日本料理 龍吟 山本征治と赤肉サミットの、信じられない邂逅はこうして生まれたのだ。天に感謝、素晴らしき料理人が赤肉とどう対峙し、どう料理したか!? その1

2011年8月 5日 from イベント

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この写真の料理が、山本征治からの「解答」だった。それを僕は、さいしょからタネを識っていたのにも関わらず、驚きと共に味わったのだ。

今年の赤肉サミット2011での目玉の一つは、間違いなくこの店・日本料理 龍吟の参加だ。昨年のプレ大会では、ランベリーの岸本シェフに創作料理までお願いをしたのだが、7種の肉を同条件で焼き上げてカットし、供したあとにまた創作料理を出してもらうというのは、少々働かせすぎたという後悔があった。そこで、岸本シェフには食べ比べ用の焼きに集中してもらい、違う料理人に、赤身肉を使った創作料理を出してもらうということにしようと思ったのだ。

さあ、どんな料理にしよう?難しいのは料理のジャンルだ。フレンチ・イタリアン・中華・日本料理の中で最も牛肉と遠いのが日本料理である。けれども、、、それ故に、日本料理の世界が赤身肉をどうさばくのかということも興味深い。ということで実は最初、ランベリーの岸本シェフが昵懇にしている「小十」の奥田さんに声をかけてもらったのだ。実は奥田さんは昨年の赤肉サミット後に数回、土佐あかうしを仕入れてくださっている。実際に使っていただいていることもあり、マッチングとしては最高だろうと、思ったわけだ。

しかし、奥田さんからは意外な回答が、岸本さん経由でもたらされたのだ!

「この趣旨だとね、おそらく僕よりも「龍吟」の山本さんのほうが向いてますよ」

ええええええええええええええええええええええええ!?

僕はびびった。だっていまをときめく龍吟ですよ。しかも同門の奥田さんが山本征治を推薦するのだから!この辺の彼らの関係を識る人なら、にやっとするだろう。

しかし、龍吟!昨年の赤肉サミットにも来てもらってはいるものの、山本シェフとはまだきちんと話したことがないしなぁ、、、と思っていたら!

「やまけんさん、俺、山本シェフに連絡したら『いいですよ、やりたいです』って言ってますよ」

なぬうううううううううううううううううう 岸本さん、もう連絡しちゃったの??? しかも、OKなの?????

そんなこんなで、挨拶兼食事に伺ったわけである。

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ちょうど雑誌「専門料理」の編集長のいずみちゃんが「食事に行くところだったんですけど、ご一緒にどうぞ」と言ってくれたので、土曜日の21時半、最後の回に滑り込ませていただいた。

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「どうもいらっしゃいませ! 今日は僕なりに、肉にどうやって立ち向かうかってのも考えながらお出ししますね」

といって出してくれた一品一品が素晴らしくて、実は5品くらいの写真とテキストを書いたんだけど、冗長になるので削除(笑)キモとなるのは最後の一品だ。

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「これ、僕なりの『カツ丼』なんですよ、、、」

んんんんんんんん? これをもってカツ丼とな?

ここにシェフ、熱々の出汁を盛ってきて、皿にしとーっとかけ回してていく。

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主役は見事なロゼの断面に揚げあがったヒレカツで、その横にはペコロス(ミニタマネギ)と温泉卵、海苔が。

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「これを卵とあえて食べていただくと、僕なりの美味しいカツ丼アプローチになるんですよ」

うーむ 面白い、カツは出汁をかけても衣にカリカリ感が残り、甘辛く煮含めたタマネギとともに温泉卵が絡むと、口の中でバーチャルカツ丼のアタマとなる。そうか、こんな感じでやるか! それも面白いなぁと思いつつ、お客さんが帰った夜中の12時(!)からミーティング。

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山本征治シェフ、実は僕とまったく同い年である。同世代がとうとうこんな重要なポジションについているのか、と感慨深くなる。それにしても赤肉サミットで創作料理、本当にやってくれるんですか?微々たる予算になっちゃうんですが、、、

「いやーこんな面白そうなイベントないでしょう、是非やらせてください!」

本当ですか!ありがとうございます(涙) で、、、どんな部位だとやりやすいですかね?

「今日みたいなアプローチにするかどうかは別として、やっぱり部位としてはヒレ肉がやりやすいかと思うんですよね。」

ということは電話ベースで聴いていたので、実はヒレ肉を各産地に一本分ずつオーダーしてはいた。ただ、そこでいちおうインフォームはしておこうと思い、こう伝えた。

「実はシェフ、ユッケ事件以降、牛肉の部位の中でモモが、各産地で売れなくなり、みな困ってるんですよ。なので、一部の産地からモモ肉を使ってくれないかな、という声があったと言うことだけは伝えておきますね。いや、もちろん使いにくいだろうから、いいんですけど、、、」

と言った瞬間!

山本征治の顔がギュッと引き締まり、毅然とした態度で言うのだ!

「それなら僕、モモ肉でやりますよ!ヒレ肉なら割といろんな味に合わせやすいし楽だなと思いましたけど、産地の人たちが困ってるなら、僕としては力になりたい!チャレンジさせてください!」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

感動してしまった! 僕はこの瞬間からサミット当日まで、このときの彼のまなざしや口調を忘れることができない! 彼の料理ではその細かな技術に目がいきがちだけれども、それだけではなく彼は「世のためになる料理」を考えているのだ!それがバチバチバチッと電流スパークのように伝わってきた瞬間だったのだ!

「よし、じゃあ難しい部位でやりますよ!普通の料理人が使いにくい部位とかってどこですか?」

うーんそうだなぁ、内モモとかランプは比較的使えるわけだけど、シンタマとかは一般的には硬くて使いにくいって言われてるよなぁ

「そうですか! じゃあシンタマ行きましょう、シンタマ! 速攻で、産地から送ってもらってください!」

なんとこういう経緯で、当初とは180度路線が変わったのである。正直な話、ヒレ肉は牛一頭の肉の中で1%程度にしかならない小さな部位であり、しかも何も宣伝せずとも売れてしまう部位だ。味も無難で軟らかく、日本料理にも合わせやすいだろう。しかし産地が困っている、というキーワードを聴いた瞬間、彼の中で取り組み姿勢が変わってしまった。

「使いにくい」と言われている部位を美味しく料理してしまおう。こんなチャレンジを彼にお願いすることになった。産地にこのことを伝えると、岩手県も熊本県も口をそろえて「産地の事情を理解してくれて、本当に嬉しい!」と言う。ホント、それに困っているのだ。最近はそこに放射能汚染が加わって大変になっているわけだけれども、、、

ちなみに、この会談が6月11日。赤肉サミットまであと2ヶ月を切っている段階だ。数回にわたって産地からシンタマ一本、5kg程度を送って試作を重ねてもらうと言うことになった。着座するシェフ達が36名、プラス関係者分で50名分相当を作ってもらうということで、店の営業補償にもならないような謝礼しか提示できなかっただが、「そんなのは問題じゃないです」と笑う山本シェフ。

しかし今、最も繁忙な料理人の一人である龍吟・山本征治のことだ。ここからしばし、サミット関連の連絡がほとんど取れない状況に陥るのである。

(つづく)