日本にも肉のドライエージングの時代が来るか!? さの萬さんのチャレンジは楽しみ!

2008年3月10日 from 食材

「エージング」とは、肉の熟成のことだ。畜肉は、それぞれの性質によって適した熟成期間があって、たとえば鶏肉やラムなどは精肉したての鮮度が重要になるが、豚肉や牛肉はある程度の期間を寝かせた方が美味しい。それもきちんと温度管理したうえでの話だ。本マグロを食べるとき、さばきたてのフレッシュな風味もよいものだけど、きちんと管理された温度で何日か寝かせたものの方がぐぐっと旨味が増す。肉も同じで、牛肉の場合は20日程度寝かせたものが美味しい。
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で、日本ではエージング方法としてウェットエージングというのが一般的だ。と畜・解体して部分肉という状態になったのを真空パックして、冷蔵熟成するものだ。肉の水分などがパックされているため、品質劣化や脱気をせずに熟成できる。これに対してドライエージングという手法がある。ステーキの本場であるアメリカでは一般的な手法で、枝肉や部分肉をそのまま熟成庫内に吊し、風を当てながら熟成させるものだ。当然、外側は乾燥し、カビが生えてガビガビになる。「大丈夫かよこれ」という色に変色してしまうが、そのガビガビの外側を切り落とすと内部は実に深紅の深い肉色になっており、アミノ酸含有量は非常に多量になっているという。

日本ではあまり行われてこなかったこのドライエージングが、これからは脚光を浴びてくると僕は考えている。だって、もう黒毛和牛のサシを追い求める風潮はピークを超していて、これ以上追求のしようがない。また、穀物価格が上昇しているので、肉の価格自体が上がる。黒毛は本当にごちそうになってしまうのだ。

対して、ドライエージングにかけると、これまで赤身中心ということで安くなっていた肉向けのホルスタインなどの牛品種の肉が、驚くほどに美味しくなる。先に書いたように肉の外側を削らなければならないため、歩留まりは落ちるしエージングコストがかかるけれども、黒毛とは全く違う深い風味の味を楽しめるのだから、シェフには使いがいがあるはずだ。

そのドライエージングを、以前から静岡県オフ会でお世話になっていた「さの萬」さんが実現したという。ありがたいことに、その肉のお披露目会に招待していただいたので、過日足を運んできた。
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「さの萬」の佐野社長は、これまでのオフ会史上最大の規模(250人!)となった富士宮オフ会で、銘柄豚である萬幻豚を焼いて提供してくれた方だ。富士山麓の朝霧高原にて牛・豚の畜産と提携し、肉の卸を営んでいる方で、ドライエージングにチャレンジしているという話はうかがっていた。

「日本では乳用ホルスのオスが安く評価されていますが、ドライエージングにするには黒毛などよりもこちらの方が美味しい。私も何回もアメリカに足を運んでノウハウを勉強しましたが、日本でドライエージングをするのはまた違ったチャレンジでした。」

という佐野さん、今回はかなり散財したと思うのだけど、60人くらい集まった業界関係者全員に、ものすごいステーキを振る舞ってくれたのである。
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なんと一人300g近くの肉!

フレンチレストランである銀座カンセイのシェフがこの肉に惚れ込み、塊でローストして火を通したものを切り分け、さらに網で表面を焼いたものだ。
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外側のガビガビ部分はこの日みられなかったけれども、切り口はとても深いピンク。焼く前の肉色はきっと深紅だっただろう。ちなみにこの肉は40日間熟成(1ヶ月以上!)だそうだ。
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その肉の味は、、、
極めて芳醇!
ドライエージングで脱水されているはずなのに、トロトロと柔らかくジューシー。
旨味はきちんと乗っており、ミルキーな香りが口腔内を満たす。なにより、とても健全な味がする。黒毛のBMS4~5のような脂ぎった旨さではない。
食べている人たち一同が「ふうううむ」「柔らかいなぁ」などと漏らしていた。

エージングの実際について関心があったので社長にいろいろ伺ってみたのだが、なんとドライエージングにすることによって、肉の歩留まりは4割ほど減る。つまり4割は削ぎおとして捨てなければならないそうだ。1ヶ月以上の熟成期間に4割の歩留まり減。黒毛と同じくらいのコストがかかってしまいそうだが、それにしてもこの味は黒毛では出ないだろう。

それに興味深い話があった。

「実は、たんに乾燥させるだけでは肉から水分がぬけてばさばさになり、旨味はあまり向上しませんでした。これは微生物の問題だろうということに行き着いて、様々な菌が活躍できるように熟成庫内にある仕掛けをしているのです」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
コレはおもしろい!
つっこんで聴いたみたところ、複合的な菌群による発酵こそが、肉の旨さを醸成するのだそうだ。そして、その菌の中には黒麹菌などもあるという。日本酒や味噌・醤油などと同じように、麹菌が活躍するということは、アメリカやヨーロッパのドライエージングとも違う、日本型のエージング方式ができるということではないだろうか。非常に楽しみになってきたのである。

最後に、佐野社長にお願いをしてみた。

「短角牛の肉を持ち込んだら、社長のところで熟成していただけますか?」

「短角?いいですねぇ、やりましょう!」

決まった!
ホルスタインもいいが、肉に黒毛の2倍ものアミノ酸が含まれる短角牛の肉であれば、もっと美味しくなるはずである。これ、ぜひ実験してみようと思う。もちろん牛肉だけじゃなく、豚肉も試してみたい。盛大に「食べる会」やりますか。

どちらにせよ、「さの萬」は偉い。日本のドライエージング技術向上のために、ぜひ頑張っていただきたいと思うのである!