたての身肉なので、たんぱく質の分解がなく味が無いといわれることがあります。しかし、熟成した魚の肉にはないみずみずしさや食感、香りがあって、それは熟成を経た魚の刺身とは違う魅力があることはみなさんも感じていることでしょう。いわば、「鮮度のおいしさ」といえるようなものが存在すると思います。
    • 今回のプレミアム白金豚は、豚肉において鮮度の魅力とは何かを問う、意欲的なプロジェクトであると感じました。実は豚肉も、牛肉と同じようなドライエイジングを施すことで、熟成のうまみや香りが出てくることが知られています。その場合、30日以上熟成を行う牛肉とは違って、豚の場合あ二週間程度の熟成期間で香りや柔らかさが出てきます。よくできたドライエイジドポークはとても美味しいものですが、それは「熟れたおいしさ」です。一方、プレミアム白金豚は「鮮度のおいしさ」を追求したものといえます。
    • 私も実際に、今日までにプレミアム白金豚を、通常の白金豚と並べて食べ比べをしてきました。食肉の味や食感の違いは、数字上の分析で有意な差が出なかったとしても、人が食べると「違うがある」と感じることが多いです。はたして、食べ比べると明らかにプレミアムと通常の白金豚には違いがありました。
    • 特に大きな違いは脂です。プレミアム白金豚の脂は、食感がハッキリしており「食べて美味しい脂」であるというのが私の感想です。通常、豚肉の脂身は敬遠されるものです。昨今では、有名なとんかつ店で出されたロースカツの、脂の部分だけ綺麗にのこす人も多いものです。これには、脂は肥るというイメージ、飽和脂肪酸は身体によくないというイメージ、そして実際に脂が美味しくないということもあるでしょう。ところがプレミアム白金豚のしゃぶしゃぶ用スライスを食べると、脂の部分に魅惑的な弾力があって、噛み心地がよい。そして、香りが実にいい。中国の月餅は餡にラードを練り込むことが知られていますが、臭い脂ではそれはできません。プレミアム白金豚の脂は甘い香りがしました。
    • 肉の熟成の話に戻りますと、赤身肉の分解のことは知られていますが、一方で脂が酸化していくデメリットについてはあまり触れられていないように感じます。脂は酸化すると風味が悪くなります。日を置いた生ハムの脂の部分が黄色くなったのを食べると、どうもひねた匂いがして美味しいと思えないということを体験した人もいるでしょう。酸化した脂は不快な味わいになるのです。豚は牛より小さいので、熟成のスピードも酸化のスピードも早い。ですから、プレミアム白金豚の「鮮度のおいしさ」は脂の鮮度も関与していると思うのです。
    • そうなると、赤身の肉についてはどうなんだということになります。赤身肉の部分は分解をしないと旨みが発生しないのだから、プレミアム白金豚は味のしない豚肉と言うことになるのではないかということです。でもみなさんいま試食をして、お分かりだと思いますが、味わいがないどころか、芳醇な味わいや香りがあったと感じられましたよね。これはどういうことか。実は、牛肉のドライエイジングを普及する中で、わたしは最初の頃「と畜したての牛肉は味も香りもせず美味しくない」と言っていました。じっさい、自分が所有していた牛をと畜して三日後のお肉を食べたことがあるのですが、ゴムのような弾力で味も香りもありませんでした。ところが後日、と畜して一週間もしない牛の肉を出すステーキ店に行って、「と畜してまだ5日目」という肉を食べました。これが驚くほど美味しかった。その秘密は、生育期間にありました。通常、日本の和牛はおよそ30ヶ月齢未満で肉になります。ところがその店の仕入れる牛は45ヶ月齢前後のものなのです。いってみれば、生体のうちに肉が熟しているといえるでしょう。
    • 日本の養豚は通常、170日で100kgに育てて出荷するというのが標準です。しかし白金豚は220~235日の飼育期間。通常より2ヶ月も長いわけです。その分、肉の熟成をしない段階でも十分に味が乗っているのではないか。それが、と畜したて、切り立ての肉が美味しいと感じる理由かなと考えました。
    • プレミアム白金豚は、通常の豚肉より長く育てることによって、活きている状態で熟した肉質になっている。それをと畜後、速やかに精肉にして消費者に届けるという、いままでにない画期的な豚肉の楽しみ方だと言えると思います。カット処理をしたお肉は速やかに劣化が進みますので、手元に届いたらすぐに食べるということで、このお肉の魅力が最大限ひきたつのではないかと思います。

高橋社長の挨拶のあとにこんな話をした。その後、花巻市の人気日本料理店の料理人さんが、プレミアム白金豚をしゃぶしゃぶに。

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参加者一同、舌鼓を打っていた。お進めは、まずは何もつけずに食べてみることだ。臭味がなくスッキリしており、脂の食感がハッキリわかる。

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さて改めて、これがプレミアム白金豚の届く荷姿だ。

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上段にしゃぶしゃぶ、下段にしょうが焼き用が、丁寧にパックされている。

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これがしゃぶしゃぶ用だ!

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やはり印象はシルキー! じつに上品で上質。東北で育てている豚はやはり肉質も緻密で、味わいも淡麗になる気がする。

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陸前高田市の八木澤商店の最高なポン酢でいただくと、いきなりバラ色の味わいが炸裂する!

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控えめに言って旨い!

豚肉が苦手というひとにこそ試して欲しい豚だ。

なお、当日の僕の記者発表はいっさい報道されていないが(笑)、ちょろっとだけ映ってました。

このプレミアム、お買い求めはぜひ白金豚の公式Webでどうぞ。

■プレミアムプラチナポーク「二刀流セット」ロースしゃぶしゃぶ用500g|しょうが焼き用500g【白金豚】
https://hakkintonshop.meat.co.jp/items/56874780

高橋社長、子実コーンの拡大、たのしみにしてますよ!