これが本当の、”昔の味がするトウモロコシ”だ! 札幌八行、通称八列トウモロコシは、東京ではどうやっても美味しく食べることができない幻の品種。食べたくば北海道へ飛ぶしかない!

2013年8月29日 from 出張,食材

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ここ数年、トウモロコシの新品種を食べ比べる機会が多いのだが、昨年の夏に開催した際にショッキングなことがあった。各種苗会社にアンケートをお願いしているのだが、そこに「甘さ以外の特徴を持った品種を推薦して下さい」という項目をつけておいたのだ。それは、何も言わないでいるととにかく糖度が高い品種ばかり集まってしまうので、違いがわかりにくくなるからだ。

しかし、なんとその欄での回答がゼロ。すなわちいま、日本で販売されている新品種はほぼ全てが「高糖度タイプ」のトウモロコシになってしまったということなのである!

 

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ああ、とうとうそんな日が来てしまったか、、、とがっくりしてしまった。この辺の詳細は、今後僕が仲間と創刊する予定のメルマガで詳細に触れたいと思う。

この国のトウモロコシの歴史は3段階を経ている。最初は、甘くなく香ばしい「フリント種」または「ワキシー種」が各地で栽培されていた。

下の写真は高知県の朝市で発見したもので、ワキシー種を40分ほど蒸かしたものだという。

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ご覧の通り、コーンと言うよりは豆のように、子実の内部がデンプンの固まりとなっているのが見てとれる。

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これらは生の状態で食べるより、写真の通り蒸かしたり、乾燥させたものを粉に挽いたり、かて飯の「かて」にされていたことが多かったようだ。それはなぜかというと、収穫した後、急速にデンプンが糊化(こか)し、美味しくなくなってしまうからである。

それでも収穫したてのフリントコーンを焼くと、実に香ばしい薫りとうま味があって美味しいということで、札幌の大通公園にあったとうびきワゴンの屋台で売られていたのはフリント種であったという。

それが、昭和30年代に入り、スイートコーンと呼ばれる品種群がトウモロコシ界を席巻する。スイート種というのは、実はトウモロコシ界においては突然変異種として現れた変則的なものだ。その特徴は、子実の中にデンプンではなく糖が溜まると言うこと。だから、収穫してから糖含量は減りこそすれ、フリントのように糊のようなべたーっとしたデンプンにはならない。

そのスイート種が全国で食べられるようになったわけだが、そこから「スーパースイート種」という高糖型の品種が出てき始め、90年代になると「ウルトラスーパースイート種」という、もう何が何だかわからない程に甘いのが出てきたのだ。

それでも、トウモロコシ育種をする種苗会社は、甘さより旨さを重視した品種を作っていた。例えばサカタのタネは「ウッディコーン」という、トリカラー品種の甘くないコーンを世に出していた(僕は大好きだった!)。しかし、やはりスーパーでも直売所でも、手っ取り早く売るためには「甘い!」ということを前面に出した方が楽だ。ということで、糖度重視のトウモロコシばかりの世になってしまったのだ。

もちろんウルトラスーパースイート種も美味しい。その話はまた今度しよう。しかし今回書いておきたいのは、甘くないトウモロコシ、それも明治時代から札幌で愛されてきたフリント種についてである。

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この、最近主流の品種に比べると細長いトウモロコシが「札幌八行」、通称 八列トウモロコシである。いま、北海道で何人かの生産者さんが栽培をしている。ただし、これが焼きトウモロコシなどの生食用に廻る率は非常に低い。先に書いたように、この八列トウモロコシを生で食べて美味しいのは、収穫してから1~2日程度なのだ。

以前、農業雑誌の企画でこの八列を取り寄せようとしたが、農家さんが「東京に送ると、どうしても4日はかかる。そしたらこのトウモロコシの美味しさは全て消えている」といって渋られた。それをなんとかなだめすかして送ってもらったのだが、確かにもうただのデンプンの固まりと化していて、美味しさはどこにも残っていなかった。

でも、食べたことがある人は口を揃えて言うのだ。マジで旨い、と。僕も、ホントのコンディションの八列を喰ってみたいなぁ、と思っていたら! 数年前に横浜で開催されたスローフード協会のイベントで、十勝の芽室町で八列を栽培している川合拓男君と出会ったのである!

昨年ぶじに記事化されたので、ブログでも紹介していきたいと思う。

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農業地帯の芽室では9月上旬より、この八列トウモロコシの収穫シーズンを迎える。

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八列トウモロコシはフリント種なので、スイート種など他の品種の近くに栽培しない方がいい。花粉がつくと、スイート種が甘くなくなってしまう可能性があるからだ。そこで、ジャガイモとダイズの圃場の脇にながく一列で植えていた。

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ごらんのように、剣のように細長い形状がこの品種の特徴だ。

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なんで「八列」なのかは観ればわかる。皮を剥いてみると、、、

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一本に八列しか実がつかない!

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これが名前の由来である。

「やっぱり昔の品種ってすごいなと思うのは、品種の力が強いんですよ。ほとんど農薬使わないですし、肥料もそんなに喰いません。」と川合君。

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数本、撮影用にもいでくれた後、すみやかに彼の家で焼くことに。とにかく収穫後早ければ早いほどによいのである。

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皮を剥いた八列トウモロコシを炭火の上におくと、周りに驚くほど香ばしい薫りが立ちこめてくる!白っぽかった実が濃い黄色に変わり、まわりにどんどん「あの懐かしいトウモロコシの香り」が立ちこめるのだ。

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醤油を塗った焼きたてを頬張ると、穀物がこんがり焼けた香ばしさがブワッと鼻に抜け、脳内に「あの思い出の夏の空」がフラッシュバックする。ああ、これぞトウモロコシだ、、、

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僕だってフリント種になじみ深い世代じゃないのに、間違いなく「懐かしさ」を感じてしまう。香りだけじゃない、実を噛みしめるとモッチリと歯に心地よい弾力。噛むたびにほのかで奥ゆかしい甘さが染み出てくる。これはスイートコーンとは別物の美味しさだ!

いや、ビックリしました。しかし2本食べるとお腹いっぱい!デンプンの力はすごい、、、

ちなみに川合君、この生食用の出荷は、基本的にはしていない。これまで幾度となくトライしてきたそうだが、やはり物流の問題があったり、どんなに説明をしても、「期待していた味と違う」となってしまったりするからだ。

その代わり、本来的なトウモロコシの使い方である「粉に挽く」ということにチャレンジしている。

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これは乾燥させた八列だ。

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ここまで乾燥するとカチンコチンでガラスのようである。これを、製粉機にかけて粉にする。

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そうしてできたトウモロコシ粉は、メキシコ料理に欠かせないトルティーヤの粉になるのだ!

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奥にある粗挽きとパウダータイプがかれの作品である。そしてこのトウモロコシ粉をつかって、芽室産の野菜と豚肉を使ったウインナーでトルティーヤにしてくれるのが、近所の直売施設である「あいさいやキッチン」だ。

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ちなみにこの直売所がある一角には、帯広インデアンカレーに満寿屋パンの店舗もあるという、一大地域グルメ地帯なのである。芽室に来るならマストゴーであります。

ということで、八列トウモロコシの生状態はなかなか食べることが出来ないんだけど、芽室に行ったらまずはトルティーヤを堪能していただきたい。ホントは八列焼いたのを食べて欲しいんだけどね、、、

甘いだけのトウモロコシに飽きたら、次は地域の伝統品種を探してみよう!