札幌の夜、満腹でもう食べられません。ホクレン寺尾さんとの、食について語り、市場回復のために食いまくった一夜だったのだ

2008年10月14日 from 出張

PA028970 ホクレンとは、北海道全域の農協を束ねる団体だ。そのホクレンの野菜部門の方が、僕の著書を読んでくださって「会いたい」と言ってくださった。久しぶりに、純粋に人と会うためだけに、札幌へ渡った。PA028930 

いやー

ホクレンで野菜を束ねる寺尾さんは、やっぱり実に筋の通った人だった。

「山本さんね、都府県の人たちは北海道には若い大規模農家がたくさんいて、これからを担う後継者も多い、って無条件に思っちゃってる人が多い。けどそんなのは幻想なんだ。北海道農業の第一線にいる人たちも高齢化が進んでる。それに追い打ちをかけるように農産物の価格低迷が続いてるから、もう農業を辞めようっていう人たちが多いんですよ。」

そう、どうも北海道という特殊な、日本で唯一大規模農業を実行できる環境に対しては、過剰な期待をしてしまう。けれども北海道は長きにわたって不景気が続いている。農業がおかれている環境は都府県と同じか、それ以上に厳しいのだ。

「もちろん肥料の価格も高騰してるし、原油高だから生産のコストも信じられないくらいに上がってます。それなのに、販売価格は安いまま上がらない。農家を辞めろと言っているようなものです。けどね、農家みんな辞めちゃったあと、日本はどうするんでしょうね?」

寺尾さんと話しながら、僕は現在の日本の食に関するゆがみの原因は、やっぱりパワーの強い小売業者や外食業者などの、いわゆる販売段階にあるなぁ、と思ってしまった。

いま、農家の生産コストはものすごい勢いで上昇している。それなのに、販売段階の業者は、価格を上げない。

彼らは「消費者のため」と言うけれども、いま守るべきは消費者よりも生産者や流通業者であるはずだ。生産者や流通業者が食べていけないような価格で販売するということは、彼らを見殺しにするということである。

生産者側の人たちと話しをしていると、何とかしなければ、と思う。けど、それをなんとかできるのは消費者だけだったりするのだが。

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そんなことを考えながら、1時間ほど意見交換をした後、「じゃあ、ちょっとご飯食べに行きましょうか」となる。

「今日は三軒、準備してますから」

とニヤッとする寺尾さん。むむ、これは受けて立たないとね!

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■魚彩酒家 「またつ」
札幌市中央区 大通西15丁目 ニューライフ大通弐番館1階
011-616-0077
http://chachamaru.cocolog-nifty.com/matathu/2008/10/index.html

札幌の繁華街からちょっと離れた区域。

「こんなところにね、僕が通ってる旨い店があるんですよ」

明るい店内には生け簀もあり、大きな水ダコが泳いでいる。ご主人夫妻が美男美女!同行していたI女史が「きゃー ご主人、かっこいい!」と目が釘付けになっていた(笑)

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「やまけんさん、これ、あん肝より旨いかもよ。カジカの肝です」

おおっとカジカの肝!?
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うーん ほんとだ! あん肝より旨いというのではなくて、また違う味。
油分がそれほど強くなく、あっさりしている分、味わいに深みがある。カジカは北海道ではごく普通の魚だけど、東京では食べられない。残念なことだ!!!

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卓上にセットされていた蒸籠のふたをとると、なんとも美しい水ダコのごく薄切りにしたものが、野菜のうえに敷き詰められていた。

「これを蒸して、ポン酢か塩ポン酢で食べてもらいます」

下からヒーターで紙鍋にはいった水を沸騰させ、蒸気でふっくらとタコを蒸し上げる。

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「まだ?まだ食っちゃダメすか?」

といきり立つ僕を「まだ、まだもうちょっと」となだめる寺尾さん。
タコの身がキュッと軽く反り返るようになって、完成である。
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塩ポン酢につけていただくと、水ダコの柔らかいはずの肉がキュキュッと〆上がり、適度な歯ごたえが生まれる。そして加熱によって、淡かったはずの肉の旨味が前面に押し出され、塩ポン酢の控えめな味付けがそれを増幅する!

「はい、刺し盛り」

とだされた三点盛り、真ん中のボタンエビはまだ動いている、、、
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実は、活きたエビを剥いて食べると、甘さが生成されていない。ブリンブリンとした、なんともいえない強い歯ごたえに、ほのかなエビの風味を感じる。これを一晩おいておくと、甘さと柔らかさが生まれる。活きエビの味はまた違うのである。
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サンマの刺身を醤油につけてみて驚いた!燻製の香りがするではないか!

もしかして、、、

東京の赤坂・銀座にある燻製料理&バー「煙事」の燻製醤油じゃないか?

「大当たり!」

燻煙香がブワッと薫る醤油につけると、脂ののったサンマの身肉の味が拡がりすぎずにギュッとまとまる。これは新発見である。「煙事」の燻製醤油、うちにもあるからやってみよう(笑)

おつぎは、、、

「今年初めて『たち』が入ったよ!」

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おおおおおおおおおおおおおおおおおおお

「たち」は真鱈の白子である。軽く火を通しているから、旨さが十二分に増幅している。ネットリ、トローリと口中にまとわりつく旨さ!

ちなみに、

「やまけんさん、一人来る予定だったのが来られなくなったんで、二人分食べてください」

と、前菜からすべて二人分食べることになってしまった。うーむ この辺から徐々にヘビーな攻撃が繰り出されるようになる。PA028971
「牡蠣、普通に蒸したんじゃ面白くないから、バジルソースと、卵、練り味噌でそれぞれ食べて!」

おおおおっと なんか素晴らしい三連星。

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とくにバジルのジェノベーゼを載せた牡蠣が、実にイケル!
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北海道に来たらまずこいつは食べなければならない、ホッケ。PA028987

でかいっすねぇ、と言うと 「いや これはそんなにでかくない」 と言われるところがなんとも痛快。彼らが「デカイ」というのをいちど食ってみたいものである。


そして、、、 イカ!
この日、実はイカの刺身が非常に食べたかったのだ。きっと活け作りで出てくるだろうなぁと思っていたら、案の定、〆たてのものがでてきてくれた! 
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このイカ刺しの皿を観て、都府県に住むものとしては「ん?」と思うものがあるはずだ。まず、イカのワタ(ゴロという)が、そのなまめかしい断面をスパンと断ち切られて並んでいるということ。そして、そのゴロの上に小さく写っている、わさびのような、しかし薄黄色の塊、、、

「そう、北海道ではね、山わさびで食べてもらうよ!」

これ、ホースラディッシュである。北海道では通常のわさびは獲れない(のだと思いますが、定かではありません。獲れるようなら誰か教えてくださいませ)ので、このホースラディッシュ、別名山わさび、また別名西洋わさびをすり下ろしたのを刺身に使うことが多いのである。

「やまけんさんね、たぁっぷり山わさびをイカに載せて食べてね!」

と言われるがままに、乳白色のイカ刺しの束にどかっと山わさびを添えて底面のみを醤油につけ、口に運ぶ。噛みしめたとたんに鼻の奥にヅンッ!と山わさびの刺激が貫き通る!

ホースラディッシュには、大根の辛み成分であるイソチオシアネートが、凝縮して含有されている。一般に売られているチューブわさびの表記をみると、必ず「西洋わさび」と書かれているはずだが、それがこいつだ。本わさびのように清流で育つのではなく、根菜として土に植えて育てる。これを醤油漬けにしたのがまた旨いのである。

ホースラディッシュの辛みが過ぎ去りし頃、イカの甘さがじわじわと味蕾にまとわりつき始める。さきのボタンエビのように、甘すぎない甘さ。活きたイカでなければ味わえない。

「それとね、このゴロを試してみて! こいつを単体で食べるってあまりないだろう?」

うん、ゴロだけを刺身として食べることはないなぁ、と思いつつ口に運ぶ。
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おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

ビックリした!

ほろ苦さ、くどさ、臭みが一片も無い!

それどころか、ゴロの内部のワタ部分が実にじつに甘いのである!
ゴロは旨味の塊だから、僕もイカスミのパスタを作るときにはソースに必ず加えているけれども、こんな風に甘さを感じるのは初めてだ。いやーこれにはビックリした。

北海道の刺身、恐るべしである。

「げその部分は天ぷらね!」

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野菜と一緒にホタテとゲソをダイナミックにふんわりと寄せ揚げたかき揚げと、ゲソ単体の天ぷら。 うーん 刺身として旨いネタを天ぷらにすると、これがまた悶絶するほどに旨い、、、

「イカの楽しみ方はまだまだだよ、まだまだ。あのね、一番旨いのは、エンペラの部分なんだよ。こいつを寿司で食べるのが最高なんだよ。」

え? 寺尾さん、エンペラって先っちょの部分だよね。あそこを寿司に???

「考えてごらんよ、イカの身体で一番水の抵抗を受けて動いているのはどこだい?あの部分だろう!」

お、なるほど、そういう考え方もあるのか! と言う内にでてきたのが、これだ!
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まさしくエンペラの握り。噛みやすいように包丁目が入っている。
特製醤油をつけて口に運ぶと、、、
コルルリッと、歯に心地よくリズミカルな弾力を感じつつ、歯が肉に突き通っていく!
ああ、これは旨いね。味は身肉の部分よりもやや淡く、むそり食感を100%楽しむものだと感じる。

いやぁ タマランですよ。

「じゃあ、特製の卵ご飯で〆ますか。」

と言って出てきたのが、こんなセットだ!
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「まずは、卵にさきほどの燻製醤油をかけたものを食べてください。その後、イクラをどばぁっと好きなだけかけて、もう思う存分に食べちゃってくださいヨ」

うあああああああああああああああ

気が狂いそうである。早速実行!
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このつややかな黄身を割り、燻製醤油をタラリ、タラリと、、、
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「燻製醤油はね、あまりかけ過ぎちゃ旨くないんですよ。うん、それくらいでまずは食べてみて!」

ご飯に黄身と醤油を適度に混ぜ込みながら口に運ぶ。

うううううううううううううううううううううううううううううむ、、、、、、、、

これは旨いねぇぇぇぇ。 黄身の油分とご飯の甘さを、燻煙の香りと醤油の塩気が引き締めている! これ、家でもやろうっと。

そしてここに、イクラをドドォッと雪崩のようにかける!
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もう、言うことなしである。
この後もう一杯ご飯をおかわりし、卵の黄身からリフレインしました。

ちなみに、先に書いたように、単品ものはすべて二人分食べているので、すでにかなり満腹、、、

「いや、あと二軒あるんだって!」

マジなんですかそれ?

しかしこのとき食べた中で、心に最も残ったものが、これ。
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タマネギ、である。

「やまけんさん、これは北海道でも今年初めて市場に出荷する新品種で、商品名を『真白』(ましろ)っていうんですよ。辛みがないから、水にさらさないでも生でそのままで美味しく食べられるんですけど、試してみてください。」

タマネギには辛み品種と甘味品種があって、日本で栽培されているものはほとんどが辛み品種だ。外国で生のタマネギをそのままハンバーガーなどに挟んでいるのを食べて、あのタマネギの辛みがしないことに驚いた人も多いだろう。あれは、品種がちょっと違うのである(水にさらしてるのもあるけど)。

この「真白」はどっちなんだろう? 品種の特性として甘いのか、それとも辛み成分であるアリルイソチオシアネートを発生させないように何らかの肥培管理をしているのか。

どれどれと口に運んでみると、確かにあの涙が出そうな辛さが感じられない!
ふうむ、これは甘味品種なんだろうか、、、 実に興味深い。

「北海道のタマネギ生産はこれからが正念場ですよ。やまけんさん、今度はぜひ、産地を一緒に観に行きましょうよ!」

と寺尾さんが言ってくださる。ぜひ!行きたいです!PA028970
北海道の旨いもの、、、山のようにあるけれども、農産物が主役になることは滅多にない。けど、僕はやっぱり野菜が好きだ。「またつ」の素晴らしき料理と同じくらいの衝撃を、このタマネギは僕に与えてくれた。

いやー

それにしてもこの店、最高である。
次回、11月初旬にまた札幌を訪れるのだけど、ぜひ再訪したいと思う。PA029007
最後、I女史が「ご主人がかっこいい、かっこいい! 写真お願いしまーす」というので、ぱちり。でも、われわれ男衆からしますと、奥さんも美人でっせ。。

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「またつ」に別れを告げタクシーに乗る、、、
さて話しとしてはここで終わりにするのが美しいのだけれども、実は終わらなかったのである。

「やまけんさん、じゃあ次はジンギスカンね!」

えええええええええええええええええええええええええええええええ

まじですか?

俺ももう、このブログの初期のように底なし胃袋ってわけじゃなくなってきてるんだけど、、、でもそんなことはお構いなしに、タクシーはススキノの中心街へと向かう。
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さっぽろジンギスカン。ここが激烈に旨いのだそうだ。

「やまけんさんね、『だるま』とか『白樺』とか書いてるけど、ここで食べてみて!腹一杯でもするするはいるから!」

いやぁ~ ジンギスカンがするするってのは聴いたことがないが、、、でもよく考えてみたら、以前このブログでも帯広旅行中に、昼食食べてから白樺のジンギスカンを9人前、ほどんと僕が食べたことがあったっけ、、、と若き日の想い出に浸りながら入店。
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入店後、寺尾さんが「ジンギスカン4人前と猫飯!」と叫ぶ。猫飯ってのは、その名の通りこいつである!
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ジンギスカンは、スペアリブの部分であろうか、一皿に一本骨つきで出てくる。うーん新鮮そうな生ラム。店のお姉ちゃん(チャーミングな女性が三人!)に聴いたら、ニュージーランド産だそうだ。
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ひたすら焼く。
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結論としていうが、ここのジンギスカン、すごく美味しい!
生ラムジンギはいろんな処に連れて行ってもらったし、どこでも大きな外れはなく、むしろどこでも標準以上に旨かった。この店の生ラムの品質もとても素晴らしく、フレンチのコースに出てきても遜色ない質の肉だったように思う。
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タレもくどくなく、酸味のきいたあっさり味。それが、満腹になっていても美味しく食べられる原動力になっているのだろう。
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猫飯に肉を載せてどかどかと食べ勧めることができてしまうのが怖い。いつのまにか、ほとんど僕だけで3人前は平らげていた、、、
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「やまけんさんね、最後にこのタレにスープを注いで飲むのが旨いんだ!」

というと、おねーちゃんが「はい!」とスープの入ったポットをおいてくれる。これを、羊の脂がたっぷり溶け出したタレの器に注ぐのだ。
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このスープ、なんだろうか、梅干しのような酸味が効いたもので、熱々のを啜ると、肉の脂でなまりそうになった口中が爽やかに洗われてすがすがしい。うーむ 素晴らしいではないか! 寺尾さんが連れて行きたいと仰っていたわけがよーくわかったのである。

「けど、寺尾さん、申し訳ありませんけど、さすがにこの後さらにラーメンは無理です!」

と、久しぶりにギブアップ!

「なんだよぉ、連れて行きたかったのに」

とニヤニヤする寺尾さん。負けました、札幌の懐の深さに、、、

「じゃあ、ぜひ次回は産地に行きましょう!」

とにこにこ送り出してくださる寺尾さんご一行とお別れ。タクシーの中でとにかくベルトをゆるめる。

いやー 久しぶりに負けました。もう喰えん、、、

後日、事務所に「真白 」が10キロ届いた。これはまたの機会に、きっちりとポートレートを撮影して掲載させていただきたい。

寺尾さん、皆さん、どうもありがとうございました!