陽光の国・シチリア食い倒れ見聞記・パスクワリーノの世界を満喫する~農場編

2005年1月30日 from 陽光の国 シチリアを行く

今回の旅で、前半の最大のキーポイントは間違いなくパスクワリーノという人にあると言える!今年65歳くらいになるはずの彼は、凄まじいパワーとテンションで喋りまくり、人をからかい、無茶苦茶な運転をし、そして抱擁するのだ。僕からみたら太ったMr.ビーンという感じなのだけど、一方で愛さずにはいられないチャーミングなオッサンだ。

「大変なんだよ、彼と付き合うのは、、、」

と苦笑いをしながら重シェフが言う。

「だけど、人脈だけがものを言うシチリアで、彼のネットワークはとにかくすごいんだ。どこに行っても彼の友達がいる。僕なんか、ビザを獲るのが難しいこの国で、一時シチリア人だったんだよ!彼が奔走して、市民証をとってくれたんだ。それをみて、イタリア人の友人が驚いてたくらいだよ。」

このように、超世話好きで、人を自分の世界に引きずり込まなければ気が済まないパスクワリーノの世界は、存分に発揮され続けるのだ。

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パスクワリーノの別荘はイオニア海に面した別荘地にある。


「イタリア人は夏のバカンスが3ヶ月もあるからね、そうなったらこっちに来て、海で泳いで飯を食って騒ぐって生活をずーっとしてるんだよ。俺なんか気が狂っちゃうけどね。彼らはそれが大好きなんだなぁ。」

と、エスプレッソを煎れながら重ちゃんが言う。

エスプレッソといえば、イタリアのエスプレッソは反則だ!バールとよばれる店でのめるエスプレッソは、マシンの蒸気圧が違うのか、日本で飲むそれとは全くの別物なのだ。デミタスにほんの少し入った泡だった液体を口に含むと、トロリと芳醇な香りの玉が弾ける!コーヒーのそのまたエッセンスを飲んでいるようで、一瞬にして気分がリセットされる。

「一日に5~6回くらいは飲んじゃうよね。さっとバールに入って『ウン・カッフェー!』といって、友達と喋りながらグイッと飲んで、それで出る。1ユーロに満たない金額で飲めるから、一日にそれを何回も繰り返すんだよ。」

無論、家庭ではマシンを買えないから、簡易版のエスプレッソマシンになるけど、それでも旨いことにはかわりがない。

パスクワリーノの別荘のテーブルに束ねてあった写真に、重ちゃんがシチリアで修行している頃の一枚があった。若い!

一息入れていると、ヒュー、、、ドンっ!と車が止まる音がし、庭先でけたたましく叫びながら、パスクワリーノが登場した。

「どうだお前達、いい夜だったか!」(←想像)

ちなみにパスクワリーノが首にかけている赤い眼鏡は、なぜか郵便貯金のマークの入った老眼鏡だ。どうやって手に入れたんだろう、、、?

「お前らとにかく用意しろ!行くぞ!」(←想像)


車に乗ると、コバに対しちょっかいを出しまくっているパスクワリーノ。実は以前、パスクワリーノを日本で呼んで、無二路でコバはフェアをやったことがあるらしいのだが、その時に彼の飯を作っていたのがコバだったのだ。なんとパスクワリーノの好みは「カルボナーラ!」だそうで、「今日はパンチェッタを少しスモークしたのをいれてくれ!」などと注文をつけて毎日毎日食べていたらしい。そしてパスタを食べ終わった後に、小さな声で少しだけ恥ずかしそうに「クレームカラメル、、、(←プリンのことだ)」と申告し、コバが持ってくると、嬉しそうにウインクをしていたそうだ。ということで、パスクワリーノ担当はコバに決まっているのである。

今回、シチリアの畑をみたいと重ちゃんにお願いをしていた。シラクーサは、トマトで有名なパッキーノがあったりと、農業の盛んな地域だ。アランチャ(オレンジ)やリモーネ(レモン)の果樹園は道沿いに延々と連なっていて、たわわに実がついている。

リモーネ!と叫ぶと、パスクワリーノが車を止め、果樹園に勝手に入っていった。「おいおい、いいのかよ、、、」

全然お構いなく中に入っていき、リモーネをもぎ取ると、持っていたナイフで刃を入れる。それだけで果汁がジュルっと出てきた!

「喰ってみろ!」(←想像)

というので囓ってみると、、、なんだよこれは、香りが芳醇!
カリフォルニアから入ってくるレモンとは全く違う!

まあ要するに、樹の上で熟しているか、輸送途中に色だけ熟させているかの違いだ。はっきり言って次元が違う、、、

周りの畑の土壌をみると、どちらかというと日本の黒ボクに近い性質にみえる。ご覧の通り有機物や石がゴロゴロと入っている。日本の農家さんでは嫌われる光景だが、実はこの石の混入が、ミネラルを補給する役割を果たしているという話がある。

「なんだかパスクワリーノが、親戚の果樹園に連れてってくれるみたいだぜ。」

おお!それはすごく嬉しい!
イタリアに行ったことがある人は必ずといっていいほど、「野菜が美味しい!」と言う。ヨーロッパは土が日本より全般的に痩せているはずなので、その分野菜の個性が強く出るはずだ。けれどもホントにそんなに旨いの?という疑問があったので、とにかく確かめたかったのである。先ほどのリモーネの一事をみると、確かに日本で食べられるものと比べると段違いに旨い!樹上で完熟しているということに加えて、先に述べたような土質の要件があるのではないか。確認してみたい、、、

パスクワリーノが車を90度旋回させて、金網で囲われた大きな敷地に入るゲートにつける。インターホンのようなものを押すと、ゲートが開いた。その中は大型のビニールハウスが数棟建ち並び、奥に選果場が2棟と事務棟が建つ、JAのような出荷組合があった。

パスクワリーノが作業員に話しかけている間、僕らもにこやかに「ボンジョルノ!」と挨拶をまき散らす。重ちゃんに習った重要なことがあって、それは「イタリアでは、挨拶をしない人は変な眼で見られる」ということだ。

「店に入った時でも、ちゃんと挨拶をすること。誰に対してもそうしないと、礼儀違反だからね。こちらが客でも、何かしてもらったらグラッチェと御礼をいうのも重要。大人の社会なんだよ!」

とのことだ。確かに「ボンジョルノ」「ボナセーラ」と声をかけると、いかめしい顔をしたオッサンでも何でも、返事を返してくれる。これは気持ちが良いものだ!


さて選果場の中では、アランチャ(オレンジ)とリモーネの選果ラインが廻っていた。



オレンジはタロッコという品種らしく、割ると果肉の所々に赤いまだら模様が入っている。最盛期はもう少し後らしいが、そうなるとほぼ真っ赤になるらしい。

おっさんが「これ食いな」という感じで持ってきてくれたオレンジにかぶりつく。

ぐおおおおおおおおおおおおお 旨い!

やられた、、、脳天にアドレナリンが噴出する旨さである、、、
日本で食べている輸入オレンジには含有されていない、第三の成分があるとしか思えない素晴らしい味だ!香りとコクの奥行きが深く、味の世界にもう一つの次元が増えてしまったかのような味である!レモンとオレンジに関しては完全に屈するほか無い。

「モルト・ヴォーノ!」

と叫ぶとオッサンがニヤッと笑う。

「日本から来たって?」(←想像)と、背の高い、町中であったらあまり友達になりたくないなというようなヤツが現れる。パスクワリーノの親戚で、この農場の経営者の息子らしい。パスクワリーノが、ぼくがトマトに関心があるということを伝えてくれ、農場を見せてくれるという。本当にこっちではコネだけがものをいう世界だ。知ってるヤツの頼みは訊く、という姿勢が徹底している。


さて車で少し走ったところにトマトのハウスがあった。規模的には日本より少し大きいくらいだが、まとまって建っているところをみると、こちらでは零細農家が小さな畑を持っているという日本式ではなく、富裕な生産者が土地を大きく所有していて、労働者を雇用して生産を管理するというスタイルなのではないかと推測した。今後日本でも増えてくるべきスタイルだ。

ハウスに入ると、見慣れたトマト栽培の光景が広がっている。生っているのはいわゆる大玉トマトだ。

もいで食べさせてもらうと、これもまた味が濃い。トマトについては一応本業として取り扱いをしていたのできっちりとみたのだが、あまり雨が降らないためか水分含有量が低く、瑞々しさよりも濃縮された旨味が強い。雨が降らないというのは農産物の味を濃くするためには非常に重要なことなのだが、その観点からすると非常に恵まれた土地だということだ。

肥料には何を使っているかと訊いてもらうと、なんと「オルガニコ(オーガニック)」という返事が返ってきた!ほんとかよ!ぜひ見せて欲しいと頼むと、先ほどの選果場の裏にある資材置き場に連れて行ってくれた。

積み上げられた資材にはConcime Organicoと書かれていて、各種成分比率が記載されている。堆肥資材を購入して生産しているということか。

オーガニックの表示がないのでおそらく100%有機ではないのだろうが、ちょっと感動してしまった。味が良いはずである。



野菜の選果場に入ると、ズッキーニ、房つきトマトなどの選果をしていた。


そういえばこれら野菜やオレンジはすべて通い箱というプラスチックコンテナに入れて出荷されている。段ボールと違い、小売店からまたこのコンテナが帰ってくるという循環型のリサイクル容器なのだが、日本ではこの普及が1割に満たない程度である。

コンテナの中に入れられた出荷カードにはロットナンバーなどが記載されている。

日本の農協の選果場をみているような感じなのだが、実に面白い!パスクワリーノのいとこが、「今度はビジネスの話をしにこいよな!オレンジ、レモン、野菜、なんでも売るぜ!」と笑いながら去っていった。

この味の濃いオレンジを食べたら一発でノックアウトだ。しかし、コスト的にカリフォルニア産のものに敵わないので、残念ながら日本には入ってこない。イタリア国内でもボンボンと生産されているので、大半が果汁になってジュースに回る。なんとイタリアではファンタオレンジには果汁12%が含まれているのだ!しかも日本で飲むファンタとは段違いに旨く、リストランテでもアランチャータ(オレンジジュース)というとファンタが出てくる(笑)

それだけオレンジに関しては豊富で旨いのだ。ああ、日本から出ないでいると損をするな、と痛切に感じてしまった。食い倒れネットワークをさらに各国に拡げる必要を感じてしまったのだ。

果樹園を辞すると、パスクワリーノが近くのにんじん畑を見せてくれる。といっても、勝手に人の畑に入って行ってしまっただけなんだが、、、(笑)

「イタリアのにんじんは日本みたいにふとくないんだけど、これは何でなの?」

と重ちゃんが訊く。まさにそこがポイントで、どちらかといえば痩せた土壌なので、日本のようにぶっとくはならないのだ。しかし、こっちのほうが味が濃いことは間違いない。日本で味の濃い野菜が作りたければ、肥料を少なめにすると、近いものができる。しかし、写真のような細く見た目の違う人参になり、まとまらず小さいため、売れない。ヨーロッパでは「にんじんてのはこんなものだ」というのが当たり前になっているからこれで行けるのだろう。

僕は日本の農産物に誇りを持っているので、海外から帰ってきてやたらと「むこうの野菜は日本より断然美味しいんだよ!」という輩を好きではない。日本の農産物にも、大したことのない規格品と素晴らしいレベルのものがあり、後者を食べればムムムと唸ることは間違いないのだ。しかしながらそれは一般には出回らない。イタリアの事情を見る限り、基本的に出回っている食材が旨いというレベルは日本より高いと認めざるを得ない。んー 悔しいけどしょうがないね。

しかし農場では、外国とは思えぬなんともくつろいだ気持ちを取り戻した。やっぱり俺のホームグラウンドは農場なのであった。

「さあ、メルカート(市場)を観に行くぞ!」

パスクワリーノの強烈な運転がまた始まった!