持続可能なサケ・マスを考えた! 第四回サステイナブル・シーフード研究会にて、京橋カストール藤野シェフによるクラシック・フレンチの神髄「クーリビヤック」に驚嘆! 絹姫サーモンとMSCキングサーモンの存在価値を見せつけられる。

2011年11月30日 from

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いやー こんなすごい料理を食べられるとは夢にも思わなかった、、、藤野シェフ、ありがとうございます。

現在、制限なしに獲ってよい魚種は、全世界で20%程度しかいない。ここ数十年で大進歩を遂げた漁船の設備は、海域内の魚を簡単に獲り尽くせる様になってしまっていて、それが群れをなして魚を獲り尽くす。しかも、網にはもともと狙っていた魚以外も入ってしまう「混獲」の問題があり、本来はまだ成長しきっていない稚魚や産卵前の個体も入ってきてしまう。そうして、散乱をしないままに死んで捨てられていく魚も非常に多いのだ。

こうしたことに対して、世界的な水産国と呼ばれる日本よりも、欧米のほうが保護の意識が高いことは皮肉だ。もともと自然を克服し、管理するという意識があるからだろうか、個体が人間の業によって減少したということの責任をとり、回復に向けた取り組みを多々している。

つい先日もペニンシュラホテルが「乱獲されて個体が減少しているサメのフカヒレを使用しない」という宣言を出したが、こうしたことは欧米ではこれまでもかなりあった。フランスの料理人の団体がカジキマグロを使わない宣言をしたり、かのマクドナルドでも、欧米に展開する店では海のエコラベルといわれるMSC認証を取得した白身魚しかフィレオフィッシュに使わないという方針をとっている。

そして日本はといえば、「もともと魚を食べる文化なんだから」といい、個体数の減りつつある魚もガンガン食べているというのが現状だ。そんな中、本研究会では、これを知って欲しい相手として料理人さんをお呼びし、特定の魚種に関して、天然物・養殖物そして持続可能性のある漁法で獲られた、または養殖されたものを食べ比べてきた。

「持続可能性と美味しさが両立する」―つまり、持続できて美味しい魚がある、ということを識ってもらうための取り組みだ。

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全世界でみてサケ・マス類は最も使用されている魚種といってよいらしい。白身魚は欧米で、エビはアジアで中心に食べられているのだが、どこもコンスタントにサケ・マスを利用している。

上の写真は、今回生でテイスティングしたサケ・マス類5種だ。皿の上部のシールが貼られているところから時計回りに、

1 日本の淡水養殖マス 絹姫サーモン(愛知)
2 世界的に生産量の多い海水養殖マス トラウトサーモン(チリ)
3 天然キングサーモン (MSC認証・アラスカ)
4 養殖キングサーモン (ニュージーランド)
5 養殖アトランティックサーモン (ノルウェー)

となっている。1と2がマス、3以降がサーモンだ。

1の絹姫サーモンは信州で作出された品種で、アマゴとホウライマスを掛け合わせたものだ。餌に、パンチは出るが臭みにもなる魚粉をあまり配合せず、植物性中心の配合にすることで臭みを徹底的になくした。山間部の清流で育てているので、寄生虫の心配は全くなし。繊細で上品な肉質を誇る。

そして3の天然キングサーモンは、アラスカのブルース・ゴア船団とその仲間が獲ったもの。個体数の管理をされた海域で、網ではなくトロール船で釣り竿&ルアーで魚体に傷がつかないように釣り上げ、あり得ないほど丁寧に解体し、「生きている時より菌数が少ない」といわれるほどの衛生的な処理をして冷凍される逸品として名高い。

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生の食べ比べは、魚の脂と風味がガツンとくるのでかなりヘビー。残している人も相当いたが、餌の違いでどんなに臭くくどくなるかがよくわかる。MSC認証キングサーモンがあまりに素晴らしいので、4の養殖キングサーモンの臭さが本当に鼻についてしまう。参加者全員が納得していたと思う。

さて、お楽しみの料理は、久々に京橋のフレンチレストラン「カストール」藤野シェフにお願いをした。

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今回、藤野シェフには感動的な大技を出していただいた!それは、クーリビヤックというクラシックスタイルの料理だ。

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MSCキングサーモンで採ったフォンで炊いたコメでサケを包み、食感のタピオカを混ぜ込み、それをクレープ生地で巻く。それをさらにブリオッシュ生地で巻き、焼き上げたという、ヨーロッパでも結婚式などの行事がないかぎりやらないような料理だ!

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これぞ職人技!これをじっくり1時間焼き上げるのだ。

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見事な焼き上がり。クラシックスタイルフレンチの教科書でこういうのをみることはあるけれども、これを食べることができるなんて!

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この皿が運ばれてきて、シェフもメディアの人たちもみな「!」と驚いていた。まさかこの研究会でここまで手の込んだ料理が出るとは、、、

これ、本当に美味しい、、、クレープとブリオッシュの層のおかげで、サーモンからいささかの水分も漏出していない。ブリオッシュのかぐわしい香り、その下のクレープがしっとりと素材から蒸し出てきた水分を吸収している。そしてサケの味のしみこんだコメ、タピオカのシクーっという食感、最後にMSCサーモンの深い旨みと柔らかい香りが立ち上る。ソースはサケのフォンをバターでまとめたもの。あくまで上品にこの料理をまとめきる。

いや、心から感動してしまいました!

「いまは時代が本当に悪くなって、フレンチは大変。どこも安い業態か、もしくはすごく前衛というか、そんな感じの店が多いよね。けど、僕らみたいにフレンチのいい時代を識っている人間はこういうときに、持っている技術とか考え方とかを若い人たちにどんどん伝えていかなきゃと思ってる。お金のある時代に、いろんな実験をできた僕たちなんだから、今度はそこで得たものを教えるのは当然だと思うんだよね。」

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「今回のサケでいえば、絹姫サーモンはとても繊細な味わい、生で食べられるということに大きな価値があるけど、僕みたいなフレンチシェフが使う素材としては逆に繊細すぎて使いにくい。だけど、こういう味を求める料理人もいるんだから、方向性をいろいろ変えてアプローチすればいい。」

そう言いながら、絹姫サーモンにはこんな一品を出してくれた。

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絹姫サーモンを冷燻にしたものをジャガイモのガレットの上に置き、サワークリームをのせたものだ。繊細な絹姫サーモンの身肉から水分をぬくことで味わいが凝縮する。サワークリームの酸味が単調さを打ち破り、ガレットがさらに旨さを拡げる。これが彼なりの、絹姫のような繊細な身質の魚に対するアプローチなのだ!

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参加者一同、堪能!

その後、テーブルごとにディスカッションをしていただいて、どんな意見が出たかを発表してもらった。

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観る人が観ればわかるだろうけど、今回もそうそうたる料理人に集まってもらったのだ。

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今回も駆けつけてくれた、瓢亭の高橋義弘さん。ありがとう!

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日本料理の世界では魚を中心に使うわけだけど、まだこうした持続可能性への関心は、高いとは言えない。というよりも、知識が広がっていないようだ。世界に冠たる水産国である日本だからこそ、持続可能性を追求していくことが望ましいと僕は思う。

ご参加の皆様ありがとうございました。本研究会は、3月上~中旬に、はじめての一般向けシンポジウムを都内で開催します。いままでブログで読んでたけど、参加したいという方、情報をおまちください。

カストール藤野シェフ、本当にありがとうございました!