やまけんの出張食い倒れ日記

エイジングブースターという、食材の熟成を促進する装置がスゴい!誰も考えつかなかった原理でお肉のみならず、生ハムや魚や果実などを、本当の意味で「熟成促進」させる!

agingbooster

さて、そろそろ情報解禁しましょうね。先月号の専門料理の記事を読んだ料理人さん達がざわざわと「あの装置ってどうなん?」と噂しているようなので、、、(笑)

昨年から、この「熟成を促進する装置」に仕事として関わっています。こいつが実に面白い!関わった料理人さんから「これって食材のタイムマシンですね、、、」というコメントも出てきている。

そもそものはじまり

昨年の夏、四国の香川県の、かなりお堅いメーカーさんから「肉の熟成について相談したいことがある」という連絡がきた。拙著「熟成肉バイブル」を読んでくれているとのことだったので、むげにもできない。

話しをきいたところ、「ドライエイジングを数日間で行うことができる装置なんです」という。当初あたまのなかでは「あああ~ またか!」という反応。そう、多いんです、そういうの。でも、ほとんどがモノにならない。熟成できない熟成庫とか、いろいろありました。

でもね、話しをきいてるうちに「あれ?」と思ったんですね。

「うちで開発した装置なんですが、簡単に言えば食材にマイクロ波をあてて温度を上げることで、肉などの熟成を促進する仕組みです。ただし、温度が上がると腐敗してしまうリスクも出てきます。そこで、食材の表面を冷蔵することで、表面温度を0~3度前後に保ったまま、内部だけを5度や8度などに加温するという仕組みです。」

ん? えええっ そういうのは想定していなかった、、、

でも、そんなことってできるの?マイクロ波を照射ってことは、電子レンジですよね?

「そうなんです、電子レンジの原理なのですが、そこまで上げると加熱しすぎになりますので、もっと微弱なマイクロ波です。それを何日間か作用させることで、肉の熟成が進むんです」

それってマジかいな、、、でも、原理的にはたしかにあっている、、、じゃあこうしましょう、僕が指定する肉を二分割して、片方は真空パックして冷蔵。もう片方はその熟成促進機に入れて熟成させる。それを弊社に送って下さい。食べ比べます。

この時僕が指定したのが、牛のシキンボウ。外モモの中でも硬い部位なので、そのまま焼いて食べるとかされることはほとんどない。ちょっと意地悪な気持ちで、この部位を指定した。

その肉が送られてきて、試食した結果のことは、実はここでも書いている。

■興味深い「熟成促進」装置の実験をしています。
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2018/08/29659.html

この時は「評価は分かれた」と書いているのだが、僕自身は「ややっ 熟成が進んでいる!」という手応えがあった。この装置は本物かもしれない、実に面白い可能性を秘めているかもしれない、と。そして、仕事としてこの熟成促進機がどんな可能性を秘めているか、アドバイスをすることになったのである。

この装置のメーカーは四国計測工業。なんと四国電力の関連会社である。電力会社の関連メーカーなのだから、いいいみでお役所的であり、効果のないものを効果があるとは決して言わないであろう企業文化を持つ。

「わたしたちも、食品に関する装置はこれが初めてのようなものなんです」という。

この間、僕が関わりを持っているさまざまな精肉卸、加工食品メーカー、飲食店などに試作機を置いてもらい、さまざまな食材での熟成促進をしてもらい、データを集めてきた。

結論としてこの装置はアリだ、ということなのです。そして、ネーミングにもわたしが関わりました。命名、「Aging Booster (

エイジングブースター)」。

本当の意味での熟成とは

さて、まずここでいう「熟成」という言葉について再確認をしておく。近年「熟成肉」というキーワードで認知が広まってしまったため、食肉のドライエイジングを想起する人も多いだろう。ただしここは注意が必要だ。

2000年代、アメリカのNYを起点として世界に広まったドライエイジドビーフは、単なる熟成ではなく、微生物による発酵の作用も含んでいる。というより、かなりの部分を発酵に依っているといってよい。

「肉の熟成」というとき、教科書的には肉の内部で起こる変化をいう。生命活動を終えた肉は、内部に含まれる自己消化酵素の働きによって、たんぱく質がアミノ酸などに分解されていく。放っておけば液体にまでなってしまう途中段階で、ほどよく柔らかくなり、またアミノ酸による味わいや香りが生まれるというのが「肉の熟成」である。このプロセスに、外部の微生物の関与は必要とされない。

ただし、この「教科書通りの熟成」は肉のドライエイジングとはまた別の話となる。牛肉のドライエイジングでは、特定のカビなど微生物の関与によってフレーバーを生ずる事例がとても多い。つまり「熟成肉」という、誰が言い始めたのかわからない日本語訳は、正しく中身を表現するものではないのだ(といいつつ、拙著でもタイトルに使っていますが)。

ある種の微生物とは、ほぼ特定されていますが、それについてはここでは述べません。ただ、その微生物が関与することで、ナッツのような香りが際立って発生することがわかっている。このエイジドビーフ特有のフレーバーが「イヤだ」という料理人さんも少なからず存在する。まあ、発酵によって発生する匂いのようなものだと思えば、そのへんも理解できるだろう。

さっきから書いている熟成促進機は、そういう意味では「NYで行われているドライエイジングを再現する装置」ではない。そっちではなくて、教科書的な意味での「熟成」を促進する装置なのだ。

「えー、あのドライエイジングじゃないの?じゃあ興味ない」という人もいるかもしれないが、、、それは早計というものだね。この装置を使った料理人はみな「これスゴい!うちにズッとおいておきたい!」と言ってくれる。

具体的な説明が、とにかく簡潔なものになってしまうのだけれども、「食材の熟成が驚くほど早く、効果的に進む」のだ。

じつは、すでにこのエイジングブースターを使用して肉を提供する店がある。長くなってしまうので、次のエントリで紹介したいと思う。

■エイジングブースター公式Web
http://agingbooster.com/