極上の日本酒をお燗で飲めるいい店が、こんなところにオープンした! 竹芝 「兼蔵」

2005年9月12日 from 首都圏

僕がしばらく前まで通っていた店が、茅場町にある五穀家日本橋店という店だ。何度も登場している工藤ちゃんという純米酒の伝道師とも言える男が初代店長で大ヒットした店だ。そして彼が店長を辞して新たな道を模索する中、五穀家の店長さんが短期間に数人代わり、なかなか店の経営も大変なんだなと思っていた。そこへ、きまじめそうな風貌にスーツをぴしっと着こなした、人当たりの柔らかい秋山君という店長が収まった。この秋山君がなかなかに真面目でいい感じなので暫く通っていたのだが、彼も辞めてしまったという。残念だな、俺が遊べる店が無くなったと思ったら、このブログを読んで彼がメッセージを暮れたのだ。

「やまけんさん、秋山です。実は自分の店を出しました。やまけんさんの大好きな日本酒も勢揃いしていますし、料理も自信があります。ぜひ一度おいで下さい!」

ということだったのだ!
新しい店は竹芝にあるということで、一度週刊アスキーの取材で近くに行った際に覗いてみた。そうしたら、商業施設の中にある店だったが、思ったより大店で丁度も格調高く素晴らしい!

「秋山君、よくもこんなに素晴らしい店を出したねぇ、、、」

「いえ、タイミングと運が良かったんです。ちょうど物件が出ていたので、思い切りました!」

この店を出店するに際しては、可能な限り外部の手を借りずに自分の手で行ったという。

「内装もメニューも、できるだけ自分で、もしくは自分のデザインでやりました!」

飲食業コンサルタントに頼んで、どこにでもあるような店づくりをすることを拒否するこの姿勢、気に入った。後日呑みに来ることを約束し、その日は去ったのである。

それから数ヶ月後、ようやく時間がとれた!
とある会社の方々とのビジネス飲みで、ぜひここに来て頂きたいとお願いしたのである。

■兼蔵
http://r.gnavi.co.jp/a231900/


ニューピア竹芝サウスタワーというビルの4Fにあるのだが、竹芝駅から通路を歩いていくと、若干わかりにくいので注意が必要だ。店は高級感もあり清潔感のある外観である。なにより、誇らしげな日本酒の冷蔵ケースが泣ける。

竹鶴、扶桑鶴、春鶯囀などの、僕が工藤ちゃんから習った旨い純米酒がずらりと並んでいるのである。

店内の内装も、モダンな民芸調でカッコイイ。デカイ壺とかが置物としてアクセントになっているが、これも秋山君の従弟の陶芸家によるものばかりだそうだ。皿も当然すべて一品物。

「いいお酒や料理を揃えることも重要ですけど、やはり来て頂いた人が幸せに感じるような丁度と食器がいいと思いますので、、、身内に陶芸やってる人が居るなんてのも、僕の運のよさなんでしょうけど、ありがたいんですよ。」


秋山君、五穀家時代よりも明らかにやつれているのが、店長としてのハードな仕事を物語っている。やっぱり自分の店を出すというのは凄く大変なことなのだ。

「やまけんさんの大好きな燗酒が飲めるように、お燗づけ機もありますし、燗徳利(かんどくり)も用意してます!」


おおおおお
これは嬉しいなあ。
燗徳利は、中にお湯をいれる中空スペースがあって、酒を注いで中に入れるだけでお燗をつけられるものだ。僕の家にもマイ燗徳利がある。純米酒が好きな人は必携である。

酒の品書きには、純米酒を中心にした品揃え。五穀家時代の付き合いだけではなく、取引する酒屋さんも横に拡がり、いい品揃えが出来ているらしい。

「すごい古酒とかも手にはいるようになったんですよ、、、あとで出しますね」

ま、まじ?
実は後で本当に驚倒するような旨い古酒をいただいたので、後述。

料理は和食を中心にしているが、創作系のものも多い。徹底して日本酒や焼酎に合うものが揃っている感じだ。

「いいねぇ いいじゃない! よくまあこんな店にしたなぁ」

「いえいえ まずは召し上がってから褒めて下さいね!」

というところにお客さんが登場し、宴席が始まったのである。

さて本日の主役は実はギネスビールである。理由はここでは述べられないのだが、とにかくギネスにあうメニューということで秋山君と料理長に頭をひねっていただいた。

ギネスはご存じの通りコッテリとしたビールである。僕の尊敬する人生の先生であるM女史いわく、

「ギネスはビールじゃなくてギネスなのよぉ」

ということだが、全くその通りである。しかし、世界観が完全に出来ているため、これに合わせる料理というとなかなかに難しい。アイリッシュバーでも定番のフィッシュ&チップスのように、油脂と濃い味が重なっているとよいな、と思う。それに加えて酸味が立っているものが、さらにギネスに合うと思うのである。

そう考えると、森下の山利喜の焼きトンのカシラ串(醤油ダレ)に、マスタードをタップリつけたやつなんか最高だ。しかし、和食での真っ向勝負となるとかなり大変なセレクションになる。

「色々考えた結果、セレクトした料理をお出ししますね!まずはヤマケンさんが懐かしいだろうとおもって、葱とじゃこ天のサラダです!」

おおおおおお
こいつは僕の大好物のサラダである。五穀家に通っていた時代には常に頼んでいたのだ。
万能葱をぶつ切りにしたのにタップリの鰹節とジャコを載せ、酸味の効いたドレッシングをかけた物だ。

無論味付け等は少し変えているけど、懐かしくてしょうがない。
ちなみにこのサラダ、万能葱の個性とドレッシングの酸味が強いので、思ったよりギネスに合う。

「次は、サメの軟骨の和え物です」


サメの軟骨?と思ったが、フカヒレみたいにツルツルコリコリとしたもので、なかなかに旨い。ギネスより純米酒と合わせて食いたいな、、、

次にきたのは舟盛りの刺身。マグロとカンパチのように脂が載ったものは、ギネスにも負けないな。ただしワサビをドロドロに効かせた方がいい。さて次はマグロの竜田揚げだ。

マグロは大型回遊魚で肉っぽいので○。しかも竜田揚げで油脂をプラスし、レモンの酸味を上からかけるので完璧だ。

まさにこうしたゴールデンな要素がギネスを呑ませるのである。お隣のフナハシさんにつられ、グイグイと行ってしまう!

さて
これも定番かも知れないが、米ナスの田楽だ。

田楽味噌がポイントだ。八丁味噌ベースにすると、独特の風味にコクと酸味が重なって、ギネスのまったりした旨味空間に突き刺さっていく。


しかもベースのナスは油で揚げているから、合わないはずがないのである。
続く海老のすり身の春巻きも、プリプリした海老の餡と皮だけだと柔らかいが、付け合わせがカレー塩なので、風味が強くなってギネスに対抗できるようになる。

さてこの辺で純米酒も飲みたいな、と言うと、秋山君がニヤリと笑って燗酒を持ってきた。

「こちらが山梨の純米酒「春鶯囀(しゅんのうてん)」です。」

春鶯囀は飲み慣れた酒だ。山梨の純米酒では最高に綺麗な飲み口で、好きな酒だ。けど、これならいつも呑んでるけどな、、、と思っていたら、その次があった!

「じゃあやまけんさん、その春鶯囀の9年古酒を抜栓しましたのでお飲み下さい!」


うお、なんだって?9年物の古酒か!
ご存じの方も多いだろうが、日本酒は状態よく保存すると素晴らしい古酒になる。深い熟成香が立ち、ふくらみのある味わいに変化していくのだ。

この春鶯囀の古酒、実に最高であった!保存が完璧になされていたのだろう、全くヒネ香がない!古酒とは思えないほどにクリアだが、全く角が立たないまろやかな飲み口だ!

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはすばらしいね!」

ギネスとは全く世界観の違う酒。この二つの対比が異様に面白かったのである。
さてここでぜひ頼んで欲しいのは出し巻き卵である。純米酒のアテに、実に合うのだ。

見事にぷっくりと焼き上げられたこの卵焼き、これも毎回僕が頼んでいたものだ。

少しだけ醤油をかけて旨味を足すと、もう堪えられない旨さだ。

仕上げはふっくら炊きあげられたアサリご飯だ。
ギネスの、二次元的に拡がる旨味には、しっかりと味付けされた炭水化物方がいい。そういう意味で炊き込みご飯は佳いチョイスだ。

残念なことに、食べることに手一杯で写真を撮れなかったが、この後にパスタをいただいたのである。実かこの店の料理長、パスタが最高に旨い!ちょっとビックリするようなのが出てくるので、ぜひパスタを食べてみて欲しい。

「いやー 堪能したよ!いい店じゃないかぁ」

「そうですか、喜んで頂けてよかったです!」

旨い純米酒の燗がきちんと呑めて、気の利いた料理も出て、しかもリーズナブルな値段。そういうまっとうな居酒屋がまた出来たことが嬉しい。竹芝はゆりかもめに乗らないと行けないのでちょっと不便かも知れないが、逆にいつも行かない場所で落ち着いて呑むのもいいではないか。しかも桟橋があるから、夜景デートも可能だ。

秋山君の新しいチャレンジをぜひ応援したいと思う。ご馳走様でした!