極めて温かい優しさが溶け出している! 超上質フレンチ 市ヶ谷「オー・グー・ド・ジュール」

2004年4月16日 from 首都圏

 市ヶ谷の上智大学そばにある人気フレンチ「オー・グー・ド・ジュール」はあまりにも著名なので、改めて述べるまでもないだろう。なーんちゃって実は僕も行ったことがなかった。この度ランチではあるが、ゆっくりと味わうことができ、感動したのでしたためておきたい。

 店は市ヶ谷からほど近い立地にありながら、大通りをひょこっと入ったところにあるため、たたずまいが全体的に落ち着いている。

 エントランスにウェイティングバーがあるので、ランチ時にも待ち客が並び、なかなかの盛況である。ランチどき、予想通り女性客ばかりである。春の陽気を反映してか、パステルカラーのカーディガンを羽織ったマダムかプチマダム系の女性客もしくは雑誌編集者然としたキャリアウーマンが席を陣取っている。

 相方はまだ二度目だというが、すでにウェイターが顔を覚えていて、談笑が始まる。こういうことは非常に大事だ。一度来た客を覚えているというのは、サービスをする人間の基本的技能である。そこから、如何に気持ちのいいサービスができるかという深化が始まるからだ。

 ランチコースは3通りある。3千円台のAコースはメインがビーフストロガノフ。4000円台のBコースは魚と肉がつく。そしてお任せコースは6000円台で、かなり選りすぐったメニューとなる。ここは一発おまかせか?と思ったが、初めてなのでBコースでオーソドックススタイルな実力を見せて頂きたいと思う。でも足りなさそうなので、ビーフストロガノフを1皿アラカルトで追加するのであった。

 結論からいうと、最近のフレンチらしく、素材に気を遣い素材にかぶるような味付けをせず、あくまで自然に技巧を凝らしている非常によいコースをいただいたのであった。

■前菜:長ナスのコンソメ煮と魚介のタルタル・ドマトジュレ載せ

 こうした小粋な前菜が大好きだ。前菜ばかり5皿くらい食べて腹を満たしたくなるくらいに好きだ。そしてこの前菜が実に気が利いていた。長ナスは一度素揚げをし、賽の目に切った後にコンソメで煮てある。これをセルクルで底に敷き、上にカニやホタテのタルタルを載せ、一番上にはトマト水のジュレを載せている。写真で上に透明なジュレがみえるだろう。トマトの断面に塩を塗り、浸透圧で透明な水分を抜いたのがトマト水だ。透明感のある液体なのにトマト味が濃いので、よく使われる。
 この一皿の完成度が異様に高く、期待感が高まってしょうがない。長ナスには微妙に歯応えが残りつつトロリ感もあり、魚介のタルタルをまとめる油分の多いソース、そしてジュレとの相性が抜群である。

そして相方が頼んだのが実に美しい一品であった。ズッキーニの花にサーモンなどを詰めたものらしいが、味見していないので愛でるだけであった。

■花ズッキーニの詰め物

■鯛のポアレ タプナードソース

 鯛はかっちりと火を通してあり、和食のヘシコ(サバや鰯のぬか漬け)のような香りと渋みを呈するタプナードペーストが載せてある。ややぼそぼそ感が強かったが、タプナードの渋い味わいが悪くない。付け合わせの野菜は菜花とグリーンピースとミニアスパラのソテーだが、菜花は油との相性抜群。個人的にはピースは今ひとつ、ミニアスパラも見栄えだけで味は優しすぎて食べた気がしない。

■鴨(ムニュを覚えてないので正式名ワスレタ)

 そして実にうまかったのがこの鴨だ。鴨にはふんわりと熱が回っており、ジュ(肉汁)が染み出している。これがソースを薄めてしまっているのはちょっと残念。しかし、肉自体に旨味と汁気が湛えられており、優しい感触でムリムリと咀嚼できる。

思わず

「鴨の品種、なんですか?」

と訊いてしまったが、ウェイター氏が笑って

「よく訊かれるんですけど、これは特別の品種ではない、フランスからの輸入ガモなんです」

とのことであった。旨いよぉ、、、この鴨。

しかも付け合わせの野菜のスープ煮が実に滋味溢れるものであった。ソースが素材感を活かしたあっさりめのものであるのも相まって、全体に食べてに対決姿勢をとらせない、温かい皿である。

■ビーフストロガノフ

 オプションのストロガノフは、ロシアの正調ストロガノフではなく、ドミグラス系のものだ(ロシアではサワークリームで煮る、白いストロガノフが正調とされる)。でも日本人にはこっちのほうが合うのではないか。ブイヨンとバターをしっかり含んだライスと、赤ワインの香りと旨味が残るストロガノフの相性は最高である。


 そして、実は真のクライマックスはデザートであった。
「フルーツのロールケーキ、チーズのタルト、シャーベット、、、」
というラインナップの中で、「ん?」と思ったのはやはりロールである!そう、比較対照として、門仲ペリニィヨンのロールケーキがある。しかも、ロールケーキをメニューとして出すなんてあまりきかない。ということは相当に自信作なのであろう。

■フルーツのロールケーキ

 果たして予感は当たった! このロールはスゴイ! ペリニィヨンのロールのスポンジがふんわり系であるのに対し、オーグードジュールのはみっしりみっちりと繊維が詰まった、しっかりしたスポンジだ。ふわっと黄身の香りが立つのが最高である。
 そして、、、なんとこのロールに仕込まれているのは、カスタードクリームなのダ!実に濃厚な、バニラの香りたっぷりのカスタードが、これでもかと詰まっている。

 苺、キウイ、ラズベリーなどがみっしり配されており、ゴージャス極まりない。持ち帰りの値段を聞いたら、

「20センチくらいで4000円となります」

と言われて萎えてしまったが、まあその価値はあるだろう。


 いやぁ、実に佳い店だった。人気店には理由があるなぁ。サービスも心地よく、柔軟に対応してくれ、ウェイターも料理について理解があり、何より客を喜ばせることを至上としたいい雰囲気が漂っている。極めて陽のエネルギーに満ちた空間であった。
 帰り際シェフが相方に顔を出して下さったが、質実剛健そうな方だった。上智大学の大学生は、舌が肥えるだろうなぁ。ウラヤマシイ。

 大満足!しかしフレンチはいくら食っても、その後にジャンキーな味の何かが食べたくなるなあ、、、と、足は銀座に向かい、ジャポネのナポ大を頼む俺もいたのであった。