やまけんの出張食い倒れ日記

帰ってきたぜ飛騨高山! 雪の飛騨路に思い出話しが咲いた夜 その2 大学時代に出会った与嶋君が、よしま農園を継いで立派に自然農法(無肥料・無農薬)ですばらしい営みを継続していた。これぞ本当の乳酸発酵の本漬け飛騨カブだ!


今回の飛騨高山出張で、仕事抜きで訪れたい場所があった。それは大学時代(だから30年前にもなる)に熊本で出会った与嶋靖智(よしま・やすのり)君の農園だ。


大学時代、僕は藤沢のキャンパスに畑を拓き、畑サークルというのをやっていた。師匠として仰いだのは、藤沢の農家である飯島農園さんと、遠く熊本にあるぽっこわぱ耕文舎。ぽっこの方は、高校時代からのお付き合いだ。詳しくはこの過去ログをご参照。

■熊本は南阿蘇、長陽村の夏、ぽっこわぱの畑、そしてよしこさんのメシ。 - やまけんの出張食い倒れ日記
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2019/07/29887.html

この阿蘇の長陽村(現在は南阿蘇市に統合)には、東海大学農学部キャンパスがある。2016年の熊本地震での損壊が激しく、現在キャンパスとしては機能できていないようだが、当時はバリバリの農学部として動いていた。そこで学生をしていた与嶋君、ぽっこわぱにも出入りしていたようで、僕が夏の合宿で熊本に来ている時に、園主のよしこさんが「東海大に面白い子達が居るから、会ってみる?」と引き合わせてくれた。それが与嶋君と山崎君の二人だ。

彼らは化成肥料や化学合成農薬を削減するための技術を模索して、実験ほ場でいろんな栽培実験をしていた。僕は「堆肥も入れないで作物なんか育たないだろ」という考え方だったが、考えてみれば与嶋君はこの頃から無肥料という可能性を観ていたんだな、と思う。

そんな風にガッチリ会ったのはその時だけだったのだが、その後、与嶋君は実家である飛騨高山に戻り、お父さんお母さんが営んでいたよしま農園を継いだ。そして彼が取り組んだのが、肥料もやらず農薬も振らない、いわゆる自然農法と呼ばれる栽培だ。ここでいう肥料とは、化成肥料のみならず、堆肥やボカシ、米ぬかといった有機肥料も含む。理科で植物の生理を習った人なら、窒素とリン酸にカリ、そして微量要素が植物の生育には不可欠であり、それは肥料の投入によってまかなわれると教えられたと思う。だが、自然農法の世界では、まったく違う理(ことわり)で農産物が生産される。

そんな自然農法に対してはさまざまな見方と評価があって、実践している人もさまざまで、静かに実践する人もいれば、他の農法を強く積極的に否定する人もいる。また、自然農法の実践に対して過激に否定をする人達もいる。僕が昔から関わってきた「専門流通」とも呼ばれる農産物の流通ネットワークの中にも、自然農法をフィーチャーした一派がある。それが枝分かれして、農産物流通のパーセンテージとしては小さいものの、一定の評価を得て存続している。

つまり、毀誉褒貶は相半ばであるが、自然農法は着実に、この世に存在しているということだ。

僕は、高校時代に最初に出会った農業者が有機農業の実践者だったので、有機農業にシンパシーを抱いている。その後、一般の慣行農業も含む農産物流通の世界に進んだこともあって、化成肥料や化学合成農薬を使用する一般の農法についても必然的なもの、とも思っている。そして自然農法も、その理はまだ完全に理解できていないけれども「無肥料で作物ができるという世界があるのだなあ」と感じている。というのも、僕のまわりには自然農法の実践者も何人かいるし、その産物を味わって「うーん、これは佳い!」と評価できるものなのだ。


しかし、何十年ぶりかで連絡をとった与嶋君がまさか自然農法の実践者として継続しているとは思わなかった!(笑)


高山駅からタクシーでちょっと走ったところに、よしま農園の住居兼加工場兼直売施設がある。いや、イイ感じですね。


店内に入ると、よしま農園の漬物商品や味噌といった加工食品群がズラリと並ぶ。


漬物商品主体かと思ったら、ハーブソルトや麹製品など、アイテムがとても多い! しかもそれだけではなく、いわゆる自然食品店やオーガニック食材店に並ぶさまざまなアイテムが仕入れられている。

「やまけんさん、ご無沙汰してます。遠くからよく来てくれましたね!」と与嶋君が顔を出す。


いやあ、変わらないねえ、、、いや、もちろんお互いに歳を重ねているのだけれども、印象的には大学時代に会った与嶋君そのものだわ(笑)


よしま農園はなんと3町歩という堂々たる面積で営農をしているそうだ。

「父や母から受け継いだ畑です。でも、いわゆる多品目栽培をしているので、一つの品目をドカッと作るということはしていないんです。カブやダイコン、ラッキョウやウメなどを栽培して、それを漬物に加工して販売するというのがスタイルになりました。」

大学卒業後に就農してからほどなく自然農法での取組を始めたそうだ。気になる収量は、慣行栽培の三割減くらい?

「三割減だったらいい方ですね!(笑) やはり、たくさんとれるということはありません。でもね、慣行より減りはするんですけれども、穫れるんです。ま、いま時期の飛騨は雪なので、やまけんさんをほ場に案内できないのが残念なんですけどね。」

いやホント、今度は暖かい時期に観せてもらいに来たいと思います。

「いま、赤カブの酢漬けの加工をしているので、ちょっと観ていただきましょう。」

と、同じ敷地内にある加工場へ。しっかり衛生面を考えた立派な加工設備がある。


「ここも、私が就農してから費用をかけて建てたんです。ここで漬物やドレッシングなど、各種加工食品を製造しています。」


飛騨地方の漬物と言えば赤カブ漬けだ。ただ、ご覧いただいているカブは伝統的な飛騨紅カブではなくて、固定種だけどもうちょっと新しい品種。これは本漬けにまわすのではなく、酢漬けにするという。

「塩をして一年以上乳酸発酵させるたのはこちらです。」

と、貯蔵スペースの扉を開くと!


昔ながらの木桶が重石をのせてドーンと並んでいる! 

「赤カブは、塩だけした状態で漬けて乳酸発酵させます。表面に酵母膜が浮いてきます。面白いもので、この酵母膜が人間でいう皮膚なんでしょうかね。この膜の下に乳酸菌をはじめとする様々な微生物の世界が拡がっています。」




現代的な製造設備だと木桶は衛生面から使わないことが多く、樹脂製品に変わっているけれども、やはりそれでは乳酸発酵を促すことが難しいのだ、という。

「プラ桶ももちろん使ってきました。が、やはり木桶でできるような発酵状態にならないんです。なので、うちでは酢漬けなど発酵を伴わないものにはプラを使いますが、一年以上発酵させる漬物には、この地域の古老の方々の家で「もう使わんから」という木桶をいただいて使うようにしています。」


そうしてキッチリ中まで発酵した赤カブを、出荷前にパッケージして、85℃で殺菌。


「殺菌というのも大切なんです。というのも、乳酸菌っていうのもいろいろな種類がいまして、よく「胃酸でも死なない菌」とか売りにしているところもありますけど、そんな強い菌だとお腹が痛くなることもあるんです。うちの母なんか、殺菌していない漬物を食べ過ぎると「ちょっとお腹が」と言うことがありますね。ですから、ここでしっかり殺菌をします。殺菌したら意味がないんじゃ無いの?と誤解されている方もいらっしゃいますが、それでも乳酸発酵せ生成された成分がとてもよい働きをしますので。」


うん、これがよしま農園の存在の根幹だな! 自然農法に木桶発酵の本漬け。いやぁ、感動しました。


さて、与嶋君の漬けた飛騨紅カブの本漬け。芯まで真っ赤に染まっている。

噛むとボリッと強い食感の後、ジュースが染み出てくるが、その旨みの濃さに驚く! すげえっ 本当に塩だけなのか!? と驚くほどの複雑な旨みだ。もちろん酸っぱいのだけれども、酸味よりも旨みの方が先に立つ。そういえば、久しぶりにしっかり発酵しきった本漬けのカブを食べていることに気づく。僕のような食に関わる人間でさえも、ともすれば本来的な「漬物」から離れてしまっているのだなあ、、、と実感。それとともに、やっぱり本漬けは旨い、とも実感した!

おいしいぜ、与嶋君!

自然農法がどうこうと言う人もいるが、まあプロダクトを食べてからいいましょう。よしま農園の漬物、素晴らしいです。直売所で大人買いして大量にあるので、じっくりいただいていきます。

与嶋君、再会できて心の底から嬉しかった! そして、畑を継続し、発展させていること、尊敬します。 また必ず会おうぜ!