越前の国はソースカツ丼の聖地であった!

2004年2月12日 from 出張

 フレンチで程よいお腹になったところで、福井名物ソースカツ丼を食べに行くのであった。さて福井県のソースカツ丼を語る上で欠かせない存在があるという。その名を「ヨーロッパ軒」というらしい。正体は洋食屋で、福井県内に10店舗前後の支店を出している。普及員の前川さん曰く

「もう小さい頃から食べ慣れているカツ丼の味といえば、ここです。」

とのことだ。まさしく福井県流ソースカツ丼の正調と言えよう。

 ヨーロッパ軒についてはこの店のWebに詳しい。そこにはソースカツ丼の来歴というか、出生秘話も掲載されているので、研究者には必読である。

================================================
ヨーロッパ軒
http://homepage2.nifty.com/yo-roppaken/
================================================

 前川さんがしきりに「本店にお連れしたい」と仰るのだが、あいにく本店は火曜日定休であった。本店以外の店もだいたいは火曜日定休、しかし県庁近くにある「城山店」一店のみが火曜日もやっていた。

「残念です。本店だとソースの量を自分で調節できるなど、県外の方に対する気配りがあるのですが」

それはソース大好き人間の僕には素晴らしい話ではあったが、でもまあ美味しければいいやと思うのであった。そして連れて行って頂いた城山店の外観がまた!実に食い倒ラーの心をくすぐるものだったのだ。

 みよ!この洋食屋らしからぬ店構えを!↓まるでそば屋である。
jpg

 雪よけだろうか、店の入り口は更に奥まっているのだ。のれんの自体は流行のレトロ風だが、まあこれは創業以来これなんだろう。つまりレトロどころかホンモノなのだ。何と味があることか!
jpg

店内は思った通りひなびた市井のそば屋といった佇まいである。しかし、壁のメニューをみるとチキンカツやポークチャップ等がならんでおり、間違いなく洋食屋のものであった。
jpg

「ここはほぼ全員がソースカツ丼を頼みますが、夜でも頼めるAランチ(笑)とかもメンチ・海老フライなどがのっていて壮観です。」by前川氏

 席に着き、注文をとる。割烹着を着たおばちゃんにソースカツ丼大盛りを頼む。どのくらい大盛り何だかわからないので、とりあえず大盛りを頼むのである。もうこの辺は僕の習慣なのでどうしようもない。土屋さん前川さんは苦笑されながら普通盛りを頼んでいらっしゃった。
 トイレに行くついでに厨房を覗いてみると、おばちゃん2人による調理場であった。通路にドカンドカンと西日本のナショナルブランドである「イカリソース」の一斗缶サイズが並んでいる(ちなみにウスターソースであった)。このイカリをベースに、いろいろと秘密の材料と配合でソースを創っているのだろう。特製ソースがなみなみとはいったステンレスのストッカーが厨房に鎮座しており、ここにざぶりとつけられるのだろうという気配が濃厚に漂っていた。

 さて席にてしばし待ったのち、ソースカツ丼が運ばれてきた!お約束通り、ドンブリからはみ出ている!
jpg

これがソースカツ丼の全貌だ!
jpg

 大盛りだとご飯の上にカツが4枚。もう完全にご飯は見えない。ちなみに普通盛りだとカツは2枚である。
 さてここで前川さんが仰る。

「やまけんさん、福井ではソースカツ丼を食べる時、ドンブリのふたにカツをよけて、一枚だけご飯の上にに残るようにして食べるのが標準です。カツが全部のったままだとご飯に辿り着けません。」

ほれこの通り↓
jpg

おおお なんと! すばらしい智恵ではないか!

 数十年に渡るソースカツ丼食いの歴史の中で、数知れぬ先人達が試行錯誤したに違いない。カツをのせたまま飯をすくおうとするとカツが転げ落ちてしまったり、逆に飯がぽろりと落ちてしまったり、、、そのたびに先人達は「何かいい方法はないものか」と様々な方法を試したのだ。そう、ソースカツ丼方法論序説である。そしてソースカツ丼食い中興の祖たる御仁が、この「ドンブリ蓋にまだ食べないカツを待避させるの法」を編み出したのだ!そうだそうに違いないっ!

 、、、というのはちと大袈裟だが、このような地元の人が知らず知らずのうちにしてしまっているTipsを知ると、初めてきたのになんだか無性に嬉しいのである。

 さてカツをいただく。
jpg

 カツはそれほど分厚くない。8ミリくらいの厚さだろうか。それが10センチ大の大きさにカットされ、中挽きのパン粉にとじられ揚がっている。がぶりつくと、とってもジューシー!ロースである。肉の断面から中を観ると、タテに数本、包丁の切り込みが入っているのが認められる。箸を使わずとも柔らかく噛み切れるための工夫であろう。筋も完璧に切られており、口に不快が残ることは皆無である。ソースに浸されているにもかかわらずパン粉のカリっ感は完璧に残っており秀逸だ。もう一つの主役であるソースの風味は、どちらかといえば辛口のウスターを、独自配合だろう野菜等の甘みで柔らかくしているように感ずる。このカツと共に、ソースがいい塩梅にまぶされた飯を一口掻き込む。

「うーむ これは旨い!」

もう絶品の取り合わせである。特にソースご飯が佳い。その昔、我が家でご飯に醤油やソースをかけて食べようとすると、母に怒られたものである。「塩分がつよいんだから毒なのよ!」と言っていたように思う。そう言われるともっと食べたくなるのが子供というものだ。以来、醤油かけご飯とソースかけご飯は、背徳の美味を味わせてくれる究極の一皿になっている。
でも!
この福井では、このソースかけご飯が一つの紛れもない正統なのである!何と素晴らしいことか。ソースとカツの揚げ油がほどよくまとわりついた飯はキラキラネタネタと輝いている。旨いカツと飯とソース。この蜜月といえるトリプル関係性の中に、卵や醤油、ダシが介在してくる余地は全くないと言えよう。

4枚のカツと大盛り飯を食べると、さすがに腹が苦しくなった。これから講演なのに、、、
前にいらっしゃる土屋さん前川さんも苦しそうだ。でも、カツを食べるというのは、ある種ジビエ喰いにも似た興奮がある。内なる野生をたたき起こすような感覚。それはしかしタフでハードなソース味でなければ生まれてこないものだ。

ふと壁を観ると、五木ひろしの色紙が飾ってある。しかも二枚!一枚目の下には、福井公演の際に2日連続で来店したとのこと、2枚目は再度の公演のさいにまた来たとのことであった。その気持ち、わかるよ。

大変に美味しいものをいただいた。

 福井でグルメといえば反応的に越前ガニばかりがとり上げられることが多い。そりゃぁ旨いに決まっていよう。でも庶民は毎日蟹食ってるわけじゃぁないのだ。そう言う意味では福井の味の正統を貫いている一つがソースカツ丼であるといっても過言ではないはずだ。

 心に念じていただきたい。福井県に行ったら、ヨーロッパ軒にてソースカツ丼を食べること!これなくして福井の文化は語れない。