日本経済新聞の農業に関するコメントは本当に腹立たしい。

2006年10月30日 from 日常つれづれ

以前から数回言及しているけれども、日経新聞の農業関連の記事というか視点はあまりにもレベルが低く、偏向している。本日の一面記事「成長を考える・第一部 もっとできる」を読んで、読者を誘導する動きにあまりに腹が立ったので、食い倒れとは関係ないけど書いておきたい。

中段くらいに「規制緩和で経済底上げ」という小見出しがある。その後に語られる部分で、ブルーベリー畑を造成し農業に参入しようとしている建設業者の例を引いた後、

「改革の波が及び、規制緩和が進めば当事者は生き残りをかけて動き出す」(同記事より引用)

とある。これは日経新聞や経済界がよく使うフレーズで、農業についてもいつもステレオタイプにこのようなことを書くのが通例だ。しかし、事例解説の中で「農業の規制緩和で異業種参入が容易になった」とあるが、そうした異業種参入で成功している事例がどのくらいあるのか、記者は理解しているのだろうか。ワタミファームさんなど、農産物を販売する出口を持っている企業が成功しているのが目立つくらいで、異業種参入組が全て規制緩和のおかげで利益をだしているという図式は日本にはまだ成り立っていない。

それより大事なのは、この後の記事の書き方があまりに見え透いた世論誘導になっていることだ。

「その産業の生産性があがるだけではない。軸足を国内農業の保護などから自由化に移し、市場を開放すれば、貿易量の拡大を通じて他の産業を含む経済全体が底上げされる。」(同記事より引用)

まず「その産業の生産性があがるだけではない」と書いていることで、読者は「規制緩和で生産性は上がるんだな」と判断するだろう。ここが引っかけになっている。農業に関しては、「規制緩和」といわれているものによって生産性が向上した事例は無い

だいたい規制緩和と言っているのは、何を指しているか全くわからない。これまでも農外の異業種が農業に参入することは可能であった。ただ単に農地を所有することが難しいというだけであって、農業をすることが目的なら、借地で農業はいくらでもできたのだ(この辺は長くなるので割愛する)。

それに続く

「軸足を国内農業の保護などから自由化に移し、市場を開放すれば、貿易量の拡大を通じて他の産業を含む経済全体が底上げされる。」

は、「農産物貿易の自由化を受け入れれば、工業製品等をこれまで以上に輸出できるので、経済的にはメリットが出る」ということである。この新聞はやはり経済のことしか考えていないのだな、ということがよくわかった。

BSE問題や鳥インフルエンザ問題を丁寧に観ていけば、今日、国際的な流通の枠組みの中で、自国の安全基準を満たした食糧を確保していくことが大変に難しくなってきていることがわかるはずだ。おそらくこの記事を書いた記者は、日本農業を縛っている規制(一体何がその規制なんだろう)の緩和をどんどん進めれば、経営能力に長けた農業経営者達の参入が興り、今までより安価で安心できる食品を提供できるだろう、それでまかなえない分は国際的に輸入すればいいという脳天気なシナリオがあるのだろう。

そんな楽観的な未来が本当に来ると思っている人が、果たして農業関係者および食品事業者の中でどれくらいいるんだろうか。

日経新聞がこうした傾向を持っていることは、それはそれでスタンスなのだろうけど、「農業は規制緩和すればうまくいく、国際的に市場開放すればうまくいく」という書き方で世論を誘導するのはやめてほしいものだ。正面きって「農業は日本ではプライオリティ低いんじゃないの?」って書けば潔いのに、そう書くと非難されるから、世論誘導型の記事を書くのだろう。全く腹立たしい。

それともう一つこの記事について。
福岡県の女性が制御板の設計システムの仕事をしている写真が掲載されているが、この女性の紹介のされ方が「農園で畑仕事を営む」とされている。写真の見出しには「畑仕事の合間に」と書かれている。これも「畑仕事の合間に、こんなに生産性の高い仕事をやっている」という、農業を揶揄するような意地の悪い書き方のように思うのは僕だけだろうか。 そうかもしれない。僕はこの記事については相当頭にきているからなー

日本という国は先進国中、自給率が最下位(40%)だ。同じ島国のイギリスでも日本より遙かに高い(70%程度)。一方、スイスやシンガポールといった、耕地面積が非常に少ない国は、食料輸入先諸国との関係良好化を図っている。 一方、日本は何をしているというのだろうか。

やっぱり僕には日本経済新聞の農業関連情報は信じられない。

「食卓の向こう側」という超・名連載記事を書き続け、食が直面している問題を冷静に大きく採りあげ、そして継続的なシンポジウムを開催してきた西日本新聞社とは偉い違いである。