やまけんの出張食い倒れ日記

いやもうビックリ!独活(ウド)ってこうやって作るのね!?白い肌の美しい東京ウドを、室(むろ)栽培とは違う方法で育てる阪本農園で、いままで食べたことがないほど美味しい獲れたてウドを食す!ジュースのような香り高き甘い汁が永遠に染み出す、美しき作物だ!食べたい方は広尾の山藤へ!

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「あのさ、あのカメラマンの兄ちゃんにさ、ウドを撮りに来るなら今頃だよっていっといて」

と、広尾「山藤」の梅さんづてにお呼びがかかった。やった!ウドの掘り出しを観られる!

ウドは数少ない日本原産の植物だ。山菜として出回る山ウドも美味しいけれども、なんといっても以前は高級食材として取引されていた軟白ウドという存在がとても面白いものだ。アスパラガスの軟白栽培よりはるか昔の江戸時代から行われていたそうだからね。

そのウドが、ここ東京は小金井市の阪本農園で栽培されているというのを知ったのは、昨年中に里芋掘りをみに阪本農園を訪ねた際のことだ。

■東京都小金井市で350年続く阪本農園にて、絶品のサトイモ収穫! 撮影はニコンZ70-200mmf2.8
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2020/11/30157.html

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えっ この植物ってなんですか?と訊ねるとと「ああ、それがウドだよ。株を養生してるのさ」と。

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うどってこんなに綺麗な植物なのかぁ、と目を奪われてしまった。

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Nikon Z6+Z70-200mmf2.8

で、このウド、秋頃までこのように畑に植えておき、霜が降りる頃に地上部が枯れるのでそれを刈り取ってしまい、根茎を堀りとる。その株を芽を効率よく出すようにカットして床にふせこむ。その床が室(ムロ)と呼ばれる、地下3メートルくらいのところに横穴を掘って、そこに植えたりするのが東京ウドの定番である。阪本農園にもムロがいくつか掘ってあったので、「次のシーズンでぜひ室の中を撮らせて下さい」とお願いしていたのだ。

やったやった、万難を排して行くぞ! ということで、D6に24-70mmf2.8、Z6に50mmF1.2という泣く子も黙る最強装備で、またフラッシュをアームにつけて、どんな狭い場所でも自在に発光できるように考えて装備をしていった。

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御年90歳にはとてもみえない吉五郎さんである。

「とりあえず、室の中の状況を見たいので、先に潜ってみていいですか?」

と尋ねると、衝撃の答えが!

「ああ、ムロでは造ってないんだよ。潜るとかそんなんじゃないから。地上からすぐだから、なんも装備とかいらねーよ。」

ええええええええええええっ!?

「ムロもあるんだけどさ、うちでいまやってるのは、ムロ栽培が主流になるその前にやっていた、昔っからのやり方なんだよ。」

それじゃ、さっそく見せようか、と連れて行ってくれたハウスの横で、合点がいった。

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そうか、そういうことなのか、、、

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手前にユンボで掘られた穴にヒョイと降り立ち、型枠のコンパネをはずす吉五郎さん。

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もうおわかりだろう、僕もわかった。3メートルもの深さを掘るのではなく、もっと簡易に軟白栽培をできるようにする「溝式軟白」方式なのだ。

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つまり、縦1メートルほどの穴を4~5メートルほど掘り、そこに床を作ってウドの株を伏せ込んでいく。ここに籾殻や落ち葉を詰め込んでおき、板で四方八方を囲み、毛布とブルーシートをかぶせて密閉。この陽の当たらない空間の中で、真っ白なウドの芽が伸びてくるというわけだ。

中は、こうなっている!

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収穫する際は、上側のコンパネをはずして行う。

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ただし、軟白ウドは純白さが命だ。洗浄すると痛んでしまうので、綺麗なまま掘り出さねばならない。また、日に長く当ててしまうと光合成をして緑化してしまい、商品価値が落ちてしまう。

ということで、ここからの収穫の手順が重要なのである。

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ホーで収穫したウドを置く側をならし、ござを敷いていく。

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孫のりょう君が一緒に穴に入りながら、無造作に収穫開始! ここからはスピード命なのだ。

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ここで、長年にわたり吉五郎さんと連れ添うキヨ子さんが参戦。

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根付きのままにポンポンと叩いて泥を落としたウドをゴザに並べ、その根のキワを「ウド専用の包丁なんだよ」というみたことない立派な刃の包丁でカットしていく。

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模範演技の後、選手交代でりょう君が堀りとり係。

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坂本家、じいちゃんもばあちゃんも孫にビシビシ厳しく指導!

「あのね、おばあちゃんの手を観て手を!こっちが切ってるスピードに合わせて掘って頂戴!」

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それにしても!

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ウド、とても美しくありませんか!?

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「あのね、穴蔵で造るよりも溝式の方が一段白いのができるんだよ。ただねぇ、いまどのくらいの大きさになってるかってのが開けてみるまでわからないのが大変なんだよなぁ」

うん、そうだよね、こんかいはちょうと天井につくかつかないかの頃だったけど、なんでそれがわかったんだろ!?不思議だ、、、

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さらに奥のコンパネもはずして、収穫を進めます。

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「あーもう、そうじゃないのよ、よくみてちょうだい、おばあちゃんが切ってから置いて欲しいの。ちょっとおじいさんに替わって!」

ということで吉五郎さん再登板。

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まあ、60年以上も連れ添っている二人なんだから、これ以上に息の合ったコンビもないよね。りょう君、めげずにガンバレ!

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このへんで、我慢ならなくなって、先っぽがポキッと落ちちゃったヤツを失敬します。

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そのまま口に入れると、、、シャクッという、しとやかな食感ののちにシュワッとしみ出る冷たく甘い汁! 清涼飲料水のような甘さではない、品位の高い、ほろ苦さが苦さとして表れないギリギリの段階に留まった、甘くて清らかな水というような水分がしみ出てくるのだ!

なんておいしいんだ、ウドって!?

まあこんなすばらしいの、食べたことがありません。

「おいおい、もっといいやつ食べなよ」

と立派な茎を。

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あのですね、ウドってよく「表面の皮を薄く剥いて、酢水につけてアク抜きする」っていうじゃありませんか。

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そんなの必要ないんですよ!

鮮度が高ければ、、、

もうね、これフルーツじゃないの?っていうくらいの爽やかさです。ああもうすばらしい!

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ちなみにこの掘り上げた株から、翌年に植える分を残します。

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当然ながらウドも品種がいくつかあり、また農家によって好みがあるらしい。

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さて収穫完了。お家の土間にて、お茶をいただきます。

ここで吉五郎さんに昔の話しをたっぷりきかせていただいた。

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「ウドは低温にあたらないと芽を出さないから、わざわざ軽井沢や八ヶ岳のほうに株を持っていって、伏せこんだんだよ。それもトラックを雇って、ガソリンを缶に入れて持っていくんだ。ガソリンスタンドなんてありゃしなかったからね」

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「なにせねぇ、昔ウドを出荷してた時期はさ、とにかく高級品だったね。日本料理の料亭とかで出すんだから。さっきあんたが齧ったような、ちょっと折れちゃった小さいヤツを集めてこづかいにするのは許されてたんだけど、ラーメンが一杯28円だった時分に、一束70円で売れたからね。そのかわり、市場に出荷するのは大変だったよ。この小金井から秋葉原の神田市場まで、信号が3つしかなかった時代だからね(!)。」

2021-03-27-10-24-50「市場へは最初は自転車で行ってたんだよ!その後、オート三輪の免許とってさ。でもね、神田市場で車停めて、ラーメン食べて車に戻ったら動かないんだ。その頃の車はバッテリーがそとに着いてたんだけど、それ盗まれちゃったんだよね。よくしたもんでさ、市場の中でバッテリー売ってやがんだよ。あれ、俺のじゃないの?ってね。ガソリンだって、細いホースみたいなのでチュって抜かれるんだよ。だから、目に付く場所に車停めてラーメン食べたんだ」

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いやーーーーーー 吉五郎さんの昔話をもっと聞き書きしたい!

だってね、話の途中で「こないだの関東大震災がさ」って言うんだもん! こないだの東日本大震災じゃなくて、関東大震災だよ!? とても90歳とは思えない吉五郎さんの生きてきた道は、東京が畑ばかりだった頃から、畑が消え、住宅街ばかりになる過程でもある。そんな環境変化の中で、農業を続ける坂本家は尊い!

「はい、それじゃウドを味噌つけてたべてね」

出ました!

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もうね、この美しい肌を観て下さい。もちろん酢水とかつけない!表皮は包丁で軽く剥いてくれていますね。

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麹たっぷりの味噌との相性抜群、さきほどのシャクシャク感+ジュースに味噌の甘塩っぱさが加わって、、、もう永遠にこれを食べていたいです。

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吉五郎さんが手にしているのはお弟子さんの農園のウドだそう。

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やはりなにかちがいます。鮮度だけではないみたい。

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キヨコさん、吉五郎さん、今回も本当にありがとうございました!もっと昔の農業の話しを聞きたいので、まだまだ長生きして下さいネ。

いや、それにしてもこのウドという作物は面白いね。自分でも栽培してみたくなってしまいました。とにかくわかったのは、ウドは鮮度が命だなってこと。

「3日くらいはほりたての美味しさが楽しめるよ。遮光して縦に置いておけば8日間は保つから」

とおっしゃっていたけど、畑で齧ったあの衝撃的なおいしさは、味わったことがなかったもん、、、東京の皆さん、ウド農家を大切にしましょう。

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ちなみに、、、阪本農園のウドを購入することはできませんが、食べることはできます!

もちろん、広尾の有機和食「山藤」にて!

■明日放送のBS朝日「土井善晴の美食探訪」で広尾のアノ店が絶賛登場!なぜか私めもちょこっと出てきます。本当に美味しいと思う店じゃないと微妙な反応をしてしまう土井先生が、果たしてこの店でどんな感じのリアクションをされるか、要注目!
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2019/09/29923.html