金ちゃんの店 吟寿司再訪 牛トロ寿司の新天地に驚愕&旨い! そして牛トロの秘密が明かされた、、、(その2

2005年7月22日 from 出張

(その1から続く)

さてこの金ちゃんの吟寿司を吟寿司たらしめているのは、何と言っても牛トロ寿司と牛トロ巻きである!

霜降り牛肉をネタに握る寿司は全国色んなところで目にする。けれども基本的に美味しいと思ったことはない。魚とは脂の融点が違うので、口の中でベッタリと蝋(ろう)が残ってしまうような感じがして、美味しいと思えないのだ。霜降り肉を使うより、タルタルステーキに使うような赤身肉でやった方がいいのではないか、と思っていた。

そう思いながら、この店に初めて来た時には、半信半疑で牛トロ寿司を食べた。そして、すべての先入観が消し飛んだのである。

金ちゃんが、ネタケースの裏のクーラーボックスを開け、丁寧に一枚ずつしゃぶしゃぶ肉のようにラッピングされた牛トロの薄切りを取り出す。どうやら超低温で瞬間凍結させているようだ。なるほど牛肉はマグロ以上に大型だから、一頭の個体からかなりの肉が出る。その中で品質がよいものを目利きして買い込んで冷凍しておくのだろう。

しばらく置いて凍結を解いた後にラッピングを外し、握り大に切り分ける。そしてシャリをとり、キュッと握ったところへ、素早く秘伝のミソを塗り、その上に牛トロを載せて握るのだ。

そうして出てきた牛トロ寿司の威容が、冒頭の画像にある魅惑的に美しいまだらピンクの画像である!

「醤油つけないでそのまま食べてね!」

といわれるがまま、一口に食べて驚愕すること間違いないのである!
まず、口の中の温度で牛トロの脂がしっとりと溶け出すのだ。それも、蝋のような脂ではない、トロリと濃い風味を持ちながらサッパリとした脂が、だ。そこに、秘伝のミソの味が絡んでくる。このミソが何とも言えない風味で、肉の旨さとシャリを媒介するのだ。

牛トロ寿司を食べてビックリしていると、たたみ込むように次のネタが出てくる。牛トロ巻きである。

牛トロを細い短冊に切ったものを軍艦の上に載せたものだ。このように切り方が変わり軍艦になるだけで、味の表情は大きく変わる!淡く消えていった牛トロ巻きより、海苔の風味が加わり、牛肉の切り込みのせいもあって立体的な口当たりになる。

ちなみに牛トロの短冊の下には、秘密のミソが塗られている。じっくりこのミソを観察していると、金ちゃんが

「はいよ、舐めてみる?」

とミソだけ指先にチョンと塗ってくれた!

ふうむ、いったいこれはどういうものなんだろう?鼻を近づけると、なんだかとても身近に使っているスパイスのような香りがする。そして舐めてみると、ベースはどう考えても味噌である。麦味噌系の、甘めの味噌がベースになっているようだ。しかしそこに洋風のスパイスや胡椒が練り込まれているのに加え、決定的に味を決めている要素があるようだ。それが何かは、全く見当が付かない。とにかくこの味噌と牛トロが合わさることで、激烈なマッチングになっているのである。

さて、実は僕はここの太巻きを食べたことがなかったのだが、先日僕の友人の野崎が、北海道でチーズの大会の審査員を務めた帰りにこの店に寄ったらしい。そしてその時電話をかけてきて「お前も食ったことがない太巻きを食ったぞ。旨かった」とのたまうのだ。むー何てヤツだ。俺も食ったことがないものを食べるなよ!と思いながら今回は忘れずにそれを頼むのである。

金ちゃんがギシッギシッと巻き簀を締めていく。観ていると、何だか豪勢な具ばかりが巻き込まれていくぞ、、、

「はいっお待ち!これも醤油つけないでそのまま食べてね!」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
これはベリーゴージャスリッチな太巻きじゃないかぁ!

海老、イカ、マグロ、とびっこ、そしてウニを牛トロが巻き、あの秘伝味噌が二筋アクセントに加えられている。ゴージャスな具がはみ出んばかりのこの太巻きにかぶりつくと、これはマジでヤバイ味である。激旨なのだ!牛トロは実は全てをまったりと包み込んで旨味を増すための介在役で、海老・マグロ・イカの旨さを強く引き出している。そしてウニと秘伝味噌が絶妙のコンビネーションでそれらの具に味を付け、世界を拡げているのである。

旨い!


「ヤマちゃん、まだだよ、これから出てくる牛トロの細巻きが旨いんだよ!」

と岡坂さんが言う。家に土産に持って帰る定番がこの牛トロ巻きなんだそうだ。


この牛トロ巻きには、ネギの細切りが仕込まれている。

「あれっいつもより肉が太いぞ!ヤマケンサービスされてるな!」

というその牛トロ巻き、これもまた絶品なバランスだった。

驚いたことに、牛トロ寿司に牛トロ軍艦巻き、太巻きと細巻きの全ての味がまったく違い、飽きることがない!これは本当に素晴らしい創作寿司だと思う。

しかし本当にこの牛肉が謎だ。一頭の牛からそのまま採ったものなのだろうか、どれくらい熟成させたものなのか、、、等々、頭を色んな推理がよぎる。

「あのね、うちの牛はもう買い入れる農家さんが決まってるんだよ!ほら、この記事を読めばなんでとろけるのかもわかると思うよ」

と言って、金ちゃんがある雑誌の特集記事を読ませてくれた。

なーるほどー
不飽和性脂肪が多量に含まれるような和牛生産をしている農家が、道内にいるのだそうだ。マジックだな、本当に。

しかし、そういった食材を発掘し、それにベストマッチな味噌を創り上げ、独自の路線を確率した金ちゃんは本当にエライ!普通の寿司を握らせても旨いのだけど、ここにきたらやっぱり牛トロ寿司を食わずに帰ってはならないと思う。

「いや、旨かったッス!」

「よかったよ!やまけんちゃんまたおいでよ!」

金ちゃんと、息子さんのケンちゃんと別れを交わす。またすぐこよう。冬はここでタチ(真鱈の白子)の握りを食うのが楽しみなのだ。

さすがに焼き肉と寿司を食って限界。皆さんと別れ、ホテルパコの自室に戻り、ベッドに崩れ落ちたところから、記憶がない。