タコライスチーズ野菜は二次元的味覚の極地か!? 「キングタコス」

2004年9月14日 from 常夏の楽園・沖縄を食べ尽くす

「よし、やまけん、キングタコスでタコライス食べようねぇ」

キッペイがニヤリとしながら次なる聖地巡礼の宣言をする。そう、かなり期待度満点のタコライスである。

 実は僕は、メキシコ料理があまり好きではない。「あまり」というところがポイントで、嫌いな訳でもない。今まで行ったメキシコ料理店では、いくら食べても味覚に満足感を感じないのだ。量的な満足ではない、舌で感じる旨味のストッパーがないというのだろうか。昆布に含まれる旨味成分であるグルタミン酸が全く入っていない味なのだろうか。

 それでも、この和洋折衷の極みと言えるタコライスには興味があった。タコライスは、タコスに使われる具(レタス、チーズ、スパイスで炒めた挽肉)をご飯にかけたものである。これがめっぽうイケルという。東京でも各所で食べられるので体験をしてはいるが、どれもそんなに言うほどのものではなかった。しかし沖縄県人はみな「タコライス」と言うのだ!その違いを知りたい!

「やまけんをキングタコスに連れて行ったらどのくらいたべるかねぇー」

「チーズ野菜大盛り食わせようか?メニューには大盛り無いけど、やってくれるからね。」

「チキンバラバラもつけて欲しいね!」

等々、キッペイと卓、加賀谷が話しをしている。その顔がまた満面の笑みである。これほどまでに彼らを幸顔にするキンタコとは一体どういう店なのか!

「ここから歩くよー」

米軍基地横の駐車場に停めて、繁華街となっている中を少し歩く。米兵向けの歓楽街で、横文字の看板ばかりだ。昼間なのでどの店も開いていないのがまた更に旅情をそそる。

「あー 来た来た、ここだよヤマケン。」

 店自体は、色々と言われてきたので大きな店なのかと思ったら、路地裏の小さな店構えであった。実はさきほど店の前に車を停めに来たら無理だったので駐車場に車を回した。その間にお客さんが入ったようで、僕らが入る余地がない。店内を伺うと、テーブル席が3つしかないのだ!

「えええ 有名店なのにこれしかテーブルが無いのかぁ」

「ちょっと待とうね~」

 窓から覗くと、おねーさん二人が談笑している。あの駐車場までの短時間に3組の客に料理を出したのだろうから、相当な早業処理であることがうかがい知れる。

 これが店の外に出ているメニューだ!沖縄の店ってなんでこんなに安いんだろう、、、

「やまけんはタコライスとチーズバーガーと、チキンバラバラを食べようね!」

うーん それ、食いきれる量なの?とかなり不安にはなるが、受けて立とうじゃないか。程なく手前側のお客さんが食べ終わり、テーブルが空いたので入店。

「やまけん、そういえばここにもルートビアがあるよ!」

おおお!この旅ですっかり好きになったルートビアがあるではないか!あれはA&Wの専売特許だと思っていたのだが、他の店にも供給されているんだな。

「じゃあ、一番大きなサイズで飲もう!」

「うそっ スゴイ量入ってるけど飲みきれるの?」

そう、昔マクドナルドで羨望の的だった、コーラが一番沢山入るバッグ(カップではない)いっぱいに入ってくるらしいのだ。

そうこうしているうちにまずチキンバラバラ(500円)がすぐに供される。すでに揚げているものを出すからだが、500円とは思えないほど肉が多い!

ていうか、これはほぼ鶏の半身分くらいはあるだろう。加賀谷がこれをみてゲラゲラ笑っている。

「やまけん、これ食ってくれ~」

いやしかしこの量を一人では無理だし、みんなで分け合う(ちなみに最終的には僕は二切れ食べた)。割とあっさりした味のチキンで、尖った味がするわけではないが旨い。

と、このチキンをやっている間に、カウンターに凄まじいモノが置かれた。

「チーズバーガー出来ましたよ」

デカイ! バーガーもいろいろ観てきたが、これほどデカイのは初めてである。2メートル先のカウンターに置かれた瞬間に、そのでかさにヤラレタ。

今回思ったのだが、写真だとこの迫力は伝わりにくい。食べ物から出ている圧倒的なオーラというか、空間を占有している位置エネルギーが迫ってこないのである。けど、とにかくデカイのだ。横に置いてある卓の携帯電話のスケールで考えて欲しい。

とにかくこれには燃えた!食ってやる!

バーガーバンズは信じられないほどの大きさだが、フカフカした生パンで、それほどみっしりと詰まっている訳ではない。これなら最後まで行けるだろう。ただしそれはタコライスの量による、、、と思ったら、出てきたタコライス!

もう笑うしかない。凄まじい量のライス、ミート、チーズそして雲に届かんばかりのレタスである。卓、キッペイ、加賀谷は大笑いである。心から幸せを感じているような笑顔である。

「やまけん、これタップリかけてね」

と、サルサソースがなみなみと入ったケチャップ入れが回される。そうか!タコライスにはソースがかかるんだった!レタスの上にソースをぶっかけ、雪崩が起きないようにスプーンでガッツリとタコライスを頬張る。

驚いた! すんげー辛い!

サルサソースがハンパじゃなく辛い。トウガラシが効いている!しかし、その辛みが味蕾に直撃した後は、チーズのまろやかさとレタスの爽快なシャキシャキ感、そしてミートの旨さとご飯の甘さが一挙に口に拡がる。

「旨い! 旨いよこれ! 生まれて初めて美味しいタコライスを食べたよ!」
これは素晴らしい。今まで食べていたのは非タコライスであったとはっきり言える。キンタコ、実に旨いのだ。とにかくサルサソースの辛さと酸味が食欲をかき立てる。サルサがなければ、チーズ、ミートと、平板な二次元的味覚で終始してしまうところだろう。そこにサルサが介在することで、味世界が完結している。無論、サルサも辛さがなければ二次元的味空間に留まるのだが、この辛さと酸味の配合は絶妙と言うほか無い。

とにかく天を衝く量である。ガンガンと食べ進む。2口ごとにサルサソースをぶっかけていたら、すぐにソースが無くなってしまう。

「ソースもっと入れて!」

とキッペイが取り替える。ソースはバカ辛い!なので、火を鎮めるためにルートビアを補給する。そうそう、ルートビアはこんなバッグいっぱいに入ってくるのだ!

とにかく旨い!ハンバーガーは皆が一口ずつ食べた後は全部僕がやっつける。これにもサルサをぶっかけ、食いきった。加賀谷が最初のチキンで飛ばしすぎたか、「満腹になってきた」と言う。皆ペースが落ちるが、僕はかなり快調。
実は僕は

「米には強い」

のである。肉のごときタンパク質の塊だとこうはいかないが、米はいくらでも食べられる。タコライスチーズ野菜、チキンバラバラ2ピース、バーガー
5分の4をしっかり食べきった。

「ヤマケン、、、食ったねぇ、、、」

食べたよキッペイ!旨かった!
これだけ食べても、タコライスチーズ野菜600円、チーズバーガー350円、チキンバラバラ500円だ。安い!

しかも、ここのサルサソースは最高に旨い。

「他の店も美味しいトコあるけど、キングタコスの味はオリジナルなんだよね。」

是非とも、東京に進出して頂きたいと思うのだがなんとかならないか? 満腹な腹をさすりながら車に移動する。その道すがら、ぼんやりとした意識の中で考えた。

 タコライスにしてもなんにしても、米国駐留によりもたらされた食文化は、やはり平面的、二次元的な味覚世界が多い。肉中心のイノシン酸により築かれた世界と言えるだろう。これが日本的味覚の代表であるご飯と結びつけられ生まれたのがタコライスである。これは文句なしに旨い。おそらく人間の快楽中枢にそのまま刺激として突き刺さってくる要素がタップリと混入されているのだ。そして、これもポイントだが、非常に安い。
 初日から食べてきて、この二次元的空間を楽しみまくっているわけだが、沖縄の郷土に伝わる3次元的な味空間にはいつ出会えるのだろうか。若干の不安を感じている僕が居た。

 そしてその答えは、明日第4日目に、僕らの眼前に提示されることになったのだ。