牛肉の常識を疑うぜ! 経産牛は未経産牛よりはるかに美味しい。東京バルバリにて、経産F1、9産したお母さん黒毛、短角牛、黒毛和牛の食べ比べをした!

2009年9月14日 from 日本の畜産を考える,食材,首都圏

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料理人向けの雑誌「専門料理」(柴田書店刊)で連載を書いているのだけども、そのテーマが牛肉だ。短角牛のことから始まり、赤身肉・ドライエージングビーフという、これまでの日本の牛肉流通とは別の価値観の話をしている。これが密かに反響があるらしく、編集部に某有名料亭などから「あのヤマケンさんがやってる牛肉の食べ比べ、うちでもやりたいんだけどな」という連絡があるらしい。実に面白くなってきた。

で、最近はまっている面白いキーワードが「経産牛」だ。お産を経た牛を経産牛(けいさんぎゅう)という。このブログでも数回書いているように、肉牛にはオスを去勢した去勢牛か、メス牛を肥育するという二通りある。メスのほうがきめ細かく肉質もよいと言われることが多いが、オスより生育スピードが遅く、肥育に時間がかかる。で、メスは通常は未経産牛、つまり子を産ませない状態で一定の期間肥育して出荷する。

一般的に、肉牛にする牛と、子を産ませる牛とは明確に区別され、肉牛は最初から濃厚飼料と呼ばれる穀物中心の餌を与えて育てる。子を産ませる牛を繁殖牛というが、こちらは長く健康に飼わないといけないので、粗飼料とよばれる草などと配合飼料をバランス佳く与えて育てることとなる。

通常、繁殖牛は4産、5産と子を産んでもらわないともとが取れない。えさ代がずっと掛かっていくわけだからね。そしてある程度の子を産んで、乳の出が悪くなったり、生まれてくる子供に問題が出たり、もしくは人工授精が上手くいかなかったりすると、「淘汰」される。淘汰とはつまり廃用牛として出荷してしまうことだ。その場合、と畜された肉はミンチなどになることが多い。これも以前書いたとおりだ。

しかし、経産牛は旨いという信念を持っている人達の中で、子を産み終わった経産牛に半年程度濃厚飼料を与え(再肥育という)、肉牛として出荷することがある。以前書いた、島根県のかつべ種畜牧場さんのお母ちゃん牛は、もの凄く旨かった。料理人達もみな「なんじゃこりゃ!?味も香りも濃い!」と驚いたものだ。

■ご参考:下記エントリの後半に出てきます↓
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2009/04/post_1306.html

実はこの肉を食べる前から、いろんなところで「経産牛は旨いよ」という話を聴いており、肉も分けてもらって食べてきた。そしてここのところ意識をして経産牛と未経産牛の食べ比べをしてきて、自分のなかにきちんとした尺度が生まれつつある。

経産牛は、未経産牛よりも風味が深くなり、脂の質も向上し、味も濃くなって旨いようだ、というのが僕の現時点での認識である。

こういうことを考えて書いていたら、北海道の十勝のとある牧場で、F1牛を経産牛にして肉にしている農場の人達から連絡があったのだ!

「やまけんさんのブログを見て思わずメールしてしまいました。私たちは牛肉本来の味を取り戻すことを目標に、F1(黒毛×ホルスタイン)のメスを経産肥育しています。肥育をやられている大先輩から経産の牛は美味いと教えられ、現在の経済効率優先の若齢肥育に疑問を持ち、美味しい経産牛を再現してみたいと思っています。」

この方によれば、経産F1を肥育すると肉色は濃い赤になっていき、サシはあまり入らない。そして味には深みが出てくるという。月齢が進むにつれて脂肪融点が下がり、不飽和脂肪酸とアミノ酸の含有量が増えていくらしい。この、F1の経産牛の肉、特別に生の状態で送ってもらえることになったのだが、どうせなら通常の未経産牛の肉と並べての試食会を開いてみたいと思って東京バルバリの小池シェフに肉を分けた。もちろん僕も食べた。

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いやもう びっくりした。黒毛に特有のブドウのような香りも持ちながら、脂があっさりとしているので嫌気なく食べられる。同量の黒毛A4クラスの肉だと重すぎてイヤになってしまうところだ。

小池君からも「うーん こんなF1は初めてです。うちでもよく使いますけど、これは旨いですね。」という。

せっかくなので、このF1の経産牛肉をいろんな牛肉と食べ比べよう!と言う話をしたら、その牧場から社長と営業担当者の二名が上京してご一緒したいと言う。それならばこちらも布陣を整えようと、某料理専門誌二誌の編集者をお呼びして食べ比べを行ったのである。

その上士幌にある牧場の担当者さんとはメールや電話などでやりとりしていたのだが、その時は結構年配の人が担当しているんだなぁ、と思っていた。しかし、東京バルバリで待ち合わせてやってきたのは、実にパワフルな若者だったのだ!

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会社名はノベルズ。しかしほとんどネットとかには企業情報は出てこない。それもそのはずで、できて間もない会社だ。親御さんの代からF1牛の肥育をこなしてきて、今回社長さん自身が、「経産牛に賭けてみよう」と作った会社なのだ。現在は市場出荷などが中心だというが、市場ではF1というだけで叩かれてしまう。経産牛のF1は旨いということをきちんと訴求できなければならないので、彼らの課題はマーケティングである。

ちなみにホルスタインのメスに黒毛の精液をつけたものがこの国で主流のF1牛。肉質は、牛肉の格付からすればそこそこのB2~B3クラスがメインとなる。F1牛は安い国産牛肉の代名詞なのだ。

しかし、、、まあ予想はしていたが、経産牛のF1は実に実に美味しかったのだ!それも、ロースだけじゃない全部位が!

今回のためにノベルズが提供してくれたのはこんな部位!

うちもも 5.5kg
いちぼ 3.4kg
しきんぼ 2.5kg
ともすね 2.2kg
まえすね 4.4kg
ネック 3.6kg
肩ロース 4.3kg
三角ばら 2.6kg
ともばら 3.7kg
うで 2.1kg
とうがらし 2.4kg
リブロース 3.2kg
サーロイン 3.2kg

ひえええええええええええええええ ほとんど全部位じゃん!

これに小池君が答えないわけがない。プレミアム短角牛全部位コースをヤッタ時を彷彿とさせる料理が並んだ!

■前菜

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■シンタマのチーズソース。詳しい名前は失念、、、

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■ウデ肉(だったと思う)のコンソメ仕立て

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もちろんコンソメはF1経産牛からとったもの!

■ちりめんキャベツを添えた経産牛ラグーのパッパルデッレ

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ここまでは小池君の料理センスがビカッと光るわけだが、どれも実に美味い。同席した料理雑誌編集者のみなさまも熱心に話を聴きながら舌鼓を打つ。

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ちなみにこの日は、赤身に合うリーズナブルなワインということで下記3本を飲む。どれもエノテカのワインですな。

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一番赤身肉に合うと思ったのは左端のカラバス2006年。個人的にはデキャンタージュされない尖った感じのうちに呑んだ方が美味しく感じた。

さていよいよ食べ比べだ。正直、われわれが感じた感想を書いても余り伝わりにくいと思うので、とりあえず列記。

■経産牛F1(一経産)と未経産の黒毛A4のカルパッチョ

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左がF1。もうこの時点で編集者3名が「うーん 全然違う!」。脂の重さが、質的に違うのだ。

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経産回数が多くなると、脂肪が黄色くなってくるというけれども、2産、3産くらいまではそうはならないらしい。脂は綺麗な白色、しかも融点は低い。

さて、焼きだ。

■経産牛F1

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■短角牛(未経産)

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そしてこの日のために冷凍保存しておいた、島根県のかわむら牧場から送られてきた9産したおばあちゃん牛!

■黒毛和牛(9経産)

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■未経産の黒毛和牛

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ざっと最初からの流れを言えば、経産牛F1は濃厚さとさっぱりのバランスのとれた、食べやすく満足感も高い牛肉。その次に短角牛をたべると、やはり若干あっさりしている。赤身中心だからこれは想定内。ということは、経産牛F1は赤身肉ファンよりは、黒毛的な味わいを好む人に対するいいソリューションだということだ。

そして、、、次に食べた、かわむら牧場から送られてきた9経産の牛は実に実に最高だった!冷凍だから比べるのが可愛そうかと思ったが、肉の味・風味はものすごい濃さだった。個人的にはベスト。ただし、濃厚飼料をたっぷり与えた味が全面に出てきているので、食べ続けるならば経産F1に軍配があがる。

面白かったのは、最後の黒毛和牛A4の肉に至って、みんなが「うへー きつい」と言いながら食べていたことだ。まったくこの肉だけ異質。少量しか食べない(一人一切れずつ)のにも関わらず、胸にずどんと落ちる重さがものすごい。しかも、あんまりいい重さじゃない。

ということで、この経産F1にはみなが「すごい可能性あるんじゃないの?」という声を上げた。経産F1も、そして9経産の黒毛も旨かったのだから、これはもう経産牛という、古くて新しいジャンルがもっと注目されていいと思うのだ。

というわけで、、、

明日から北海道に出張してきます。一日目は登別にて商工会関連の仕事。商談会プロジェクトなのだけど、二日目以降は畜産研究デー。18日の午前中に、ノベルズの牧場に足を運ぶこととなった。

リアルタイムは無理だが、報告します。

最近、牛ばっかだ、、、でも、大型動物って、写真映えするのですよ。大好き。ではいってきます、、、