2月15日の「アイアンシェフ」脇屋シェフvs山田宏巳シェフ、僕の審議内容を解説します。(後編)

2013年2月17日 from 日常つれづれ

さて脇屋さんの料理だ。

1.春餅とキャベツの香り炒め

 紫と緑のキャベツをミキサーにかけ、ジュースを搾って生地に練り込んで発色させた春餅。これにサヴォイ以外のキャベツ3種を炒め、発酵ザーサイと冬菜をあわせて風味付けしたものに、ふわふわ卵を載せたのが具。

キャベツのシャキシャキ感が残る火入れ加減に柔らかな卵との対比があって、とても好印象。

2.生キャベツのキャベカツ 温キャベツ添え

 寒玉キャベツを湯葉で巻いて、衣を着けて揚げたカツ。ただしキャベツは生の状態になるように、表面の衣だけが揚がっている状態だ。これには皆「面白いねぇ~」と大反応しておられた。中のキャベツがほんのりあたたまった状態で、シャッキリという歯切れ音が響く、実に面白い趣向。

 しかし、、、主役の寒玉キャベツの味が悪い。というか味がない。だから料理としての押し出しに欠けるのだ。おそらく脇屋さん、素材のキャベツをチェックする際に「ん?」と思っていたはずである。けれども、かといってそれじゃあサヴォイを使うとか、紫キャベツで代用するとかできるかというと、全て味と食感が違うから難しい。

 それと、食べるうちにあれっと思い出したのが、あの派手なパフォーマンスで作っておられた寒玉キャベツ丸ごとの土鍋塩竃焼き。僕はてっきり、あれをみんなの目の前で櫛形にざっくりと切り分け、豪快に供してもらえると思っていたのだが、その「温キャベツ」は細かく切り分けられて、生ハムなどが載ってこのキャベカツの添え物となっている。あれれれ、こんなに小さい扱いなの?この料理のとりかかりは時間的にも中盤以降だったので、うまく中心部まで火が入るというわけではなかったろう。ということは、最初からこの添え物的扱いでやるつもりだったということだろうか。ということで、このキャベカツ、僕の評点は低い。

3.ジューシーなキャベツの熱々まんじゅう

これはもう、料理としては実に旨かった。内部にジュースの湛えられた肉まん。「サヴォイキャベツを持ってかぶりついて下さい。キャベツを囓りながら食べていただいても。」という趣向で、楽しく美味しい。

 ただし、肉まんの具材になっていた寒玉キャベツの味が前面に出てこないので、残念なことに普通の肉まんの味の域を出ない。生のサヴォイを囓っても、残念だが期待されるほどのキャベツの風味は口の中に拡がらない。これに関しても、素材が残念の一言。肉まんは素晴らしく美味しかった。

4.宮廷風葉牡丹キャベツの蒸しスープ 旬の組み合わせ

 金華ハム、干し貝柱、干しエビ、干し椎茸などの乾物類のスープでキャベツを煮揚げた一品。その趣向は山田シェフのセコンド料理と同じような発想、イタリアンと中華という違いである。熱々で身体の温まる、滋味深い一品。ただし、やはり一時間で仕上げているためか、奥行きは少し狭く感じる。

 どちらのシェフもコンソメや乾物スープなど、まともに作れば恐ろしく時間のかかるものを使っているということは、使うであろう食材の事前の仕込み&持ち込みは許されているのだろう。だから普通に厨房で使っているものと遜色は無いはずだし、これだけのオールスタースープなのになぜか感動があまりない。

 うーん、、、やっぱりキャベツなんだろうなぁ、、、干しエビの香りが前面に出て、キャベツの風味はそれより引っ込んでしまっている。だから僕はここで「干しエビの風味って強いですね」とコメントした。キャベツ料理としては、あわせたスープ類が全てを持って行ってしまっていて、相乗効果になっていなかったのだ。

 この料理に関してだけ言えば、サヴォイキャベツを使ってとろとろにした方が佳かったと思う。けれどもおそらく、サヴォイの場合、どれくらいの時間をかけて煮込んだらどうなるというシミュレーションができなかったのではないだろうか。それを確かめるため質問した。

「中華でもサヴォイは使いますか?」

「いえ、普通は使いませんね、、、」

やはりそうなのだ。脇屋さんの料理の中でサヴォイが出てきたのは、春餅の生地にしたジュースと、肉まんを包む生のもの。その扱いの違いは、料理文化の違いだったのである。

以上4品で脇屋さんの料理、終了。

さてシェフは退場し、審議員は手元にある採点表に記入をする。みな頭を抱えていた。

「うーん、、、」

僕もだ。これは難しい!

採点表は、食材を生かしたおいしさ:10点、デザイン:5点、独自性:5点の合計20点でつけることになる。番組をみてみたら、僕の採点が他の新議員の方々より低い点数で、18vs17で山田さんが一点差で上となった。

この内訳は、山田さんの場合、食材をいかした美味しさが8でデザインが5、独自性も5という内容だ。

対して脇屋さんの評価の内訳は、食材を活かした美味しさが8、デザインが5、独自性が4とつけた(と記憶している。採点表は提出しちゃうので記憶に頼るしか無い)。

なぜこういう採点になったのか!?

それはやはり食材選択がものを言ったということだ。僕は素材の評価をすることを期待されてこの場にいるものと考えたので、もっぱらそこに集中して評価した。4種のキャベツのうち、メイン食材であるべき寒玉はあきらかに今ひとつの味。でもそれはシェフの責任では無いのだから目をつぶって、『本来はこんな味だったろうなあ』という想像力をはたらかせて採点することも出来た。

しかし、山田シェフはサヴォイを多用することでそれを回避した。しかも、サヴォイが続くことを飽きさせないためか、ひとつひとつの火入れを調整し、食感を変えて楽しませてくれた。それが意図してなされたものかどうかはわからないけれども、僕はそう評価した。

脇屋シェフにとってはサヴォイはそう使いやすい素材では無い。だから寒玉中心の料理となったのは仕方が無い。従って、「素材をいかした美味しさ」の評点は同じにした。ただし「独自性」の部分はどうだろう?中華の技法を駆使してまとめてくれたけれども、最大の「オオッ」とおもわせる土鍋フランベキャベツの扱いがとても小さくて、正直言うとガッカリしてしまったのだ。

最後の一押しは、山田シェフがドルチェとして出してきたキャベツ金時かき氷だ。一品多くなったというだけではなくあそこで僕らは驚き、そして思わず笑みがこぼれた。製作過程を見ているからわかっているのに、口に入れたとたんに意表を突いた味が感じられ、とても楽しかったのだ。これを独自性で評価しなくてどうする。

ということで、料理の味そのものは引き分け。サヴォイを使いわけたことと、キャベツ金時の面白さの二つのポイントを、独自性の1点の差に込めた。

実はこの次点で、僕は「そうはいっても山田さん負けるだろうな」と思っていた。サヴォイはどちらかといえば地味な味わいだ。最初のバーニャカウダも、その次のロールキャベツも、審議員が興奮するほどの美味しさではなかった。その後のパスタとトロトロキャベツは盛り上がった。しかし、脇屋さんの料理ではキャッチーなキャベカツが盛り上がったり、肉まんのわかりやすい美味しさ、最後のスープの濃厚さが手堅い。そう予想していたのだ。

だから、集計後に壇上に整列し、結果発表の時を迎えたときは驚いた。

「勝者、ノミニー、山田宏巳!」

とコールされた瞬間、会場内爆発。僕の右横がノミニーの応援席だったのだが、みな総立ち、泣き崩れる人たちも居た。山田さん、あんな無茶苦茶な行き方をしているのに、愛されてるんだなぁ、、、とやっぱりここでも目頭が熱くなってしまった。

収録はここまで。実はこの日、もう一本収録が控えていたのでさっさとセットを譲り渡さなければならないのだ。審議員は段を降りて控え室へ。さっきまで喰いたかったケータリングを観る気も無いほどに満腹。意外に腹一杯だなぁ。着替えて、帰りました。スタジオを出てタクシーを探していると、駐車場から出てきた車が停まって、窓から外国人の方々が「みてましたよ〜!とても面白かった!」と。観客席にいた方々だろうか(何人か外国の人が居た)、声をかけてくれた。

録画を観て、翌日の山田シェフの還暦パーティーの模様をみてびっくり。あらまあ、ど派手なパーティーですな。番組では「表舞台から姿を消していた」とあったけれども、基本的に料理人人生は続いていた。ただ、以前よりグンとメディアに出る回数が減ったのは事実だからまあいいでしょう。けど、この還暦パーティー映像は余分だったと思う。その分、試合内容に充てればよかったのに。

食材のキャベツのことについては、フジテレビのスタッフにメールをしておいた。一同、これからしっかりやりますということで返答いただきました。返す刀で、3月のどこかで放映になる食材の産地紹介を頼まれたので、とびきりの生産者を紹介した。

「その方になるかどうかはまだわからないんですが、取り寄せてみます」

と言うので、まあ立場はわかるが、喰ってみろと思ってたら、先日連絡があって「決まりました。食べてみてスタッフ一同、ビックリしました、、、」とのこと。当たり前だわい。最初から相談しろっつうの。

という、ことでした。いまのところ3月収録分の審議員としての出席オファーは無い。番組どうなるんでしょうか。でもこんなに面白い番組、なくさない方がいいと思うけどね。

そうそう最後に、『採点はコントロールされているのではないか?」「出来レースではないか?」と書いているツイートやWebをよくみかけるが、どうでしょう?この日の審議員は秋元さん反町さん田崎さんマッキーさんに僕。このうち、食関連で仕事をしている田崎さん、マッキーさん、そして僕が採点に手を加えられることを受け入れるはずが無い。そんなことがもしあきらかになったとしたら、業界で生きてけないでしょう。そうなると、意図的に手を加えられる立場としたら秋元さんか反町さんとなるけれども、その秋元さんは4人の中で唯一、脇屋シェフに軍配を上げているのだ!したがって審議員がコントロールされていたと言うことは無いと僕は考える。

まして、脇屋さんという、現代日本を代表する中華の料理人が手心を加えるというのは、何よりも考えにくい。素材の悪さに苦戦した、というのが真相だと思う。ちょっと気の毒。僕的にはぜひ4種のキャベツを活かした回鍋肉なるものを作ってもらいたかった、、、(笑)

それにしても、料理中や採点中のコメントがすでに山田シェフ寄りだった、という声があるかもしれないが、あれは違います。編集ですよ。というか、おそらくフジテレビは意図的に、番組を盛り上げるために編集してる。現場ではもっともっといろんな攻防とコメントがあったのだ。終了時、僕は他の審議員さんの表情をみながら「これは脇屋さんだな」と思っていたのだからね、、、

ということでございました。

あー 書くの疲れた。でも、面白かった!以上、アイアンシェフ審議員になっての顛末でした。