ふたつの専門流通団体 「大地を守る会」 と 「らでぃっしゅぼーや」の立ち位置を考える

2008年11月24日 from 農村の現実

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土曜日の朝日新聞朝刊にて、大地を守る会の藤田会長がどでーんと大きく掲載されたらしい。藤田会長とは、僕が大学生の時からおつきあいさせていただいているので非常に長いのだが、最近では社会起業家として、いろんなメディアを賑わせているようだ。

そして、いやー とうとうかぁ、、、というニュースが、先日もたらされた。

らでぃっしゅぼーやがJASDAQ上場の最終段階に入ったということだ。

同じ時期に、この二者が、対照的なニュースとして採り上げられているのが興味深い。

特にこの時期、このタイミングでらでぃっしゅが上場というのは、今後の食の業界の動向をうらなう意味でも非常に大きな意味を持つと思う。

 

らでぃっしゅぼーやの動静に関しては、ここ数年ホットだった。もともと日本リサイクル運動市民の会というNPOの活動から生まれたこの会社は、有機・特別栽培農産物や、無添加食品等をメインの商材として、創業当初から個人宅への宅配サービスを行ったパイオニアだ。

この業界で最も古くからそうした事業を展開しているのは、「大地を守る会」だが、大地の方は当初、生協のようなステーション制(地域でグループを組んで、そこに一括してドサッと荷物を届ける。グループのなかで分配する)だったと聴く。宅配に重点を置いたのはらでぃっしゅだったということだ(もちろん現在では大地も宅配中心だ)。

初期のらでぃっしゅぼーやの代表を務めていたのは高見さんという人と、徳江さん。徳江倫明さんは僕の師匠のような人であることはこれまで再三述べたとおりだ。その徳江さんが離れた後のらでぃっしゅぼーやは、青汁のキューサイに買われることとなった。その時、新しく社長に就任した緒方さんに、徳江さんと一緒にお会いしたことがある。博多のイカの活け作りを食べたが、やたらめっぽう旨い店だった。なかなか味には確かな方であった。

その後、2006年にキューサイからMBOの形で独立。筆頭株主はなんとベンチャーキャピタルのJAFCOである。このあたりで、以前から有機・無添加食品の関係者の人達から、

「そりゃぁ やばいよなぁ、、、ベンチャーキャピタルなんて、高く売ることしか頭にないんだから、、、らでぃっしゅぼーやの理念とか、どうなるんだろ?」

とささやかれた。この間、いろいろとリストラがあったり、昔から付き合いの深かった事業者が離れていったりということもあったようだ。現に僕も、「らでぃっしゅとはもう付き合いたくない」と離れていったメーカーさんを知っている。

らでぃっしゅの内部にいる同世代の友達と会って話をしている時も、

「うーん、、、 俺たちにできることは、いまやるべきことをやるだけだよ」

というなんとも辛そうな言葉が出てくることが多かった。それでも、以前かららでぃっしゅぼーやを支えてきたコアな若手メンバーはきちんと残っていて、踏ん張っているようだ。

先日、らでぃっしゅの生産者団体であるRadixの会の東北集会に行ったとき、僕は変わろうとしているらでぃっしゅと、その変化にどう対応しようかと牽制する生産者の丁々発止のやりとりを観た。それはある意味、健全なやりとりだったと思う。僕の友人でもあるらでぃっしゅの農産課長は、数字をあげなければならないという会社の方針と、生産者たちとの信頼関係をなんとか両立させていこうと、ズタボロになりながら歩いていこうとしているようだった。

生産者団体であるRadixの会の代表である河野和義さんがこんなことを言っていた。

「我々はらでぃっしゅぼーやと取引をしているんじゃない。取り組みをしているんだ!」

単なる物品の売買ではなく、佳いものを作ることと、その生産を支えることを組ませるということだ。僕はこの言葉に感動した。Radixの会は日本でも有数の生産者団体だと思った。

らでぃっしゅぼーやの商品配送を行うRadicleの会の素晴らしさにも触れた。らでぃっしゅの会員9万6000会員への配送は、数社の運送会社が分担している。その運送会社がRadicleというチームを組んでいるのだが、単なる配送だけではない、ココロの配送とでも言うべき取り組みをしていた。

らでぃっしゅぼーやが上場することを待ちわびてきた株主達も多いだろうけれども、らでぃっしゅぼーやの素晴らしい要素が上場によって無くならないように、心から祈るばかりだ。

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「安心できる食」を販売する企業が上場するということは、いったいよいことなのだろうか?と考えたときに、まず頭に浮かぶのは大地を守る会の立ち位置だ。

学生時代に藤田会長に会ったとき、こんなことを話してくれた。

「大地を守る会はね、3者から成り立ってるんだ。まず消費者、そして生産者。そしてこの中間で両社を取り持つ大地。そして、消費者も生産者も、まずは大地の一口株主になってもらう。そうすれば、株主のために大地が働くということになり、消費者も生産者も等価として、双方のために働くことになるんだよ。」

僕はこの言葉にドキューンとしびれた。

今、この日本では、誰も疑問に思うこともなく「消費者のために」という言葉が舞い踊っている。けれども、そんな消費者中心主義はここ20年くらいの間に醸成されてきたものであって、おかしなものだ。「消費者のため」を追求すれば、全てのモノやサービスはタダとなるしかない。そしてどんな企業活動も成り立たなくなる。まさに今、そうなろうとしている。「新鮮で、美味しくて、しかも安全で、それでいて安いモノ」なんて存在しないのに。

けれども大地の理念は、「消費者」だけでもなく「生産者」だけでもない。まして「流通」だけでもない三者の関わりとしてあるのだ。

ちなみに、この一口株主制は現在ではとられていないようだ(商法上難しいらしい)が、理念としては変わっていないはずだ。

 

上場するということは、「株主のために」事業をするということになる、と僕は認識している。株主にはいろんな人達がいるだろうけれども、JASDAQに上場するという場合、純粋に経済活動から得ることができる利潤を期待する人達がメインの株主になるのだろう。

そうなった場合に、「安心できる食」を提供することや、「生産者との正しい関係性の維持」といったものが第一義になるのか、非常に不安である。これまで多くの企業が利益追求の末、そうした旨を捨てていっている状況をみれば、この不安は根拠のないものではない。

そういうわけで、らでぃっしゅぼーやが上場した後、これまで通りのらでぃっしゅぼーやであり続けるのか、もっと良くなるのか、そうではないのか、非常に注目すべきことだと思う。

個人的には、たくさんの友達がいることもあり、いい上場になって欲しいと願う。

頑張れ、モリサキ。