宮崎県内での口蹄疫への防除態勢の崩れに思うこと 宮崎県内の人たちの緊張が切れようとしており、他方では緊張自体が存在していないという矛盾

2010年6月17日 from 口蹄疫を考える

文中に赤字で示す部分を追記しました。

本日付の日経新聞では「農水省 口蹄疫に対する防疫指針を見直し」と、なんだかもはやこの件が終わったような記事がでているけれども、まだ拡大しているんですよ、、、昨日、国富町ででた疑似患畜はすべて陽性。

宮崎の知人の話を聞いていた時のこと。

「いま、県内では小さな会合なども延期して、できるだけヒトの移動がないようにしてしまっている。けれどもそれじゃあ、地域の経済が動かない。防疫はできるだけのことをしたうえで、人の移動やビジネスは機能するようにしないといけない」

とおっしゃっていた。

これ、非常に重要な問題だ。今、宮崎県内で起こっている事態は口蹄疫による悪影響の第二段階だといえる。以前にも書いたとおり、畜産とは関係のない仕事をしている人たちまでもが口蹄疫によってダメージを被っている。それも、一週間程度ならともかく、いまや一ヶ月を超えようとしている。畜産関係者はすでに凄まじい額の被害をこうむっているけれども、観光や飲食といった「ヒトの移動」が前提となっている仕事に就く人たちの受ける打撃もきわめて大きい。むしろ、そちら方面へは何の補償もないので、そっちの方が深刻といえないこともない。

そうした畜産関係者以外の人たちが、「ふざけんじゃないよ口蹄疫、ふざけんじゃないよ畜産関係者!」というマインドになってしまうのが非常に怖い。防疫への協力も、長期化すれば「もうやってらんないよ」という人も出てくるだろう。そのいらだたしい気持ちが十分にわかるだけに、どうしたらいいのかと思う。

実際、福岡のTさんからの情報によれば、口蹄疫被害農場に泥棒が入り、備品が盗難されているという状況らしい。

「泥棒は消毒などしませんし、物品がどこへ流れているやら予測もつきません。」

とのことだが、本当にゾッとする。その泥棒行為も、食っていけずやむにやまれずの行為なのだとしたら、あまりに切ない。

だから、「防疫はできるだけのことをしたうえで、人の移動やビジネスは機能するようにしないといけない」というのは正論である。しかし問題は、いまだに防疫がしっかりしていないポイントが多いということだろう。週の初めに、宮崎からの友人を迎えて会食。その際に県内の状況についていろいろ聴いたのだが、うーん、と思うことがあった。

「今日、上京のために宮崎空港に入ったんですけど、どこにも消毒マットや防疫のための設備がないんですよ。せめて入り口に消毒マットを敷いて置くべきだと思うんですけどねぇ」

本エントリ投稿後に、宮崎空港では正面玄関と従業員通用口に消毒用マットを敷いているという情報を教えていただきました。どうもありがとうございました。その友人が気付いていないと言うことは、さりげなくおいておくという状態だったのでしょうか。それはそれで、「もう少し派手にやったほうがいいのではないか」という気もしますね。

それ以外にも、県内の要所と思われるポイントで必ずしも消毒・防疫が徹底されていないような状況だという話だった。確かに気になる。

僕は畜産県に出張にガンガン行かなければならない都合上、できるだけ宮崎に行く時も口蹄疫の発生していない地域だけを選んで行っている。けれども、冒頭の友人の言葉のように、どうも県内でも防疫に対して熱心な地域と層でない地域の温度差があるようだ。鹿児島県の知人の話を聞くと、もうすでに水際防止作戦が発動していて、ものすごい予防的消毒をして廻っているそうだ。おそらく一頭でも発症したら躊躇なく広範囲の殺処分を行うのではないだろうか。

いま、宮崎はもう暑くて蒸してて、ただでさえ不快指数が高い状況だと思う。そんな中で緊張状態を続けていれば、どんなにタフな人間でも精神的に持たないだろう。だからとても「よりいっそうの防疫意識の徹底を、などと軽々しくは言えない。

いったん拡がってしまった口蹄疫に対して、持続可能で効果的な口蹄疫対策をどうすれば講じられるのだろうか、その範となる事例はこの国の過去にはない。だから、いまから宮崎をどう支えられるかということが、周りで見守るしかない僕らの考えるべきことだろう。糸井さんがツイッターでつぶやかれたようだが、「宮崎のものを率先して消費する」というのは、いま直接的にできる一つの取り組みであることは間違いない。

あとは、宮崎産を扱っていないところに疑義を呈するということも必要だろうな。いくつかのスーパーの大チェーンが、宮崎産の青果が売れないからと大幅な値下げ要求を露骨にしていると言う話はいまだにある。「宮崎産」を差別から守ることは、消費者が売り場で「宮崎のものが無いのはなんでなの?応援したいのに」と言うしかないのだ。

どんな大チェーンでも一つの店舗でお客さんが10人くらい「なんで宮崎県産のものがおいてないのよ!」と声を上げれば、それは報告事項として上にあがる。それが多発的に起これば、チェーン全体で「宮崎応援フェアでも開催するか」という話しにつながる可能性がある。不買運動というのは消費者が行使しうる強い意思表示だが、それ以上に強いのは「買う」という行為なのだ。

宮崎県の経済が潰れるということは、このさき、同じように口蹄疫が発生した地域の経済もまた潰れるということだ。人の往来にストップをかけることができない本州に発生したら、文字通り全滅だろう。そうなった時には誰も日本という国を支えられない。まさに国が滅ぶ。

いま発生している宮崎県でどのような防疫をすれば有効で、どのようにしなければ広まってしまうのかということを我々は学ばせてもらっている。冒頭に掲載したようにいま農水省で、防疫指針の改定をするようだが、それは今回の宮崎ケースが発生していなかったら、行われていないはずだ。言い方を変えてみれば、宮崎県が偶発的に選ばれ、身を切るような思いをしながら実体験してくれているとも言えるのだ。だから、彼の地の経済を少しでも支えなければならないと思う。せめてそのことを忘れてはいけないし、マスコミもちゃんとそういう報道をして欲しい。

PS ちなみに僕が宮崎にいくと必ずと言っていいほど食い倒れにつきあってくれる飼料業者さんは、そのお客さんのほとんどが牛と豚の畜産農家だったため、98%の収入ダウンを余儀なくされ、本気で廃業というか業態の転換を考えている。98%ですよ98%。食っていけませんね。