映画「キング・コーン」は、食に関する告発の新しいカタチか 我々の身体もコーンで出来ている事実を認識するために、観るべきである。

2009年5月 7日 from イベント,首都圏

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映画「キング・コーン」がイメージフォーラムシアターで上映されている。「食に関心がある」という人であれば、まず観ておくべき映画だと思う。

朝日新聞をとっている人は、先日この映画評が大きく載り、その紙面に僕のコメントもちょこっと載ったのを読んでいただいたかと思う。あの記事を書いたN沢さんに「やまけんさんに観て欲しいから、試写会に招待して!って映画の配給会社さんに言っておきました!」と誘われて、試写を観に行ったのである。

物語のあらすじは冒頭の画像をクリックしてサイトを見てもらえればわかるが、大学生の二人が、食べものについて調べたいと思う。DNAの検査をしたところ、身体の大半がコーンに由来する食物から出来ているらしいという結果が出たのに驚き、彼らはコーンを巡る旅を始める。アイオワ州のコーン畑を1エーカー借り受け、地域の人達に教えてもらいながらコーンを生産する。そして、その収穫物がどのように食物に変容しているか、を探る旅に出る、、、というものだ。

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面白かったのは、上記したように、ある検査機器を使うと、自分の身体を構成する分子レベルで、何に由来する食べ物からできているかということがわかるというシーンだった。現代日本人は何によって出来ているんだろうか。米・麦・大豆・コーンの穀物のうち、どれが最も多いのか、、、

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アメリカで生産されているのは、我々が夏に美味しく食べているスイートコーンではない。デントコーンという、飼料用の品種である。実は世界で最も作付けされているのがこのデント種で、ほぼ食用にはならない。エタノール燃料になるのもこれ。つまり、普通に暮らしているとスイートコーンこそがトウモロコシだと思っている人が多いだろうけど、スイートコーンは世界中で生産されているトウモロコシの数%に過ぎないのだ

もうひとつ。

日本人は知らないうちに大量のコーンを食べている。「え?私はそんなにトウモロコシを買わないよ」という貴方。

鶏肉・豚肉・牛肉・卵・牛乳は食べませんか? 食べる? それならば貴方は間接的にコーンを摂取していることになるのです。

つまり、日本での畜産の餌は、半分以上がデントコーンでできているのである。黒毛和牛の場合、肥育段階で4トン程度の飼料を食べるが、そのうち2トンはデントコーンである。通常、畜産を行う場合は、その国で最も安価に生産できる穀物を与えて育てるものだ。アメリカではコーン、ヨーロッパでは麦など、オーストラリアでは草。しかし日本だけは、終戦後のアメリカの嗜好コントロールによって、米国産コーンをたっぷり食べさせた肉が好きになってしまった。むろんアメリカのせいだけではなくて、生産コストを安くしろという様々な声から、安く買えた輸入飼料を使う方向へとシフトさせられたのだ。いまや、牛乳を搾るホルスタインであっても、高カロリーなコーンを食べないと生乳をたくさん出せないようにチューニングされてしまっている。

しかし、エタノール燃料などの関係でコーンが値上がりし、飼料価格は高くなってしまった。いまは落ち着きつつあるとはいえ、世界の穀物在庫量は依然として減少傾向にある。本来的には、日本は米国産コーンに頼るべきではないのである。

「でも、国産の飼料はコストが高くなるから、難しい」

と言う声が多数だ。でも、、、 もともと肉や卵、牛乳といった畜産物は、高くて当たり前なものではなかっただろうか。終戦直後の日本で卵はとても貴重なタンパク源だったはずだ。だいいち、今は肉や油の摂りすぎで成人病罹患率が高くなっている世の中だ。畜産物が高くなれば、自然にみな摂取率が下がるから、国民の健康にもいい。佳いことずくめだと思うけど。

話題を映画に戻すが、この映画が米国で創られたと言うことが実に興味深い。僕の学生時代からの盟友である、愛媛大学の野崎がいうには、「今、アメリカでも食に関する新しいドキュメンタリーの潮流が産まれつつある。若い世代は、アジテーションではなく、ファッショナブルは受け入れやすい形でのテーゼを行っている」という。

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映画の中で彼らが直面するのは、自分達の生活のなかに、知らないうちにコーン由来のものが溢れていたということだ。日本でも同じだが、でん粉はコーンスターチとなり、コーンシロップになる。コーンシロップというと「そんなの、うちでは使ってないよ」と言うかも知れないが、「果糖」といえばどうだろうか?清涼飲料水や加工食品にはコーン由来の果糖が使われていることが多い(正式名称は高果糖コーンシロップ)。映画の後半では、清涼飲料水やジャンクフードの摂りすぎで糖尿病を発症したタクシー運転手との対話が出てくる。アメリカでもコーンシロップには害がある、とする説が多いのである。

彼らは、自分たちが生産しているコーンは、社会のために役に立っているのだろうか?と悩む。肉牛生産の現場も観に行くが、そこは見渡す限り牛がコーンを食べながら育つ風景だ。

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そして物語の最後、彼らは自分たちのコーン畑を、、、

ここは書かないでおこう。結末は観てのお楽しみだ。

総じていい映画だったと思う。ただ、ドキュメンタリータッチだけど、どうみてもドキュメンタリーじゃねえな、仕込みがあるな、というシーンはある。けどまあそんなことはどうでもいいや、と思える説得力は、ある。

僕が一番よかったと思うシーンは、アメリカのコーン農家の補助金に関するくだりだ。主人公が近隣の農家にぼやくのだ。

「コーンの収穫を集荷業者に売ったんですけど、赤字なんです。」

それを聴いた隣人の農家はニヤッと笑う。

「で、政府の(補助金)プログラムからの支払で、黒字になるだろ!?」

というシーンだ。つまり、世界中の穀倉となっているアメリカのコーン生産は、収穫物を販売した価格だけでは成り立たない産業なのである! 補助金があって初めて成り立つのがアメリカ農業の屋台骨なのである!

日本では「農業は補助金漬けだ」とか「保護がなければ成り立たないものは産業ではない」などと言われるけれども、世界的に見れば、食料という戦略的なものに保護・補助を全くつけない国なんてないのだ。経済人・財界、そして日経新聞の農業関連記事を書く記者はこの事実をどう思っているんだろうか。

もちろん日本の農業構造において、適切な補助金が適切な人に渡っているかどうかということは考えていかなければならない問題だ。米の生産調整についても、おそらくここ数年で相当議論がおこるだろう。しかし、それと「補助なんかしなくていい」ということは全くリンクしないのである。この映画は、アメリカの事情を知ることによって、逆にそうしたことを明るみに出させてくれるものだと感じた。だから、僕はこの映画を推薦したい。

それともう一つ。この映画の中で、重要なシーンがある。それはコーンシロップの精製だ。彼らはコーンシロップ製造工場に片っ端から連絡をして、製造過程を見学させて欲しいと頼む。そして片っ端から断られる。で、彼らは自宅でコーンシロップを精製するのだ! ひゃーーーーーーーー これはスゴイ。硫酸やらなんやら、危なそうな化学実験が繰り広げられる。よく出来たなぁ、、、

ということで、、、この映画は、みる価値がある。そして、このような映画は、日本でも作られるべきだな、と痛切に感じたのである。ぜひ期間中にイメージシアターフォーラムに足を運ばれたい。

 

■シアター・イメージフォーラム
http://www.imageforum.co.jp/theatre/index.html

 

ところで。
イメージシアターフォーラムにはすげー久しぶりに行った、、、
実は、大学生の頃、文化人類学の授業の中で、トリン・T・ミンハというヴェトナムのドキュメンタリー映画監督の作品を「観てこい」と先生に命じられた。しかし、「姓はヴェト、名はナム」というその映画はあまりにもマニアックなもので、どこも上演などしていない。その映画について書いておられた文化人類学者の今福龍太先生に連絡させていただき、映画の配給はイメージシアターだから連絡してご覧、と教えていただいた。

イメージフォーラムに電話すると「あら偶然ね、ある相手に試写しないといけないから、○月○日に観に来なさい」と言ってくれたのである。その日、みそっかすのように端っこでみせてもらったが、イメージフォーラム社長のおばちゃんの存在感はものすごかったことを佳く覚えている。「あんた達、ラッキーだったね」と。いまもこのおばちゃん、お元気でイメージフォーラムを引っ張っておられるそうだ。あのときはお世話になりました。

で、肝心のトリンTの映画だが、、、

始まって20分くらいで、耐えきれず寝てしまった。んー おれにはドキュメンタリー映画は無理だ、、、スミマセン。