やっぱり豚の話は面白い その1

2006年3月17日 from 食材

最近、なぜか豚肉関連の話を、仕事・プライベートの双方で関わることが異様に多い。先日NHKラジオの食に関する番組に出た時も、食材を調達して欲しいということで、沖縄の在来種「あぐー」のほぼ純血のものを入手した。取材用にお手ごろ価格でご提供いただいた金城ミートさん、どうもありがとうございました!脂の旨味もさることながら、ロース芯の綺麗が食味は最高、本当に素晴らしいあぐーでした。
 そしてとある事業絡みで、先進的な養豚経営をしている産地を来週訪問。その数日後に養豚農家さんを中心に講演をする。と思ってたら、ある企画でトンカツ屋を回ることになり、3時間で2店を廻ることになった。

僕も足を運んでいた名店が暖簾を変えて再デビューしていたのだが、味は以前よりも向上した感がある。これについては後日その企画でお目見えするので報告したい。

で、トンカツ2店廻りのその夜、実はまた一件豚関連の集いがあったのだ!
汐留のメディアタワー(パークホテルがはいっているビルだ)B1Fで3月15日にオープンした「ばんざいや」にて、僕がずーっと昔からお付き合いのあった養豚生産者さんの豚肉を出すという。実はこの生産者さんの飼養(しよう)する豚は、これが東京でのデビューになるということなのだ。

「私も開店祝で行きますので、やまけん、時間があればぜひ食べに来てください。」

というお招きに、応じないわけがない!
午後にトンカツを2店、惣領500g程度の肉を食べてしまってはいるのだが、どちらも端麗系のトンカツ店だったので、これなら大丈夫、はせ参じることにしたのだ。

開店したての店はピッカピカで非常に清潔感が漂う。和食中心の手頃なメニューが並び、流行の焼酎がズラリと並ぶ店内の一角に、豚しゃぶ用のしつらえがしてあった。そこに彼はいた。

茨城県で養豚の種豚場を経営する、鹿熊(かくま)さんだ。
この方とはかれこれ10年くらいのお付き合いである。とはいっても、間にかなり長い音信不通期間がある。僕が会員になっている農業情報学会という学会組織の前身である農業情報利用研究会という組織で重要な役割を果たしていた鹿熊さんと、当時、農業情報の道を志す大学生だった僕は、茨城県つくば市の研究会にて、この豪放なおっちゃんと出会った。ガハハハと笑いながら、しかし実に繊細な養豚経営をするという噂のこの人の豚肉を、実はいままで食べずに過ごしてきてしまったのだ。

「そうだよね、俺の豚の肉、食べてないんだよね? 食べてもらわなくちゃ~ 俺や君と違って、実に繊細でお姫様みたいな豚肉なんだからよ~」

そういう彼の豚だが、実はその品種を聴いてびっくりした。

おそらく銘柄豚でLWを使っているのはうちだけだろうね」

えええええええええええ
LWなのかぁ。

豚の世界では、品種の系統がかなり絞られている。最もよく耳にするのはランドレース(L)、大ヨークシャー(W)、デュロック(D)、そしてバークシャー(B)である。養豚の世界では、これらのアルファベットの組み合わせでその品種系統が表される。現在最も多く口にするのはLWDという組み合わせだろう。ランドレース+大ヨークシャーの組み合わせの雌豚に、雄のデュロックを掛け合わせることで産み出される豚で、非常に安定した肉質を得ることができ、かつ産肉性が高い(つまり肉が多量に獲れる)組み合わせといわれている。

鹿熊さんは種豚農家という位置づけだ。つまり、LWDを産み出すためのお母さん豚を作っているわけである。したがってLWという品種系統になる。鹿熊さんの種豚場から種豚を買い求め、雄のデュロックを掛け合わせる(このデュロックを「止めオス」という)とLWDになるというわけだ。

しかし鹿熊種豚場で生まれる豚が全て種豚として出荷されるわけではない。まず、自然の摂理によって、生まれてくる半分はオスなのである。これらオスは産後まもなく去勢されて育てられる。オスの豚は肉質が堅く美味しくないのである。またメスに生まれたとしても、種豚には向かない性質・形質を持つ豚ちゃんも多々出てくるのだ。

「そういう子達を飼養(しよう)して、出荷しているわけなんだよ。で、その内でスペシャルに育て上げられた豚だけをセレクトして東京圏に送ったりしているわけです」

そのスペシャルな豚ちゃんがこいつである!

実に美人度の高い、適度に脂の乗った旨そうな豚肉ではないか!

今回はブロックの大きな肉を調達できなかったようで、しゃぶしゃぶでいただくこととなった。実に瞬間的にシャブッとやり、ポン酢につけずにそのままいただいてみる。

黒豚のような、バークシャー系の血が濃い豚肉と違って、端麗・淡泊な脂の味わいではない。しかし、通常のLWDの豚肉とは明らかに性質が違う!脂身に重みを全く感じない、軽やかでキレのいい脂質だ。にも関わらず肉の組織の緻密さは高く、キメの細かい歯触りがある。

「LWでこの肉質は素晴らしいね!」

「まあ、品種による差よりも、育て方とかいろいろな要素で大きく変わってくるよ。旨いでしょ?」

本当に旨い。
最近は、バークシャーを掛け合わせた端麗な風味を持つ豚肉がブランド豚として君臨することが多いが、LW、そしてLWDでも佳く管理されたものであれば、実に素晴らしい豚が出来るという好例をみた。

この会には、純米酒伝道師である工藤ちゃんも参加。

実はまだ書かないでここまできたが、この4月から、工藤ちゃんがいよいよ居酒屋をオープンする。場所は錦糸町だ。そこで使う豚肉をどうしたものかという相談を受けていたのだが、今回、勉強のために来てご覧と言っておいたのだ。鹿熊さんと工藤ちゃんのいい出会いが、今後実を結ぶことを祈る。この肉質であれば、お客さんは絶対に満足できると思う。

会の最後頃に、ヒレ肉とロースの鉄板焼きが出てきた。ロースは想定の範囲内だったが、ヒレの淡泊さ、風味が非常に美しい!ヒレ肉はそれほど旨いと思わない僕だが、この鹿熊LWのヒレ肉は実に味わい深いものだった、と思う。

これからしばらく豚肉との濃い付き合いが始まるので、ちょこちょこと書いていきたいと思う。