飛騨高山はただの観光スポットではない! 実にハートウォーミングな人々の生息する、愉しい食の満載空間であった! その2

2007年6月19日 from


さて、繁華街の裏路地にあるこの店、看板を撮影してくるのを忘れたので店名がわからないが、「ここ、けっこう穴場なんです」

とT君が言うように、ほぼ地元の人しかこなさそうなカウンターだけの店だ。

みなお茶漬けを粛々と頼む。僕はミックス茶漬けになめたけ入りという全部いれバージョンを所望する。

店の若旦那と会話が始まると、これがまた予期せず面白い方向に発展した。

「このからし豆腐ってなに?」

「ああ、この辺の人たちはね、からし豆腐を夏にたべるんだよねー。プリンみたいな豆腐の中に芥子が仕込まれててね、崩しながら食べてもよし、芥子の部分をガブリとやって泣いても美味しいものなんですよ(笑)」

ほおおおおおおおおおおおおおお
なんと風流な。それは食べてみたい!
この辺から食欲中枢がまたもや蠢き始める。

「じゃあね、からし豆腐ちょうだい!」

「え、まだ食べるんですかやまけんさん、、、」

「あのねぇ、気になったモノは速攻で頼まなきゃ!一期一会なんだよ!」

と訳のわからぬ理屈をほざきながら、旅情食欲がまたもや頭をもたげ始めたのである。

運ばれてきた、これがからし豆腐だ!

まさにプリンのような形状の冷や奴である。

「それを縦に切ってぱくっと食べてみてください」

と言うのをやってみると、、、

ヅン、と鼻の奥に刺激が炸裂する!

「ヴお、芥子だ!」

と、わかっているのになんだか嬉しい刺激が、眉間にしわを目一杯寄せさせる。

このようにプリン様の豆腐の中に、黄色い和辛子が詰められているのである。実に実に、風雅な食べ物ではないか。

「ふうん、外から来た人にはこんなのが珍しいですかねぇ?」

と若旦那が不思議な顔をしながら、嬉しそうだ。

「前の店で肉を食べていらしたっておっしゃったから控えてましたけど、この飛騨高山あたりの旨いものをちょこちょこ出しましょうか?」

「いやー もう遠慮無くやっちゃってください!」

この運び、嬉しいではないか!

「じゃあ、焼き茄子食べてみますか? この辺じゃ飛騨茄子っていう大きな茄子が主流なんですけど、焼いた中に味噌を詰めて食べるんですよ。」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおお
旨そう!それはぜひお願いします。

程なくして焼かれてきたそれは、こんなプレゼンテーションであった!

なるほど、写真だと対比物がないのでわからないだろうが、通常の千両茄子の二本分くらいはありそうな大柄な茄子だ。丸ごと焼かれているが、腹が割られていて中に詰め物がしてあり、その上に鰹節が載せられている。

「その裂け目をがばっと開けちゃってください。」

というのでがばっと開けてみる。すると、甘く香り高そうな味噌が、顔を覗くではないか!

長葱と和えた甘味噌が縦に詰められているのである!
いやーこれは素晴らしいね。焼き茄子好きには応えられない。でも、今思うとこの焼き茄子を焼くとき、厄前に味噌を詰めるのか、それとも焼いた後に味噌を塗り込むのか、その手順を聴いておくべきであった。おそらく焼いた後に切開し、味噌を詰めるんだろうが、、、

これを、焦げた皮はそのままに、箸やスプーンなどでこそげながら食べていくのである。この飛騨茄子という大ぶりな茄子は、肉質はそれほどミッシリと詰まっている感じではない。おそらく膨満な柔らかい茄子だろうと推察する。いずれ再訪し、茄子の樹も見てみたいものだ。

そうそうこれを忘れてはならない。飛騨高山の定番・漬物ステーキだ。

じゅおおおお と焼けた鉄板で白菜などの古漬けが炒められたのに、溶き卵が廻しかけられ、じゅぶじゅぶと沸き立つのを供される。これを手元でかき混ぜていると、玉子が漬物に絡まりながら半熟状に熱せられるのである。こいつはやっぱり酸っぱくなった古漬けで作らないとダメ。乳酸発酵の酸味が玉子で和らげられ、これに醤油をかけながら食べるのが堪らなく酒を誘うのである(呑まなかったけどね)。

「あとはね、、、時間があるなら、山芋焼きをしましょうかね」

といって作ってくれたのが、山芋のすり下ろしを鉄板でふんわりカリッと焼き上げたものだ。

これもまた表面はトロトロ、鉄板との接面はカリッと焼かれており、そのコントラストが口中に心地よい。


さて
この店に来る前、繁華街をうろついていたときに、やけに気になる看板があった。それは「半弓道場」。半弓って、あの弓矢の半弓だよね。その店の前を通るたびに、中でドスっという音がしていた。

「きっとあれは、ダーツみたいに半弓を置いた飲み屋なんだろうなぁ」

と話していたら、若旦那がいやいや、と首を振る。

「いえ、あそこは本当に半弓を射るだけの道場なんですよ。僕なんかは入ったことがないんですけど、ぜひ遊びに行ってください!」

へえええええ
本当に弓の道場なんだ。でも、旅行者が入っていいの?

「あ、道場っていっても、300円で10本の矢を射ることができるっていうシステムなんです。誰でも遊べますから」

若旦那のおやじさんらしいこの店の大将も、「あそこは昔、大おばあちゃんがやってたのを、いまのばあちゃんが引き継いだんだよ」と、無性に歴史心を誘うことをいう。

「よっしゃ、じゃあ行ってきますよ!」

どうだろうか、この店構え。これが繁華街の小路地にあるのだ。ちょっと敷居をまたぎたくなってしまうではないか。
引き戸を開けると、、、
うわー 本当に半弓の道場である!

彼方に見える的に向かって、10本300円の矢を射るのである。
半弓はもちろん貸して貰う。

体力にあわせて、弱~強というように、弓の張りの強さが分かれている。
さてここから先は、正直なところ、半弓があまりに面白すぎて写真など撮っている余裕が全くなかった。なんて奥が深いんだ!
僕の場合、ゴルフの打ちっ放しで何回打っても右に飛んでいってしまうかのごとく、的の右横にしか当たらない。変な風にカーブしてしまうのだ。それを尻目に、「バスッ」といい音をさせて的に命中させるNECの広報M女史。カワイイ顔してやるじゃないか。T君も一本しか的にあたらず。テクニカルライターのI女史は一本もあたらず。いやー難しいわ。

僕らが10本を射終えた後、サラリーマンらしき集団が入ってくる。僕らが「いやー面白かった!」というのを聴いて、中の一人が「観光でいらっしゃった人?」と声をかけてくれる。

「いやー いきなり入ったとしたら、ラッキーでしたよ! この店、おばあちゃんの具合がわるくてしばらく閉めてたんだから。今日飲みに来たらいきなり空いてたから、僕も驚いたんだけど。いや、愉しんでもらえて好かった!」

と、握手を求められた!

飛騨高山に来て、なんとなく感じていた心地よさが何に由来するのかがよくわかった。みんな、地元の人たちがフレンドリーなのである!そのフレンドリーさは、観光客に対してへりくだっているものではまったくなく、自分の家に招き入れているかのような、そんな自然な暖かみを感じるものなのだ。

そういえば先のお茶漬け店の若旦那、嫁さん、おかみさん旦那さんもホスピタリティに満ちあふれていた。そしてこの半弓道場を後にして道を歩いていると、決定的なことが起こった。

後ろからチリンチリンとベルを鳴らして、自転車に乗ったおじいさんが来る。そのおじいさんが

「すみませんねぇ~ ごめんなさい、お休みなさいねぇ~」

と、道をあける我々に声をかけていったのである。おそらく現場にいたものしかわからない空気だろうけど、そのあまりに自然に発せられた緩やかな、柔らかい挨拶に、本当にノックアウトされてしまったのだ。挨拶をされただけで、心がホワッと柔らかくなる。それが、まったく無償のものなのだ。

恐るべし、飛騨高山。この地のキラーコンテンツは、まさしく観光地然としていない地元の人の空気なのではないか。

最後、飛騨高山ラーメンの有名店である「甚五郎ラーメン」へ。

ここはカレーも有名だというので、ラーメンとカレーを所望。

甚五郎の高山ラーメンは縮れの強い細麺に、濃厚な醤油スープ、かなり旨いチャーシューが乗った好感の持てる味。呑んだ後にグルタミン酸を摂取するのに最適な味である。
そして存外に、カレーがいけた。なんとキーマカレーである!

もうこの辺で僕も限界がきつつある。手ブレご容赦。

いやー食った食った。
道に迷いながら陣屋などを眺め、ビジネスホテルアクティへ戻る。最上階の温泉に浸かりながら、明日は朝早く起きて朝市に行こうと決心したのである。