島根県は実は超・立派な農業県! 意欲的な生産者さん達に会ってきた! 異業種からの参入とみせかけ、超正道な有機農業家だった「反田組」の巻

2009年5月 7日 from 出張,農家との対話

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島根県で、とある生産者向けの会で講演を依頼された。どうせ島根に行くならば、と前日泊にして、いろいろとご案内をいただくこととなった。最近こういうパターンで、自治体の方にアテンドしてもらって、地域の篤農家さんを廻ることが多く、ありがたい話だ。

やっぱり、いい農家さんという存在をもっとも把握しているのはなんだかんだいって自治体だったりする。僕の情報源は県の農業改良普及員さんのネットワークだけどね。

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この日お相手をしてくださった県の皆さん。県の担当者が熱ければ、取り組みも熱くなる!自治体批判が多いけど、頑張ってる職員さんはたくさん居る。最近、自治体の会計とかの締め付けが厳しいけれども、あんましそうすると、彼らのモチベーションが下がっちゃうんじゃないだろうか? 僕は国の官僚も含め、十分な報償を得て欲しいと思う。そうじゃないといい仕事する気にならないんじゃないかねぇ?

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この日は折り悪く、大陸からの黄砂がものすごい量、ふりそそぐ日だった。おかげで写真を撮っても鮮鋭な画像にならない。上の写真もどうもくすんだ感じだが、これは黄砂の影響だ。

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こころなしか水平線もはっきりしない。

そんな中、県南に向かう。上野写真の中央のひげの御仁、僕と同じ山本さんは、なんと農業試験場出身で、かなりいろんな作物の育種に取り組んできた人だ。中でも、島根の酒米品種である「佐香錦」の育種に携わっていたというので、車中で盛り上がってしまった!

そんな彼らがいま取り組んでいるのが、稲作の「除草剤ゼロ運動」だ。稲作において最大の作業が除草つまり草取りだ。田植えと稲刈りは機械化が可能だが、除草作業は完全な機械化が難しい。やったことのない人にはわからないだろうが、じっとり蒸し暑い田の中で、ちくちく突き刺さる稲の葉にかゆくなりながら、田の土に足を取られないように移動して草を取るのはかなりの重労働なのである。従って、除草剤という強烈な効き目の農薬をふることで、おおかたの雑草を枯らせてしまう。

いまは稲作では収入が少なく生きていけないので、週末だけ田の世話をするという農家が多い。そうなると、手で除草するよりも除草剤の力を借りるなってしまうのが当たり前の流れだ。

それに対し、島根では「除草剤を使わないで米を作る」という取り組みをしているのだ。実にあっぱれである。第一その方が農薬の購入費もいらないし、健康面のリスクも少なくなる。とはいえ、除草作業は過酷を極めるので、大変だ。

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こういうことを県が推進する場合、本当にそれを実行しても問題ないかどうかということを極めて厳密に証明する必要がある。つまり試験研究機関が除草剤ゼロで行った場合の作業体系を吟味し、農家のリスクを最小限にできるとなった上で、推進できるのだ。彼らの苦労は並大抵ではなかったろうと思う。

「ま、そういうこともやっておりますが、今日は面白い農家さんを訪ねようと思います。まず一件目は、他産業の、土木業からの参入組です、、、」

ん、、、とテンションが下がる。

もう何回も書いているからおわかりだろうけど、他産業からの農業参入に関しては、僕はあまり肯定的にみていない。

「あ、でもやまけんさん、ここの人に会えばわかると思いますけど、よくある参入組ではないんですよ、、、」

という謎かけをもらいながら、出雲空港から1時間半程度かけて移動した先に、その農業主体「反田組」があった。

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「反田組」は土木工事をしていた土建屋さんだ。その二階の事務所に通されると、活きのいい若い男性がお茶を運んでくれる、、、と思ったら、この人が農業部門の責任者である反田孝之さんだったのである!

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話を聴いていて、さっき「参入組かよ、、、」と心の中で舌打ちしたのを撤回した。この人は、決して「他産業からの参入」ではない。お父さんが起こした建設業の会社を継ぐために入ってはいたが、昔からどうしても農業をやりたくて、有機農業家に師事。その後、千葉県に単身移住して畑を借り受け、夜は街で仕事をして朝昼は畑で様々な作物の栽培実験に明け暮れたという。その上で島根に戻り、桜江オーガニックファームという農業部門を立ち上げたというのだ。きけば、なんとこの人も僕と同い年! 最近、とみに同い年ネットワークが充実しつつある、、、

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反田組の主力商品はゴボウ。この地域は砂質土壌の土地があって、柔らかくアクの少ないゴボウが出来るのだそうだ。感動したのは有機JASを取得していることだ。この国の有機JASは大変なのだ。佳くやっておられると思う。最近、「有機農産物だって安全とは言えない」みたいなことをあげつらう識者がいるけれども、だからなんだよ、と思ってしまう。有機農業はやっぱり尊いものですよ。なんだかんだ言って、この世で最も管理・監視の目にさらされるのが有機農業なのだから。

この「はんだ牛蒡」、僕もお土産にいただいたが、確かにアクが少なく繊維感が柔らかい。ただし、アクがコッテリ入っていて、しかもゴリゴリした食感の牛蒡が好きな僕としては「もっとハードで佳い」と思う。それを伝えたら、

「うーん 難しいですよね。お客さんの多くは柔らかいのがいいと言うし、またアクが少ないことに関心をひかれるんです。でも、僕も実は悩んでます。アクがないけど、旨味があるという状態をどうやって作り出すか、チャレンジですね」

もちろんこのはんだ牛蒡、通常レベル以上の味なので、ぜひ試してみられたい。とはいっても、もうシーズンが終わったのでこの夏が過ぎてからね。青山の紀伊国屋スーパーに並ぶそうだ。ご立派!

もう一つ感動したのが、独自開発商品の「赤ずいき漬け」。

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サトイモなどの茎部をつけたものだ。実はこの赤い色は全くの天然色。塩で漬けるだけでこの色が出るそうだ。しかも乳酸発酵しており、梅干しと間違うほどに酸っぱい!

「嫁さんがこれの製造責任者なんですけど、けっこう評判いいんです。」

それはそうだろう、乳酸発酵した本漬け(古漬け)の地位ががたがたに低くなっている今、こんな本格的な味はなかなか出会えない。

「じゃ、圃場をみていただきますか」

と出発。はんだ牛蒡の圃場は、大きな川の横にある河川敷圃場であった。

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「ここの牛蒡はコンディションが佳くないから、あまり見せたくないんですけど、、、」

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「葉が巻いちゃってるでしょう、これ、気温が上がりすぎて水分不足になっちゃってるんです。トンネルのビニールを開けて通気しなきゃいけない。」

たしかに、葉面がくるっと巻かれている。この日は異様に好天だったのが災いしたらしい。

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「有機農業に惹かれていろんな人がやってくるけど、作業自体は地味で反復作業が多くて、大変。特にこの辺は夏の暑さが半端じゃないから、覚悟がないとやっていけないんですよ。社員が何人か居ますが、新入りが来たときには『ようこそ地獄の一丁目へ!』と言って迎えるんです(笑)」

という。
その通り、農業生産は派手な仕事ではない。畑の広さの分だけ、反復作業の連続である。家庭菜園や、それに毛が生えたくらいの面積で野菜を楽しく造っていただけではわからないつらさがそこにはあるのだ。 DSC_7304

土を握りしめてみると、本当に砂質だ。さつまいもなんかも佳いんだろうなぁ。反田組では牛蒡のほか、サトイモや麦も植えている。

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それにしても、こんな人物の農業を「他産業からの参入組かよ」と侮ってしまった自分が恥ずかしい。とても正道を貫く、農業バカであった。実に立派だ。

いま僕の会社で開発している農作業日誌アプリケーション「畑のあしあと for W-ZERO3」についても、これからもっとブラッシュアップしていきたいと思っているので、彼のアドバイスをもらえるようにお願いをして、別れを告げた。いや、強烈であった。(つづく)