宇都宮餃子のコアでディープな深部へと降り立った。 「香蘭」

2004年6月23日 from 出張

 今年度の出張第一弾、栃木県の農協組織に行って来た。今回は先方も、

「山本さん、ホームページみましたよ、、、打ち合わせ終わったらご飯食べにいきましょう」

とお誘い頂く。先回感動した「正嗣(まさし)」を超えるディープな店があるというのだ。これは楽しみだ、、、

 JAのビルにて打ち合わせご、そそくさと書類をたたみ、ビルを出る一行。先ほどまでの打ち合わせよりもかなりテンションが上がってきていることがわかる。大通りから一本裏に入ったところに、なんとも怪しげなピンクの看板がみえてきた。

「山本さん、ここが地元民の私らとしては一番お奨めの餃子屋さんなんですよ。」


■餃子の店「香蘭」
住所:栃木県宇都宮市本町2-5
電話:028-622-4024
営業時間:16:00~21:00
定 休 日:日曜日、祝日、水曜日


 運の良いことに、僕らが一番最初の客となった。店は本当に小さい。カウンターが10席程度、その先が土間になってはいるが、テーブルは置いていないらしい。その土間に餃子の餡を皮に包む台があり、お母ちゃんがひたすら包みをやっている。

 品書きをみると、「焼き」と「揚げ」の二種類である。正嗣では焼きと水餃子だったが、ここでは揚げというのがあるんだな。それは、食べたこと無いなぁ、、、

 カウンターの向こうに白髪のオヤジが立つ。今回連れきてくださったT氏がオヤジと親しくお話をしている。

「このヤマモトさんは沢山食べるから、焼きダブルに揚げダブルでお願いします。僕たちは焼きと揚げを一人前ずつね。」

と、T氏がニッと濃い笑みを浮かべる。望むところだ!けどこの後、郷土料理も食いに行くって言ってたんだけどなぁ、、、

 さてオヤジが行動に出る。白木の板の上に整然と並んでいた生餃子をフライパンに置いていく。

火はかなり強火らしく、バリバリと焼き音が鳴っている。しばらくするとアルミポットの水をフライパンに投入。ものすごいバリバリ音が炸裂するところを、すかさず蓋をして蒸しに入る。

「ここは全部手作りですよぉ。」

どうやら自動餃子包み機とかもあるらしいのだが、香蘭では断固として使わないらしい。

焼きの間に酢、醤油、ラー油を調合。宇都宮ではラー油は自家製が普通らしい。この店のはややあっさりめのラー油だ。

 しばらく間をおいて、オヤジは二度目の注水をする。またもやバリバリと凄まじい音がする。チラッと覗いたのだが、テフロン加工の深めのフライパンに、厚手のアルミ蓋を数台コンロに仕掛けているようだ。注水すると油が飛び、引火して炎がブワッと立つ。相当な火力で火を入れていると思う。

「はい、焼きダブルね!」

これが香蘭の焼き餃子である。そのたたずまいは惚れ惚れするほどに美しく背筋が伸びている。

 表面の焼き色の見事さと、側面の皮が油で極く薄い黄色になりかけている。すかさず醤油をつけずに食べてみる。底面の芸術的な焦げ目がバリっと強い食感を残す中、野菜たっぷりの餡からフンワリとした香りが上る。餡は極めて上品。強い香りや味はせず、あくまで優しい味である。

 タレに浸して食べる。今度は控えめの餡に色が付き、餃子としての存在感が全面に出てくる。皮は厚手というわけではないのに、しっかり感が強い。いわゆる「主食としての餃子」の王道はこれであろう。

「旨い!」

旨いのである。他に言うことはない。

「でしょー、やっぱりココが一番ですよ。JAグループの利用率、高いですよぉ」

とT氏が嬉しそうに仰る。

さて
焼き餃子がオヤジに仕込まれている間に、奥の方で盛大なジュワジュワという揚げ音がしていた。揚げ餃子である。焼きを1人前食べ終わるタイミングで、ものすごい外観のそいつが出てきたのである。

「はい、揚げダブルね~」

みよ、このスパルタンな外観を!

昔、小学校の給食で出てきた揚げ餃子とは一線を画す、ハードコア系餃子がそこにある!箸でつまむと、協力に脱水されており、しっとりした焼き餃子とは正反対の硬質な感触が伝わってくる。

と、オヤジが、新参者の僕に声をかけてくれる。

「塩で食べてみるか?」

おお!それはぜひ試してみたい! オヤジさんが厨房奥の奥さんらしい方に声をかけると、こだわりっぽい塩の瓶が出てくる。それを小皿に入れ、つけて食べてみる。

まず、盛大なカリっという歯触り。低温で火を通した後、一気に高温で脱水をしているのだろうか。そして、外側にまぶされた塩味が効き始めると同時に中の餡の香りが流出してくる。醤油ダレとは違い、皮のカリっ感が最大限に引き出される塩の選択はベストと言える。

「う、旨いっすよ!こんなの初めて!」

と叫ぶと、

「若い人には塩が人気なんだよ。タレにつけると皮が柔らかくなっちゃうからね。」

と優しく教えてくれる。オヤジ、超人気名店で30年以上の歴史があるのに、余裕の優しさである。奥様も非常に上品。いい店とはこのように、謙虚なにこやかさを持つ店のことだ。暖かい。
 ちなみに店は僕らが入ると同時にドンドンと人が入ってきて、満員に。裏からも人が立ち並び行列が出来ている。子連れの主婦が土間で座りながら待っていたり、非常ににぎやかだ。

 と、JAのT氏が「あっどうもぉ!」とお辞儀をしている。後で訊くと、「栃木県のJAグループの本部長です、、、」とのこと。その本部長さんはお土産で数人分を焼いてもらっていた。これから飲み屋に餃子を持ち込んでつまみにして食べるのだそうだ。そんな技があったのか、、、

「餃子1人前250円で安いからねぇ、そういう飲み方する人は利口なんだよ!」
とオヤジが笑う。

いや、またもや感動した! 宇都宮の餃子は本当に郷土食である。
しかし、店を出た後にT氏がしみじみと語ってくれた。

「ウチでは、親爺が水餃子しか好まなかったんですが、冬の白菜を使った水餃子は最高ですよ!餃子をやる時はご飯も出さず、餃子だけ!山本さんにも食べさせてあげたいなぁ、、、」

ぜひ!ぜひ!ぜひ食べさせてください! 宇都宮餃子、お店とは違う世界が、家庭に拡がっていそうである。4人前の餃子を平らげて1000円ナリ。(T氏にご馳走になってしまいました。ありがとうございました)

 まだまだ知らない食文化があるんだなぁ、、、素晴らしいことだ。