祇園の割烹を堪能。まるで体液のようにシュッと染みこんでいく出汁の旨さに思わず嘆息する瞬間だったのだ!

2008年12月11日 from 出張

 

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週末、ある用事にかこつけて、北千住バードコートの野島さんご一行の 京都味巡りの旅に同道させていただいた。久しぶりに野島さんと旨いものを食べに行くツアー。のじさんのお薦めは、いままで外れたことがない。僕がカバーしない分野を教えていただくいいチャンス。勘定がいくらと出てもあわてないよう、現金を握りしめて京都に向かったのである。
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のじさん、すたすたすたと錦市場の包丁・料理道具店「有次」に入っていく。
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「銅製の卵焼き器が欲しくてね」

とじーっと観ているので、包丁をみようとケースに向かうと、、、

「やまけん!」と袖を引く人が。んん?と思ってみてみると、なんと!僕の親友・のざけんが京大在籍中に姉貴分と慕い、飯を食わせてもらっていたAさんではないか!

「な、なんで???」

と驚いたが、いまはここ有次に勤めているとのこと。世の中、どうかしてる。こんなに広いのにこんなに狭い、、、

せっかくだから、嫁さんが欲しいというペティナイフを買うことにする。なんと有次では、ペティナイフであっても、職人さんが目の前で仕上げ研ぎをしてくれて、しかも自分の好きな言葉を彫り入れてもらえる!
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嫁さんが使うものなんだけど、なぜか「やまけん」と入れてもらうことに。
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なんだか非常に嬉しいオプションである。日本橋の木屋とかではここまではやってもらえない。今度からここで買おうかな。
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ちなみに、この店の「本焼き」といわれる最高クラスの包丁は、「今のうちにかっといたほうがいい」らしい。数人いる職人さんの中でも、最も技術の高い方がご高齢なので、もし亡くなられたりすると一気に高値になるから、ということだった。うーむしかし素人の僕レベルが持つ包丁じゃないわなぁ。ちなみに野島さんは持っているらしい(笑)

卵焼き器も買い求め、Aさんと再開を誓って、祇園に向かう。
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さて
メインイベントは昼ご飯。有名な祇園の割烹「千ひろ」におじゃまする。大通りからふっと小さな暗い通路があって、その先に小料理屋が並ぶ風景に、観光客がひっきりなしにカメラを向けるゾーンだ。この暗い小径を抜けたところに、「千ひろ」がある。
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バードコートのりきちゃんと、左側は昨年、めでたくバードコートを卒業し、自分の店をもったジョウコウ君だ。彼の店は埼玉県の浦和にある「田楽」。年が明けたら行ってみたいものだ。
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それにしても京都のカウンター割烹は、いろんな人に連れて行ってもらったことはあるけれども、いつでもドキドキものである。でもまあ、のじさんがメインゲストだから、ついていけばいいか、と気が楽。

「ようこそいらっしゃいませぇ!」

と明るく朗々とした声で、ご主人の永田裕道が迎えてくださる。

そして、圧巻の旅が始まった、、、
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焼き穴子の下にあるのは、洋なしのソルベをかちゃかちゃと空気を含ませるように混ぜながら、手元で出汁を微量ずつ加えてあんばいを調整したものだ。リンゴのような甘く清い香りが漂ってきて、一口食べるまで「いったいなによ!?」とワクワクする。

「ここはね、フルーツを使ったソースやシャーベットを多用して、ものすごい味を創り出すんだよ」

とのじさんが言うとおり、奇をてらった味ではない。実に正当で、ギリギリまで追い詰めた日本料理の味である!
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日本酒は〆張鶴の純吟を所望。酒肴に様々な美味しいもんが並ぶ。
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この、カラカラに塩をしていないからすみが絶品。ネットリして、塩気がそれほど強くないので、時わーっと余韻を味わうことができる。

「やっぱりね、からすみはプロが作るものが美味しいです。美味しくなるためのいろんなポイントがあるんですわ」

というのが、すっと腑に落ちる。

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前半戦の感動はやっぱり、有名なお造り。
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「いい鯛がはいってるかどうか、今朝はドキドキしながら河岸に行きましたわ」

と心配りをしていただいたこの鯛の、美味しかったこと、、、イキのよさと、程よい熟れ加減で、爽やかに旨味十分である。

そして、このお造りを食べるための素晴らしい趣向である塩昆布。
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もちろん自前で炊いている塩昆布だ。醤油はあまりに複雑なアミノ酸の集合体だから、もちろん美味しいのだけれども、饒舌だ。塩昆布で白身をいただくと、必要最低限度の塩気と旨味が追加され、鯛の気品ある、奥ゆかしい、しかしビンと一本強く通った芯のある味を引き出してくれる。

ちなみに右側に軽く表面だけ熱が通っているのは本マグロの大トロだが、脂がのりすぎていて、なくてもいいかなと感じた。東京に居る人間としては、マグロは京都で食べたいネタではないのかもしれない。どうせなら白身魚をもう一品食べたかった、、、でも、絶品最高級のものだったけどね!

さあて、のじさん絶賛の椀である。

この椀の準備がまたスゴイ。具材はあらかじめ調理場で椀に盛り込まれていて、この椀に張る汁を目の前で永田さんが調整する。その調整の細かさが凄まじい。ビンに小分けされた液体をごく少量ずつ振り、塩をごくごく微量ずつ足し、都度あんばいをみながら微調整を3,4回。

そして決まった瞬間に、椀に汁を裂帛の気合いを込めるようにしながら注ぎ、柚子の皮をそっと載せる。

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椀の種は生麩を焼いたもの、かにしんじょう、鰆、ほうれん草に柚子。

なにはなくともその汁を、、、と口に含んだ瞬間、舌が まろっ ととろけた。

ああ、のじさんが「変なたとえだけど、ポカリスエットみたいなんだよ、、、」というのが、実に的を射た表現だ。これはなんなのだろうか、一番だしのような鰹節の香りは全く立っていない。かといって、昆布だけでこんなに複雑な旨味が抽出されるのだろうか、わからない。しかし、とにかく凄まじい量のアミノ酸が汁に溶け出し、舌の味蕾をまろっと撫でて、嚥下するやいなや身体に染みこんでいってしまう。

美味しい、と一言で言ってしまうにはあまりに凄みがある味だ。

実は椀で心底びっくりしたことがある。大分県臼杵市の、とある禅寺の和尚さんが、精進料理の店で腕をふるって居られるのだが、そこでいただいた精進椀がこれまたもの凄いものだった。どうやって出汁を?と訊くと、昆布と大豆と、干した人参の皮とかんぴょうと、、、と、様々な味のでる乾物の戻し汁などを複雑に合わせたものだった。

この千ひろの汁の味はそういった多数の要素の集合体ではないのかもしれないが、それにしてもこれは絶対に真似できなさそうだ。別世界を観てしまった。

しかし、驚愕の世界は続く。

「おおっと、でてきたかぁ、、、」

とのじさんが低くうなる。
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鯖の棒寿司だ、、、 ゴクリ、とのどの奥が鳴る。

のじさんが前回に食べに来たとき、永田さんと美味しい鯖寿司の話になったそうだ。いわく、名店の誉れ高い某店では、観光客さんに出すものと、味がわかっている人に対して出すものとは全く違っていて、もちろん後者はとんでもなく旨いのだ、、、等々。

で、「ほんとうに美味しい鯖寿司は、予約したってどうしたって、その日にいい鯖がなければ無理。だから、運に任せるしかないよ」と言われていたのだそうだ。そして今日、我々は運が良かったというわけなのだ。

みよ、この、あまりに美しい一品を、、、PC087923
よぉおおおく観ていただきたい。なにかちょっとおかしいなぁ、とおもったら、ご飯の量と鯖の身の量が、あまりにおかしなバランスである!
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この超弩級分厚い鯖の身から、ドカンと爆発的な旨さを連想する。しかし、口に含むと、鯖の身の〆加減、塩や酢のあんばいは実に柔らかくまろやかだ。酢飯ももちろん、白飯と酢飯の中間点のようなギリギリのラインで留まることで、突出した部分がすべて削られている。円い味。

とんでもない鯖寿司を食べてしまった。いや、これまでに食べた鯖寿司の中で、もっとも概念をゆさぶられた鯖寿司。いや、簡単に言えば激烈に旨い! これを一本すべて独占して食べたいと、心の底から思ってしまったのである。

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これもこの店の看板のひとつ、鯛のお頭の酒蒸し。

濃い味好きの僕ともあろうものが、途中まで添えられたポン酢を無視して、微妙に効かされた塩加減のみでいただいてしまった。鯛、旨い。当たり前のことかも知れないが、素材の鯛の素晴らしさと、その旨味を最後まで引き出す永田さんの技術がスゴイのである。

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おそらく店でにがりを打って固めたであろう、ネットリと濃いおとうふに豆乳をかけたものか。大豆はやっぱり通常のフクユタカかなぁ。芽キャベツを添えてあるのが美味しゅうございました。
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一同、とにかく美味しい美味しいの嵐である。この顔観れば、言わなくてもわかる。
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海老芋をホッコリ揚げて田楽味噌で。タロイモのごときネットリ甘さを感じる。
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「鯛のお頭で、みなさんに手を使って奮闘していただきましたんで、蟹はお手を煩わせないようにしときましたぁ」

と笑わせてくれながら、こんな一品が!
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ふんがぁああああああああああああああ

たっぷりの蟹味噌と蟹肉を和えたものの下には、ズワイの足肉をキュウリの桂剥きでぎっちり巻いたものが。こんなカニ巻き寿司、みたことない。
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やばい、書いていて頭がクラクラしてきてしまった。
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ゴマ豆腐は、なんと蒸して熱々にしたものに、ゴマダレをかけていただく趣向。
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ひんやりしたゴマ豆腐はのどごしが気持ちいいけど、味自体はよくわからなくなってしまうという面もある。熱することで、香りも味もグアッと前面に出てきて、饒舌な味になるのだ。

さて、長い旅路もようやく終盤にさしかかった。お食事は、キノコご飯と味噌汁とお新香。
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味噌汁はくだんの出汁が使われているぜいたくなもの。やっぱりポカリスエット的に身体に染みいる味。うーむ 5リットルくらい呑みたい。

「みなさん、ありがとうございました。ジュースを用意してますんで」

と、ここでは定番の〆らしい、みかんとりんごのジュースがでてくる。
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いやーーーーーーーー

ものすごかった!

先付けからお造りに椀、鯖寿司から蟹に至る流れの中に全く隙がないけど、息が詰まるような印象はまったくなく、とにかくホウとため息をつきながらゆったり楽しませてもらうことができた。

それにしてもあの鯖寿司が忘れられない。次回予約して参上すると、きっと今回とは違うものが出るのだろう。けど、、、今回と同じものをまた最初から食べてみたい、とも思う。これはマジ。

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店を出るとき、ご主人の永田さんじきじきに上着をみんなに着せ、店の外まで見送ってくださる。のじさんと一緒に、あの祇園の大通りに出る暗い入り口をくぐる際、ふと振り返ると、ずうっと永田さんがこちらを観て、頭を下げておられる。

「前に来たとき、振り返ると永田さんがまだいてお辞儀をしてくれる。あんまり振り返ると向こうも大変だと思って、最後に一回だけ振り向くことにしたんですよ。前回、最後にお互いにお辞儀をした後、祇園を歩いてたら、なんか変な話なんだけど、泣いちゃったんですよね。感動したんです。」

のじさんの人柄もそうとうに暖かいのだけど、永田さんとのじさんの間に流れる、非常に艶やかで真摯な空気が、実に暖かく感じられて羨ましい。

いい経験をさせていただいた。永田さん、どうもご馳走様でした。のじさん、連れて行ってくれて有り難うございました。