
理恵ちゃんとヒロトさんのワイン畑から見渡す風景、素敵だ。対岸にある教会のような石造りの塔が、中世イタリアに来ているような気にさせてくれる。
ご覧のように、斜面はすべてブドウだ!
この見渡すなかで、ふたりのワイナリーであるカッシーナ・リエートの畑は1.5ヘクタール強の面積だ。規模としては小さいが、もうすでに出荷するワインはすべて売約済み、人気の注目ワイナリーなのである。
カッシーナ・リエートは、長年ローマを拠点に、コーディネーター・輸出業者としてイタリア全土で活動してきたヒロトさんが、理恵ちゃんと一緒に2017年に立ち上げたワイナリーだ。日本人がそうした、伝統的なワイン畑を購入するにはいろんなハードルを超えねばならなかっただろう。
彼女達が見下ろす区画には、この地を手に入れる前から伝統的なブドウ品種が植えられていたそうだ。それがモスカータとコルテーゼ。
「コルテーゼという品種はもう主流からは外れているので、最近のワイン関係者だと『あー、コルテーゼか』と眉をひそめる人も居ます。でもね、僕たちはこの伝統的な品種を軸にワインを造っています。ブドウの枝の仕立て方も、昔ながらの、樹勢をしっかり保つ方法を採っているんです。」
僕は永年果樹を育てたことがないので、ブドウの仕立て方についてはよくわかっていないのだが、少なくともいま主流のやり方とは違うそうだ。
コルテーゼという品種(写真のブドウがコルテーゼかどうかはわかりません、撮り漏らしました)は、日本で言えば生食用のデラウェアのようなものなのだろうか。昭和の日本人であれば誰もが食べていた一般品種で、その後、大玉の品種が普及するにつれてだんだんと忘れられていったブドウ。でも、今でも大好きなんだけどね。
「僕はこのコルテーゼの価値を問いたいと思っているんです。」というヒロトさん。揺るぎない信念を持ってブドウ栽培、ワイン造りをしているのだ。
「さあ、私たちのワイナリーへようこそ!」
と理恵ちゃんがここ一年以上にわたって手を入れてきたというお家に招き入れてもらう。
このL字型の建物の一階奥がワイナリーになっていて、二階が彼女達の居室、そして向かって右側はアグリツーリズモ用の宿泊施設に生る予定だ。
「もうね、ずっと手を入れてて、許可が下りるまでに時間がかかるんだけど、いつ終わるのかって感じよ。」
というが、案内してもらった部屋は、すぐにでも営業できそうな綺麗な仕上がりだった!
ええっ こ、ここに泊まりた~い!
いまは、ブドウの収穫などの繁忙期に手伝いに来てくれる人達や、友人達を泊めているくらいだそうだが、キッチンも完備していて素晴らしい!
なにより、畑側につきでたバルコニーからのこの景色、、、
次回この地に来るときは必ずここで過ごしたいと思ったのである。
さて、ワイナリースペースに入ると、木樽が並ぶ、なんともいえぬまろやかな香りただよう空気。
そう、ここにはステンレスタンクがない!
ちょうど、今年度のブドウを発酵させている桶を覗かせてもらう。
通常、皮と種を外すように圧搾して醸す白ワインだが、可能な限り皮と種が着いた状態で発酵を進めるのがリエート流。たしかに、木樽の中もこんな状態だ。
また、糖を残した甘い仕上がりにするのではなく、最後まで発酵させきる造り方をするそうだ。
「発酵させきる」というのは、現・月の井酒造の石川達也杜氏を思わせる言葉だ。そうすることで、単なる飲みやすさではなく、料理に合わせることができる深い味わいを得るというのが狙いなのだろう。
「もうね、ほんとうにブクブクブクブクって元気に発酵してるの! 赤ちゃん育ててるみたいだよ~」と櫂入れをして攪拌すると、下の方から発酵で生じる炭酸ガスがブワーッと浮かんでくる。
ちょっとこの段階でも飲んでほしいので、と。
この濁り、ブドウのすべてがこの液体に凝縮しているという感じだ。
貯蔵中の酒をいただく。あきらかに琥珀色が濃い。
もちろん赤も醸している。
僕にはワインの表現をできる素養が無いので、リエートのワインについては他のWebなどで観て欲しいのだが、、、
僕がかろうじてなんとなくわかる日本酒の世界観でいえば、ドンピシャ「食中酒として実力を発揮する酒」の味だ! 一口飲んだだけで「わあ~、リンゴみたいな香りがしてとってもフルーティ!」となるような酒ではない。舌や鼻腔にさまざまな味わいと香りがぐるぐると巡り、余韻がとても長い。
僕が味わっている中、理恵ちゃんもヒロトさんも「あっ これやらなくちゃ」といそいそと作業をしている。
「もうほんとにね~、ワインってすっごい手がかかるのよ! 体力使うよ~!」と言いながらも、むちゃ充実したいい笑顔の理恵ちゃんだ。うん、本当に幸せそうだ。よかった!
さあ、日も暮れてきて、いい時間だ。
「やまけん、明日もあるし、ご飯食べよー!」
そして至福の時間が始まったのである。