総走行距離363キロ!秋田県縦断 日本酒としょっつると旨い飯ばかりの豪雪体験だったのダ! その3 世界レベルの旨さ!松岡グリーン豆腐と銘酒「喜久水」、そして魂の酒店・天洋酒店を巡る

2006年6月 7日 from 出張

「やまけんさん、次は八森が誇る素晴らしい豆腐を食べに行きましょう!その名も「グリーン豆腐」です!」

そう佐々木一正さんが叫ぶ。それを訊いた”白滝”の山本さんも「ああ、松岡のところですか」と笑う。なんと山本さんとその松岡食品さんの若旦那とは同級生だという。ということは、ここもまた同期35歳なのであった!

山本合名会社の外に出ると、雪はさらに降り積もり、しばらく車を暖気しないとワイパーも凍り付いているという状態であった。どうにかこうにか出発。

「晴れていれば本当に数分なんですけどね、この雪だから、、、」

と視界の悪い街道を行くと、グリーン豆腐という看板がみえてきた!

■松岡食品
http://www12.plala.or.jp/xxio713/index.html

「ここは、全国的なスーパーチェーンである○○社のバイヤーが『お願いですからうちに卸してください』とお願いに来るような、凄まじいこだわり豆腐メーカーなんですよ!」

と一生さんが言う。産地を廻っていると確かに、こういう非常に小さな工場(”こうじょう”、ではなく”こうば”と読みたいところだ)で凄まじい技術を駆使して逸品を作っているところがよくある。その雰囲気がプンプンしてくるのだ!

雪で凍り付いた引き戸をなんとか開けて「ごめんくださーい」と入り込む。と、座敷に通していただくと、そこには温泉旅館でみかけるような一人前土鍋セットが準備されていた!

「どうも遠いところから、、、」

と迎えてくださったのが、社長の松岡清悦さん。そしてこちらが白瀑の山本さんと同級生という、松岡清也さんである。冗談交じりに「あぁ山本のところに行ってたのかぁワハハ」と笑いながら、僕の食い倒れ本をパラパラとめくってくれる。

自己紹介をしている間、社長の奥様が豆乳を鍋にいれ、そこにニガリをうち、かき混ぜている。


こ、これが食えるのか、、、
でも、白状すると、まあこういう形の自家豆腐はよくあるよな、とこの時点では特に期待していなかったのだ。

「うちの豆乳、飲んでみてください」

と、紙コップに注いでくれた豆乳を一口飲む。

瞬間、ノンホモパスチャライズ牛乳を飲んでいるような、ネットリネトネトと口内の粘膜に絡みつくタンパク質!そして濃い、凄まじく濃い旨味成分が舌の上にデローッと流れ絡みつく!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお なんて濃い豆乳なんだ! でも、濃い豆乳にするなら水分量とのバランスでどうにでもなると思うけど、この旨味成分の量は半端じゃないですね!」

といった途端、社長の目がギラッと光った!

「あ、豆の味、わかってるね!じゃあうちの豆みせようか!」

といってごそごそと箱を出してくる。そこにはもう何種類あるんだろう、色とりどりの大豆品種がパックされていたのだ!

「ええと、これが○○でこちらが○○○で、、、」

と、豆腐にして旨い大豆品種の解説が始まった! 清也さんが笑いながら「始まっちゃったよ」と言う。この社長、素晴らしき豆腐バカ(←失礼)である。全国の大豆品種を試してみたそうである。僕が知る大豆品種はエンレイやタチナガハなどの、割とメジャー品種ばかりだが、そんなレベルではない。松岡食品が相手にするのは、味よし、見た目よし、歩留まりよしの三拍子が揃う品種ということで、地大豆といわれる零細品種ばかりなのだ!


中でもご執心だったのがこの二種だ。


とくに二番目の緑豆(緑色の豆)が一番よい、ということだった。この緑豆、表面は緑一色ではなく通常の大豆のうす黄色とのまだらになっている個体もある。なんともふんわりした可愛らしい豆である。

「これはねぇ、県の試験場の人とか、秋田の農家の人とかといろいろ情報交換をするなかで絞った大豆なんですよ。この豆のいいところはですねぇ、これなんです!」

といって社長、やおら爪でカリッとこの緑豆を割る!

おお!
なるほど。この豆、内部まで緑色である。
緑豆にもいろいろあって、表面だけが色が着いていたり、皮だけが派手な色だったりすることが多い。例えば小豆のような色が印象的な上の品種も、皮を剥いてしまうと通常の大豆と同じ色なのだ。

「この地大豆は、中まで緑色で、しかも美味しい!素晴らしい豆乳ができるんですよ。だから我々の商品である『グリーンとうふ』ができるんですわ」

おお、そうかこの地大豆があるからこそグリーンとうふができるわけだ!

さてそうこう言っている間に、土鍋の火が消え、蓋を開けるとフワッと甘い香りがただよってきた!

「さあ温かいうちに食べてくださいね」

と、スプーンですくうと、表面が驚くほどにピカピカツルツルツヤツヤである!

ぐおっ 旨そう、いただきまーす!と一口何もつけずにいただいてみる。
プルンプルンの豆腐ジュレは、人肌以上に温かいせいか豆乳の濃厚な旨味がさらに活性化されて、甘みと変化して舌にまとわりついてくる!

「この醤油がね、合うんですよ。これも地元のなnですけどね」

と薦められた安藤醸造元というメーカの醤油を少しかけていただく。


ぐあっ
こいつは旨いぃいいいいいいいいいいいいいいいい
醤油もまた豆腐と同じ大豆由来の、そして複雑に発酵した調味料である。塩分のみならずその含有する旨味成分は凄まじい量である。しかしこの安藤さんとこの醤油、松岡豆腐とむちゃくちゃに相性がいい!

甘さと旨味の際だったおやつのような豆腐に、醤油が加わることで立派な料理の一皿になってしまったのだ!すっげえ旨い! 僕もいろんな豆腐を食べてきたけれども、ここの土鍋豆腐はちょっとお目にかかれない程の旨さだ。大豆のポテンシャルと、それを最大限に活かす技法の二つが結びついているのだろう。

「あ、ちなみにニガリは何を使っておられます?」

「いろいろ試しましたが、やはり本物のニガリを使っています」


このセット(土鍋も)ぜひ我が家に揃えたいものだ。どうやら土鍋は共同で研究したメーカがあるらしくそこがパテントなども持っているらしい。豆乳と土鍋とにがりと、それと安藤醤油のセットがあれば速攻で買いである。

ちなみに清也さんの息子さんは、なんと作文で文部大臣賞(だっけかな)をもらったそうだ。もちろん
そのテーマは、豆腐屋についてだ。

「大きくなったら豆腐屋になるの?」

「うん!」

と当然のように頷いた彼は、僕の食い倒れ日記東京編を熱心に読んでくれた。

「こいつ、肉が好きなんですよ」

「あ、それならこの店に連れて行ってあげるよ」

とスタミナ苑や李朝園のページをめくると、「すげぇ、、、」とマンガのようにゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。これは食わせ甲斐のありそうな子だ!

帰り際、工場内をみせていただく。

規模はそれほど大きくないが、清潔さ、整然さはばっちりであった。

「実は、このグリーン豆腐を扱いたいと言っていたスーパーは、加工食品については厳しいHACCP的なチェックが必要なところだったんですが、チェックにきた人達が『全く問題ありません』といって、一発でOKが出たそうですよ」

と佐々木さんが言う。なるほどねぇ、そうだと思いました。


あ、これがグリーンとうふか!まだ食べてないから食べたい!と思ったら佐々木さんが

「あとでたっぷり食べられますから!それより旅程を急ぎます」

ということで食べずに出てしまった。松岡食品、秋田の八森に燦然と輝くこの豆腐屋。実に素晴らしい。グリーンとうふの真価はこの夜にわかるのであった。
(続く)