南海の極楽アイランド・種子島縦横無尽~鉄砲より魚! こんなに素晴らしい食世界があったか! その1 

2006年1月31日 from 出張

朝9時羽田発の飛行機に乗るために羽田へ。

京急線ホームから上がったところにある書店に僕の本があるか?と思って通ったら、、、一番目立つ硝子棚に刺してある! 思わず店員さんを抱きしめようかと思ったが、男性だったのでやめておいた。
飛行機に乗り、鹿児島での乗り継ぎを経て、名機YS-11のプロペラ音を聴きながら種子島空港に到着。小さな空港の待合いに入ると、20人弱の人々がニコニコしながらそれぞれの客を出迎えにきている。

と思ったら!

「やまけんさん、お待ちしてマシたぁ~」

とその内の10人弱が僕を出迎えに来てくれた方達だった!マジ?しかも中には町会議員のセンセイまでいらっしゃる。僕はいつも出張先に着くまではジーンズで、空港で着替えることにしているんだけど、そんな暇がないではないか。

「じゃあさっそく昼ご飯を食べに行きましょう!」

と行った先には、今度は市長さんと助役さんが待っておられた(汗)
もしかしたらこの方々は僕のことを何か勘違いしているのではないかと本格的に心配になる。今回は、農産物や食品のこれからのトレンドやマーケティング、トレーサビリティについての2回の講演をするためにやってきたのである。種子島はもちろん初めてだ。鉄砲伝来の地であるということと、日本で最初に茶葉が収穫されるということ以外には予備知識がない。

講演はかなり白熱というか、一人で勝手に白熱した。聴いてくれているのは農業改良普及員や農協担当者、行政関連だ。講演では何人が寝るかというのが重要なバロメータになるのだが、ほとんどの人がずっと聴いてくれている。それでのってしまって、日本農業の現状と今後、農産物のマーケティング、トレーサビリティの話を実に2時間半もしてしまった。

「いやぁお疲れ様でした!交流会の前に、ちょっとお連れしたい酒造があるんですよ!」

と連れて行ってもらったのが、島で獲れたさつま芋を原料にした高級芋焼酎「安納(あんのう)」を醸す、その名も種子島酒造である。

日本酒やビールまでも成長率では抜き去った本格派焼酎ブームの原動力となった芋焼酎だが、その味の差異を細部まで感じることができる人ってそんなにいないと思う。いや、僕もそんなに鋭敏に芋焼酎を利き比べることはできない。利き酒ではかなり信頼できる友人も「焼酎は正直なところ、よくわからないです」と言っていたくらいだ。
しかし、本格焼酎は原料の香りや風味を極力残す方法で醸される。安納芋という、種子島のトップレベルの特産品をつかった焼酎はどんな風味なんだろうか。

蔵にはいると、いきなり別室に通された。

「こちらが社長、こちらが会長、そしてお酒のコンサルタントさんです」

といきなり一番偉い方々にご挨拶することになり、恐縮。なんと全員、僕の講演を聴いてくれたのだという。

「ぜひ飲んで欲しいんですよ! その前に、原料にしている安納芋を焼きましたので食べてみて下さい!」

おおお
立派な大きさの安納芋である。
ところどころに染み出ているエキスは「蜜ですわ」とのこと。糖度もしっかりしているのだろう。

なんと訊けば、この種子島酒造では自家圃場をもち、原料芋の生産に着手している。全量を自家栽培芋でまかなうのは無理だが、それでもかなりの広さを持っていることを訊いて、俄然興味が出た。

「山本センセイ、私は農業の門外漢から始めたんですけどね、試行錯誤してここまでやってきました。農薬と化学肥料を使わない農法で芋を生産して作っていく。これが一番です。」

と会長がおっしゃる。まさにその通りである。慣行農法といわれる化学肥料と化学合成農薬を使っていた圃場を有機栽培に転換するには3年かかると言われるため、すでに従来型の農業を営んでいる人が転換するのは容易ではない。でも、ここのように他業種から参入するとやりやすいという側面があるのは事実だ。

「じゃあ、難しいことはさておき飲んでください。安納芋でつくった焼酎「安納」です。」

うおっと講演終了後、いきなり焼酎かぁ!ま、いいか、今日の仕事モードはもう終わりである。
ロックにするのがイイと言うことだったが、テイスティングするのにまずはストレートで、その後すこし水を足して香りを立たせて飲み、最後にロックにしてもらうことにした。

濃度の高い感じのする液体を少し舌の上に転がす。瞬間、ブワッと濃く甘い、紫のアントシアン色の分厚いカーテンのようなイメージが眼前に巻き上がった!これは素晴らしい。芋の香り、甘み、旨味が全て濃厚で標準以上なのにも関わらず、クセとして突出しているものがない。素晴らしいピアニストが微細に均一なタッチで弾くメロディのような、抑制のきいた美しさだ!

「おおおおおおおお これは素晴らしい焼酎ですねぇ、、、」

「そうでしょう? こちらは麹を米でつくった焼酎です。」

と、一般には流通していないと言う焼酎も飲ませて頂く。

上質な大吟醸の酒粕で造った粕とり焼酎のような、豊潤で美麗な香りと、ドシッとした芋の旨味がとけ込んで一体化した上質な焼酎である。

「ふぅううううううううううううむ 美味しいですよ!」

間違いなく美味しい。これはしかし鹿児島や種子島の地元の人が毎日飲む焼酎ではないな、都市部の人が買う焼酎だな、と思ったら、そのとおり「たいていは島外、消費地の方に販売しています」ということだった。いやしかしこれは美味しい焼酎だった、、、ちなみにすべて常圧蒸留。濃厚にしてクリアな味を出しているのは、コンサルの方の指導もあるのだろう。感服。

これが無農薬・無化学肥料栽培をした原料のみでつくった「紫極」という最高級品。1万円するわけだが、飲んでみてこれも全く他と違う個性を持つ焼酎だった。原料が無化学肥料栽培であるせいか、味にひっかかりが全くない。それを「あまり個性がないな」と見る向きもあるかも知れないが、川の清流のような澄んだ味は、希有な存在だと思う。かなり気に入りましたゾ。

しこたま飲んで言いたいことだけ言って、気持ちよくなってお別れをする。お土産にたくさん焼酎をいただいてしまった!ありがとうございました、全部飲みます。

駐車場に出ると、従業員全員のお見送りが!うわー そんなVIPじゃないんだよ俺は、と思いながらワンショット。

いやー酔っぱらった!

「やまけんさんすみません、すぐさま懇親会会場に向かいます!」

まじっすか!

懇親会は「井元」。むちゃくちゃ立派な構えである。そういや懇親会って、誰が何人くらいくるんだろう?実は詳細な日程はよくわからないのである。迎えてくださった方々が誘導するままに右往左往する僕であった。

座敷に座ると、まずは卓に並べられたすんごいプレゼンテーションの半割りの蟹が!

うわーすごいビビッドな蟹だ!

「これはアサヒ蟹といいます。この辺で佳く獲れるんですが、味が濃いんですわ~」

という。早く喰いたい!ちなみに半割になってないのも持ってきて頂いたが、うちわエビみたいな、ダイナミックな形である。

殻の中にはギッシリと肉が詰まっていて、旨そうな味噌の部分もタップリ。なにより、可食部分が大きく、食べやすそうである。

「それじゃぁやまけん先生にかんぱーい!」

の言葉が終わらない内にほじくり着手。

蟹酢が味噌で赤く染まる!
ワシッと口に運ぶと、ホックリとした強い蟹の香りが口腔内に充満!

「ぐおっ ほんとに濃い味!」

はっきり言って繊細さはない。それより蟹の味が強くドバハァッっと染み出てくるのだ!蟹好きなら狂喜乱舞のダイナミックな味だ。


お刺身に出てきた「アカバラ」。なんだかは忘れてしまったが、南国の魚はまずいという偏見をせせら笑うようなネットリした旨さである。醤油はもちろんトロリと甘い鹿児島醤油だ。僕はどの地域の調味料も美味しく食べることが出来るので大歓迎。ネットリと旨味を湛えた鹿児島の魚の刺身にこの甘い醤油は実に合う!

こちらは種子島が誇る「ミズイカ」実はアオリイカである!
アオリイカといえば超極上品。それがずどーんと大型の刺身になっているのだ!

もちろんコイツも甘い醤油で食べる。シコッと官能的な食感が歯に伝わり、少し力を入れると肉に歯が刺さっていく。絶品美味である!写真には撮っていないが、このゲソを下げて塩焼きにしてもらったのがまた絶品中の絶品!クニュクニュという超官能的な歯触りをいつまでも永遠に楽しんでいたい、、、と思わせるものなんである!

印象的だったのがこのトビウオのつけ揚げ。

薩摩揚げではなく種子島の名物であるトビウオを用いたものだ。これが実に旨い。トビウオの繊細にして強い個性を持つ味が、すり身でも伝わってくる。

トビウオの一夜干しに至っては、その身が湛える豊かなアミノ酸を十二分に堪能してしまった。ご飯が欲しくてしょうがなくなってしまう!

ブダイの竜田揚げも実に美味。

これまた濃い味なのだ。

「種子島では濃い味付けが多いですね」

というが全くその通りである。僕にはピッタリ。ていうか、おそらく焼酎に合わせるとそうなるのだろうな。
さて井元の女将さんが、「センセイお若いのに凄いわね」とやたら褒めてくださる。「もしかして独身?」と訊かれたが、隣に妻が居たので思わず「いいえ」と本当のことを言ってしまった(笑)だれか紹介してくれるつもりだったのだろうか、、、

その女将が「これ、センセイに食べてもらいたいから、うちの板長から!」と、なんとなんと伊勢エビを刺身にしてくれた!

美味いかって?
まずいわけがない!

トロリと溶ける伊勢エビの香りが実に最高でした。ご馳走様でした!
こうして懇親会の一時が過ぎていった、、、

宿泊の岩崎ホテルにチェックインし、風呂に入ると、すぐに睡魔に襲われたのである、、、

(続く)