土佐あかうしの流通業者さんが「このひとんとこの牛が出てきたら絶対に買いですわ」と唸る肥育農家・小原さんの土佐あかうしを食べた!

2010年12月27日 from 出張,日本の畜産を考える

 

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先の赤肉サミットで、フレンチの名店であるラ・ブランシュの田代シェフからいただいた言葉がある。

「とても面白いイベント。ただ、牛肉は個体によってもバラツキが出るから、この味が全てという考え方はしない方がいい」

全くその通りで、牛の個体によるバラツキ、生産者によって世話の仕方、エサのやり方などが違うことで出るバラツキなどいろいろな不確定要因がある。そこは考慮していかなければならない。

でも、逆に言えばそういったことをできるだけ突き詰めていったとき、「やっぱりこの人が育てた牛は美味しいわ」というのが出てくるということも事実である。

「やまけんさん、実はね、この人が出荷するときはどんな高値でも必ず競り落とすようにしてるんですわ」

と、高知県で土佐あかうしばっかりを扱っている三谷ミートさんが言う生産者さんがいる。小原忠夫さんという。その名前が出ると、獣医師にして県の畜産科の担当でもある公文さんが「ブフッ」と吹き出す。

「あの方はねぇ、、、本業は運送会社の社長さんで、エライ人なんですよ。趣味であかうし飼ってるようなもんです。むちゃくちゃ旨い牛が出るのは確かです。あそこはとにかくものすごい量のワラを食べさせているので、それが効いてるんでしょう。」

なんでも以前、小原さんから「牛が餌を食わんのや、早く診にきてや」と連絡があったのだという。診に行くといっても、まずは本業の運送会社の事務所へいく。

「あのー獣医の公文ですけど、社長に呼ばれてきました」

「え?獣医さん?うちの社長にどんなご用事でしょう?」

「えーと、牛のことだと思うんですけど、、、」

「うち、運送業ですけど?」

「いや、そっちの方じゃなくて、、、とにかく社長に取り次いでもらえばわかりますんで」

などというやりとりを経てようやく繋いでもらうと言う、しちめんどくさい儀式が必要なのだそうだ(笑)

「おお、診てくれやうちの牛が昨日からエサをたべんのや!どうなっとるんや!」

とわいわい言う社長。牛の調子をみた公文さんの所見は、、、

「小原さん、こいつ食べ過ぎです。ワラとか配合飼料とか喰わせすぎて、今日はもう十分やって言ってるんです。そーっとしといてやってください」

「なにー そんなわけないやんか、もっと喰わせんと」

という、本当に漫才のようなやりとりが毎回あったそうだ。

「でもねやまけんさん、小原さんのように徹底的にワラを与える農家も少ないんです。あそこが成功しているのはその徹底加減のおかげでしょうね」

肉牛に与えるエサを大別すると、コーンや大豆、麦などの栄養価の高い「濃厚飼料」と、牧草やワラなど、セルロースと言われる繊維分の多い「粗飼料」の二つがある。肉牛を理想的(あくまで現代の霜降り肉をベースにした理想)に育てるには、カロリーの高い濃厚飼料ばかり与えればいいというものではない。4つある胃袋のうち、第一胃を強く頑健にするために、肥育の初期には粗飼料を中心に与える。そのベースができると、肥育の後半に濃厚飼料をどんどん肉と脂に変えていくことができる。

しかし、小原さんの場合は肥育後半までずーっと間断なくワラを大量に与えていくそうである。この現場をぜひ診てみたかったのだが、ようやくそれが実現した。

まず伺ったのは、本業の社屋(笑)

 

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「いやーどうもどうも。牛の話できよったんかいな」

とお元気な小原忠夫さんである。

「牛はのー、家族や仲間に分けてやったりするのが好きでの。あとは趣味じゃ。牛舎、観に行こうか」

とヒョイと軽に乗って、ツターッと川を渡り山をちょいと登って、別荘(すげーゴージャス!)と牛舎が見えた。

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奥にあるのが別荘。かっこいいぜー ちょっと見えにくいけど、右上の開けたあたりから海が見える。

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牛舎は、なんとほぼお手製。そういう農家さん多いんだけど、いつも驚いてしまう。

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こーんな感じで、このときは牛舎内に6頭のあかうしさんが居た。

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小原さんは肥育経営なので、子牛が出荷される市場に出て、血統などの情報をみてよいものを競り落とし、ここで一定期間肥育をして成牛にして出荷する。自分で食べたいときは、と畜後自分で買い戻してしまう。三谷さんいつも「頼むからうちにも譲ってくださーい」とお願いして、仕入れているそうだ。

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小さい規模の肥育だから、部屋ごとに中堅どころから若手までさまざまな牛が居る。スペースの使い方がすげー贅沢。

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エサはこんな感じで粗飼料と濃厚飼料をどかっと出して給餌。

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これが配合飼料で、

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こちらがワラ。

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いっぱいエサを食いこんだ牛が旨いわやっぱり、と説明してくださる小原さん。

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ちなみに小原さんが与えているワラは、極力国産というか近くの農家から買っているそうだ。

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それでも間に合わない分は中国からの輸入ワラになる。

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「やっぱり国産の方がええけどな」

それはそうでしょう!

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いやーそれにしてもこんな風に育った牛の肉を食べてみたいなぁ、と漏らしたら、

「ええわ、次に肉にしたら送ったるわ」

と仰る。まあリップサービスだろうと思っていたが、、、さすがは大社長!本当にお送りいただきました!

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うわあああああああああああああああああああああ しかもサーロインの一番いいとこじゃん! 社長さん、ありがとうございました、、、

しかもですぞ。この個体識別番号を調べてみると、、、なんと子牛の段階を育てていた農家は、あの「高知のジュリー」こと、澤田ケンジ↓さんなのだ!

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オールスターって感じです。心して焼かせていただきました。

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みてくださいこのリブロース近くの断面。ギリギリA4でしょうかね。カブリの部分の細かなサシに注目。

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食べて味わって、三谷フーズさんのおっしゃることがよーくわかりました。サシの美味しさとかそういうことではなくて、全体的な深みが違う。風味が、旨味が奥行きが二段階くらいある美味しさです。サシの嫌いなうちの嫁が「これは美味しいね!」とばくばく箸を伸ばすくらい!

小原さん、貴方は噂通りの名人であられました。お肉、ありがたく頂戴いたしました。わたくし、何をお返しすればいいでしょう?本当にごちそうさまでした!