お料理ジャイアン・小池君が鍋を振る。東京バルバリは進化しているのダ。

2006年9月 4日 from 首都圏

「日本橋ぼんぼり」から「東京バルバリ」に改称して、それまでのグランドメニュー重視型から一気にお料理ジャイアンこと小池シェフの「本日のお奨め」中心の店に変わっていった。どう見てもものすごい技巧が凝らされたイタリアンなのに、値段は居酒屋価格というアンバランスさを魅力に進撃が続いている。

この日は昼飯にも小池君にお願いをして、小さいコースを作ってもらった。山梨から凄腕プログラマーであるひでぼさんが上京していたからだ。

「こんなのはうちの方じゃ出す店がないなぁ」

と喜んでいただいた。さて夜の部はいかに。

■昆布〆めした平目、フレッシュトマトソースとジェノベーゼ、ケイパー添え

フルーツトマトとオリーブオイルのシンプルなソースと、ジェノベーゼを併用するのは小池君が多用する組み合わせだ。平目も刺身の状態では全く起伏が無く面白くないはずだが、塩を含めた昆布締めによってソースとの相性が出て絶妙に食欲をそそる。

■パプリカで包んだメジマグロとアボカドのタルタル

柿の実か?と思ったがパプリカ。これを崩さないように包んでいただく。これまた彼が多用するジュンサイの食感が面白い。そして、添えられている菜をかじってにわかにビックリした!

これ、わさび菜じゃんか!

「あっそうです。わさび菜です、面白い味ですよね」

わさび菜は、リーフ野菜なのだがわさびのような大根のような、イソチオシアネートの辛みと揮発性の香り成分が含まれているものなのだ。最近、癖のあるリーフ野菜の食べ比べをしたのだけど、このわさび菜は、ミキシングしてジェノベーゼ・ソースに出来るほどの強い味を持っているのだ。こんなの使うとは、小池君もマニアックである。

そして次のさらがこの日一番のお気に入りとなったのだ!

■だだちゃ豆のパンナコッタとトマトのムース 蟹肉をのせて

これは素晴らしい!
だだちゃ豆をフードプロセッサーでどろどろにしたものにミルクを加えてパンナコッタにし、セルクルで抜いたトマトのムースのうえに乗せ、蟹肉どさっ、トンブリとシブレットを乗せる。薄緑色のパンナコッタを口に含むと、だだちゃ豆特有の香りと濃厚なうま味、それをトマトの酸味が立体的にふくらませてくれる。最近食べた中でピカイチの一皿だ。

■早松茸とハモのインボルティーニ

具を魚や肉で包みコロッケのように料理したものをインボルティーニと言うが、こんな豪華なインボルティーニは初めてだ!

早松茸のブリブリした食感と、まだ控えめな香りがハモの荒い肉と合う。コンソメベースのソースだとイノシン酸のうま味が強すぎるので、もうちょっと昆布ベースのグルタミンを含むソースにしてもらえるともっと旨いと思う。

■バルバリ種の鴨のソテー

この料理、詳細な説明は聞けていないのだが、ムチャクチャに手の込んだ皿だ。表面と皮目を強めに焼き上げた後、ベンチタイムを置いてロゼにしあげた鴨(茨城県の西崎ファームのバルバリ鴨だ)を大きめのさいころに切ったものに、ジャガイモ、そしておそらく鴨肉のレバーや内臓、セセリなどをミンチにしたものをさらに炒め、ソースのベースに混ぜている。もはや何料理だか全くワカラン。

が、

旨い。

みてのとおり鴨の絶妙な熱の通り加減、ミンチ肉のそぼろが含んだうま味の相乗効果、構成要素に見当のつかないソース、どれもこれもがオリジナルだ。

しかしこの重い一皿の次に出てくるのが、これなのだ!

■青森の短角牛のカツレツ

2切れに押さえているのが彼の良心だろうか(笑)

「パスタはどうします?山芋のニョッキがありますけど」

うん、食べるよ、と言うと、また法外な分量が出てきた。

■山芋のニョッキ

ニョッキは数個で、その周りがすごいじゃないか!
鮫の軟骨がタップリ入って、クリクリした食感とスープを吸った濃厚な味わい。山芋ニョッキは表面がカリっ中がトロンとして、不思議な食感。

そして、僕が最近一番気に入っている料理、鮎とハモのスパゲッティが出てきた!

■鮎とハモのスパゲッティ たで酢添え

これ、一度食べたときに思わず立ち上がってしまった一品だ。鮎とハモがちらされたさっぱり目のアーリオ・オーリオと思いきや、あまりにも濃厚な味わい、ケイパーの酸味がしっかり効いた、シチリアっぽいパスタだった! ほのかな苦みとうま味は、鮎のはらわたから出ているんだろう?と訊いたら、小池君がニヤっと笑って厨房から茶色のペーストが詰まった瓶を出してくる。

「鮎を大量にさばいて、はらわたを塩漬けにしてるんですよ」

うるかとアンチョビの双方のいいところをとったようなペーストである。これを味のベースに使っているのか!

しかもこのパスタに着いてくるたで酢をかけると、さらに酸味とさわやかな苦みがプラスされて、味の広がりが一気に三段階くらい上がるのだ。

こいつはマジ旨。〆のパスタはコレに決定だ。ただ、この日は小池君がはりこみすぎて「鮎の実二匹分ぶち込みましたから!」というのだが、逆に魚のタンパクが多すぎてバランスが悪かった。具は少なめの方が旨いようだ。

デザート盛り合わせは栗のアイスクリーム、黒ごまのトルタ、紅芋酢のジェラートなど。栗のアイス旨し!

いや
やはり小池節はすごい。考えられないような組み合わせの料理がポンポンと出てくるのだ。
実は小池君、もうすぐ結婚が控えている。不肖わたくしめもスピーチをすることになっているのだが、光栄なことだ。京橋の奇跡といえるこの店、ずっと続けていって欲しいと思う。