ベスト・オブ・酢が完成した! 飯尾醸造の「富士酢プレミアム」 本日から開催の日本橋高島屋にて初・お目見えだ!

2007年10月31日 from 食材

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とうとう、「富士酢」の飯尾醸造が心血を注いで開発した「富士酢プレミアム」が登場する。
正式には明日11月1日から、飯尾醸造のオンライン販売と、一部業務用のみで発売ということらしいが、全国に先駆けて、本日から開催される東京の日本橋高島屋の催事で販売するそうだ。もし、日本橋近辺に所用のある方は立ち寄っていただきたい。飯尾家の三人(お母さん、彰浩君、妹さん)が迎えてくれるはずだ。サンプル舐めるだけでもいいからまずは足を運んでみて欲しい。とにかくこのお酢は素晴らしいのだ。
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このお酢の開発は昨年から始まっていた。飯尾彰浩君は、一昨年に僕と仲間とで開講した「就農塾」に通ってくれたことで仲良くなったのだけど、僕自身は「富士酢」を学生時代から使っていたこともあって、とびきりの緊張で彼を迎えたものだ。だって、飯尾醸造の富士酢といえば、コストの高い無農薬の米を集荷し、きちんと自前の蔵で日本酒を醸造し、その酒をすべて酢にするという、本当の酢作りをしていることで有名だった。俺たちの私塾に来るまでもないじゃんよ~、と思っていたのだ。

でも彼は「いえ、私たちと契約していただいている農家の方々の気持ちをもっと知るためにも、農業の多面的な要素を勉強したいんです」といって、はるばる京都府の日本海側に位置する宮津から毎週やってきてくれたのだ。

以来、週刊アスキーの取材も含め、飯尾醸造には足を運ばせていただいた。

稲刈りの季節には、彼らが借りている棚田に蔵人が総出で作業をしていた。

蔵人の中に混じっておっちゃんがいるなあ、と思ってよく観たら、なんと飯尾社長であった!

社員に率先して農作業をする社長。こうでなくてはね!

ちなみに、消費者は気軽に「無農薬がいいね」と口にするけれども、この日本で本当に無農薬で野菜や米を作っている人たちはそんなにいない。無農薬という超ハイリスクな栽培方法を実行するには、きちんとそれを買ってくれる先がなければならないからだ。しかも、無農薬栽培された米や野菜は通常、そのまま生食用として消費者の口にはいるのが普通だ。

それなのに、この飯尾醸造では、自分たちの手で栽培した貴重な無農薬米を、惜しげ無く酢にするのである!強い意志がなければできることではない。ちなみに、飯尾醸造の基幹商品である「富士酢」の商品ラベルには、側面の細かい説明部分に「農薬を使わない米で~」というように記述されてはいるものの、大きな商品名ロゴの部分にはどこにも無農薬を謳っていない。

「無農薬をウリにしているわけじゃないんですよ」

という潔い心に、なんだか我が身を振り返ってしまったのであった。

ちなみに、酢の瓶によくJASマークが付いているのをみかけるだろう。
なんとなくJASマークが貼っていれば品質が保証されている感じで安心、と言う人も多いだろうが、酢のJAS規格はかなり人を小馬鹿にしたものだ。だって、1リットル中にたった40gの米を使っていれば「米酢」と表示することができるのだ。40gの米って、本の手のひらに載るくらいだ。そこから酢の素となる酒を醸造して、はたして1リットル超の原料をとることが出来るだろうか?JAS規格では、米から造った酒以外に、醸造用アルコールを添加しても、先の米40gを満たしていればOKなのである。

一方、富士酢に使われているのはなんと200gである。それくらい使わないと、米酢といってはいけないんじゃないだろうか。

さて飯尾醸造の蔵に入ると、半年以上も酢を寝かせた発酵タンクが並んでいる。

蓋を取ると、酢酸菌の膜がブワッと拡がっているのをみることができる。

彼らがこだわるのは「静置発酵」だ。醸造した日本酒に酢酸菌の膜を入れると、菌がアルコールを酢に変えながら増殖していく。この期間を数ヶ月を費やし、静かに置いておくのが「静置」発酵というわけだ。一方、大手メーカでは、酢酸菌を添加した後、ばんばんエアーを送り込んで強制的に発酵を促し、早ければわずか一日で酢を造り上げてしまう全面発酵という方式が主体なのだ。

スーパーで特売されている安価なお酢製品は、そうやって造られている。

飯尾醸造では、こうやって時間をかけて醸されたもろみを、いわゆる舟で絞っている。

最近、飯尾醸造が力を入れているのが果実酢だ。

無花果(いちじく)や石榴(ざくろ)、りんごなどの原料類は、ほぼ無農薬、最低でもまたは減農薬の原料を使用している。僕自身は、農産物は必ずしも全てが無農薬である必要はないと思っているが、そういうこととは別次元で、お酢商品の原料素材に無農薬品を使うことの難しさを知っているだけに、飯尾醸造の凄味がじんわりと伝わってきてしまうのだ。

ちなみに
しばらく前にNHKの「プロフェッショナル」で放映された、日本でおそらく唯一の無農薬リンゴ農家である木村さんという方がいる。放映以来、いろんなところから引き合いが来るそうだが、量的に限りがあるので早々出荷は出来ないはずだ。しかし、飯尾醸造ではずーーーーーっと昔から木村さんとお付き合いをしていて、木村さんのリンゴで酢を造っているのである。無農薬・減農薬栽培の世界では独特な人的ネットワークがあるのだけど、英雄は英雄を識るということなのである。

ちなみに

飯尾君のお母さんがつくる、焼き豆腐とニンジンの炊き合わせ、最高である。また、食べたい、、、

さて
前置きが長くなったけど、この飯尾醸造が世に問うのが富士酢プレミアムだ。
いままでの富士酢の倍の価格(900mlで2058円)となるこのお酢、もの凄い酢だ。何がスゴイって、先に述べたJAS規格では米酢表示のためには40gの米を使えばいいが、この富士酢プレミアムではなんとその8倍の320gの米を使っている。つまり、原料米の使用量が段違いに多いのである。
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その詳しい製法は企業秘密らしいのだが、そのヒントは彰浩君から教えて貰った(もちろん書けない!)。
それによって、これまでの富士酢が持っていた最大の弱点が克服されたのだ!

その弱点とは、とても皮肉なものだ。
富士酢は米をたっぷり使って、時間をかけて発酵したものだ。だから、JAS規格のように米を40g程度にして、全面発酵法で速醸で造り上げた酢にくらべ、旨み成分のアミノ酸を多量に含んでいる。対して全面発酵の安い酢は、舐めてみると一瞬酸味がブンッと感じ、その後は味が切れる(というか、そもそも酸味以外の味がほとんどない)印象がある。

消費者によっては、速醸酢の方が「酸味があってあっさりしていて美味しいわ」という人も多いのだ!
これは好みのものだし、圧倒的に安い速醸酢を子供の頃から使っていれば、そちらの味になれてしまうのは当然だ(実際、我が家でもそうであった、、、)。
しかも、富士酢には、時間をかけて静置発酵した酢に特有の、グッとくる香りがある。その香りこそが本物の酢の証明なのだが、それがない速醸酢のほうが「クセがない」と評価されることもあるのだ。

飯尾君とは東京でいろんな店を食べ歩いたが、その先々で店の人に彼を紹介してお酢の話しをすると、

「うちはねぇ、○○酢を使ってるのよ。とっても甘くてさっぱりしてて美味しいのよねぇ」

と、実際は静置発酵も、それどころか自前の蔵での醸造もしていない速醸酢メーカの名前を挙げる人が実に多かった。お酢の世界は、実はかなりヤバイ。地方の蔵でも、大手メーカから原料酢を買い入れて、そこにいろいろ添加したり、仕上げ工程だけを自前でやって瓶詰めし、「昔ながらの方法で醸造しています」と銘打つメーカが非常に多いのだ。

そんな反応が返ってきた時も飯尾君は何も言わず「そうですか、ぜひうちのお酢も試していただけますか」とサンプルを置いて帰るのだった。内心、とても悔しい思いをしていたはずだ。「そのお酢は、、、」と言いたかったはずだが、店の人の気持ちもあるし、なにより同業に対して心ないことはしたくないという彼の気持ちが痛いほどに伝わってきた。

そういうことから、彼の中で「消費者が富士酢よりも速醸酢の方が美味しいと思ってしまうような弱点を、克服したい」という気持ちがムクムクとわき上がってきたのだろう。

実は彼が東京農業大学の醸造科に籍を置いている時にかれが卒論のテーマとしたのは、富士酢の香りを和らげる醸造技術の開発だった。

その結果、、、

「結論として、米を遺伝子組換えしない限り無理だということがわかりました(笑)」

ということになったらしい。
しかし数年前、まったく別の方法で、それを克服する方法を発見したのだ!
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富士酢プレミアムは、JAS規格の8倍量の米を投入し、静置発酵で寝かすことで、速醸酢には出しようもない旨み成分を含む酢だ。そして通常の富士酢と違うのは”香り”だ。上品で甘やかな、ゴージャスな香り。初めて彼に、ラベルも貼っていないサンプルを送ってもらったときは、心の中で喝采をおくったものだ。

900mlで2058円という価格を「なんて高いお酢!」という人も必ずいるはずだ。
でもね、それは違いますよ。
いい加減な手法で造られた安価な酢が多すぎるのだ。
まっとうにお酢を造ったら、そんなに安いものにはならない、と考えるべきなのだ。
お酢飲料が流行っているようだけど、その中で使われているお酢の組成に気を留めた人がどれだけいるだろうか。むせ返らないのがいいお酢、なんていう曖昧な価値基準しかもっていないと、足下をすくわれてしまうと思う。

富士酢プレミアムの原料表示をよく観てみるといい。
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「原材料:米」

この1文字に込められた思いの深さは、とてつもないものなのだ。
そういうことなので、今日から数日間で開催される日本橋高島屋の催事、ぜひ足を運んでいただきたい。
彰浩君、新しい酢の誕生、本当におめでとう!