良い素材と美味しい料理を楽しめる店はどこだ? 広尾「山藤」では旨い短角牛が食べられるゾ!(後編)

2005年2月21日 from 食材

「まずは前菜盛りからどうぞ。」

前田さんが言うと、厨房から綺麗な皿が運ばれてきた。

大地の和食というと、結構ドカンとしたのを思い浮かべていたのだが全然違った!

■くわいのきんとん

■自家製カラスミと大根

■天蕪千枚漬け

妙なる美しい取り合わせではないか。

「やまけん、酒は何を飲みたい?」

「あ、そりゃ日本酒ですよ純米酒。おおっ 『春鹿』があるじゃないですかぁ!じゃあそれを、、、」と続けようとしたら、前田さんが先回りして「お燗にしますか?」と言ってくれる。ビンゴだ!

旨い酒はこの他にもあって、大地オリジナルの「種蒔人(たねまきびと)」というのがイケル。たしか大地の生産者さんの米を使ったものだと思ったのだが、骨太な米の味がブワッと香ってくる秀逸な酒なのだ。

■鯛のお造り

大地は実は驚いたことに水産部門も持っていて(本当に第一次産業を支える会、といって良いと思う)、漁場にしてもなんにしても情報開示型の食材を提供している。

で、素材ももちろんだけど、板前さんの腕もいいな。この鯛のお造り、スパンと細胞が断ち割られた断面はあくまで滑らかで、ムッチンプリプリというふくよかな鯛の食感が官能的なのだ。

■ヒラメのしんじょの椀

お椀はもちろん和食の華なんだけど、この店の椀も非常に素直な味がする!一流の料理店になればなるほど、化学物質の入ったものを作らなくなるから、素直な味の出汁にありつけることが多いが、ここでもあの後を引かない仄かな昆布と鰹の風味が立ち上った!

ヒラメのしんじょはフワフワとしていながら、白身の上品かつ地味ながら強い旨味が閉じこめられていて、本当にご馳走だと思ったんであった。

椀の彫りをみてみれば、これも高いんだろうなぁ、と思う美しい細工である。んー この店、こんなお金かけて大丈夫?っつう感じもするが、これが大地のセンスっていうか藤田会長のセンスなんだろう。

思えば大地のイベントには必ずジャズや太鼓などの音楽パフォーマンスが付き物だった。それもいい加減なものではなく、例えば梅津和時のサックスと板橋文夫のピアノのカルテットとか、そういう一流どころが吹きまくりにくるのである。それも、藤田さんが「やっぱお祭りには音楽だよね」という、その感覚に基づくものなんだろう。六本木の御膳房もそういえばピカピカにカッコイイ高級な店である。洒落もの・藤田会長の面目躍如といったところだろうか。


そういえばこの日は、広報担当のOちゃんと、企画・ライターをしているカワゴエさんが同席しての飲みなのであった。どーでもいい馬鹿話をして盛り上がる。こういうのも悪くない。

■アンコウの唐揚げ

うわーもう言うことはない、、、

レモンを垂らして塩をチョイと付け足して頬張ると、ふわっともっちりした肉質で、汁がジュワッとわき出してくる。

■聖護院大根のふろふき

抑制のきいた白味噌ベースのふろふき味噌で、ほどよい堅さを残しながら煮上げられた聖護院大根の持ち味が引き出されて旨い。

上品な蕪か?と思うほどの肉のみっちり度だが、大根なのであった。青首ではこの煮上がりにはならないんだよね。

さて、いよいよ短角牛のおでました!

「今日は、通常と違う料理をお出ししようと思って。」

と前田さんが運んできてくださったのは、ゴマだれをかけたしゃぶしゃぶ風のサラダだ。

「これに、自家製のトウガラシたれをつけていただいても結構です。」

と、カンズリのようなペーストを出してきてくれる。トウガラシを講じと一緒に発酵させたような感じの香りとテクスチャーだ。

はたしてこのタレが、脂ぎってはいないが、本来的な赤身のコクを十二分に内包した短角牛にビチッと合う。適度な塩気と酸味が味わいを重層的にしてくれたのであった!

さあそしてこれがまた最高な一品だ!短角牛のヒレ肉に旨そうな焼き目をつけた炭火焼きだ!

■短角牛ヒレ肉炭火焼き

くおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 この串を25本食べてぇえええええええええええええええ

と叫び出したくなるプレゼンテーションではないか!
しかも短角牛のヒレだけを食べるなんて、これまで体験したことがないゾ!

肉片にガシッとかぶりつくと、短角のもつ濃い旨味成分を含んだ細胞カプセルが弾けて、炭火で炙られた醤油ダレの香りと肉の香気が重って旨い!

うがああああ 白飯が食いたい! この強力な短角牛肉片の香りが口中に充満してるところにコメを口を一杯になるまで頬張って、顎がはずれそうになるくらいに噛みしめてコメの甘さと肉の旨味が混ざったところで名残惜しいけど食道方面に飲み込んでやりたい!

どあああああああああ

と思っていたらメシがでてきた!
ていうか「コメ下さい!」って所望してしまったんだけどね。

「ん、これは稲田のコシヒカリだな!」

と藤田会長がズバリ言い当てる。福島県の、僕も大好きな生産者団体のことだ。もちろん大地の消費者会員が買うことのできるコメである。

まあ、言わずとしれたことだが旨い!みるからに端整な粒立ちのコメは、ほとんど有機肥料で栽培されているから、味に関しては一般米の追随を許すわけがないのである。

「やまもとさん、ご飯の友も欲しいでしょう?」

と前田さんがジャコを甘辛く炊いたのを持ってきてくれる。

前田さんあなたはもしかして、僕が全日本ご飯の友追求友の会事務局長兼皇帝であることをご存じなんですか?人の心を読みすぎである!

それでも食い足りないのでさらに追加。

■里芋の揚げ出し

軽く粉をはたいて揚げられた里芋に甘辛い醤油餡をまとわせてかぶりつくと、里芋特有の香りがフワッと鼻を抜けた!そう、良い里芋は香りが佳いのだ!

■下仁田葱のスープ仕立

下仁田葱の甘さがギリギリの薄味に仕立てたスープに溶け出し、これはまた優しい味だ。たかが葱、されど主役の葱なんであった。土の味、土の味。

「お口直しに、、、」

と言って出てきたのが、苺だ!品種はなんだったっけかワスレタ。けど、いちごってこの世で最も肥料の味が出る作物だと思う。昔、あるオンラインショップの仕事で、数種の苺を食べ比べたことがあるのだが、やはり有機資材のみを使用した苺がダントツに旨かった。香り成分に一つか二つ、別次元が加わるのである。

何度も書いてきているが、作物の味を左右するのは農薬を使うか使わないかではなくて、肥料。餌なのである。

あー喰った食った、、、、

「相変わらずよく食べるねヤマケン。この店、まだできたばかりだし、店も少し広尾から入り込んだところにあるから、まあ宣伝しておいてよ。」

了解、了解!

ご馳走になったから書くのではない。意図的にこれまで書かなかったけど、今日でてきた料理の食材はほぼすべてが大地の生産者により、一定の基準に基づいて作られた、正真正銘・顔の見える関係の産物なのである!

実は最後にこれを言いたかったのだ。このように出てくる料理の素材の一角だけではなく、すべてに神経を行き渡らせることは、流通とは関係のない飲食業者にはとても難しい。大地は、農林水畜産業すべてに積極的に関わり、生産と流通を創り上げてきた団体だ。その大地が満を持して出している店だ。これほどに「信頼できる素材で美味しい料理が食べられる店」というのを体現している店は、そうないだろう。そして、言うまでもないが、、、料理のレベルは高い。だれが来店しても楽しめるだろう。

その代わりと言ってはなんだが、一通り食べたいなら5000円以上、1万円程度までのレンジで考えておいた方が良い。何度も言うが、「信頼できて」「野菜が美味しくて」「料理も美味しい」というように要望があるなら、相応の価値を認めなければならない。

ただし、日頃化学調味料に慣らされた舌には、こうした料理は「ん?ものたりないかも」と思ってしまうかもしれない。ただ、舌の感覚にまっとうな部分が残っていれば、導入部の皿だけできちんと本来の味覚にチューニングされるはずだ。それが自己調整能力というものだ。

ということで、僕に難しいお題目を出してきたみなさん、ここが一つの回答です。美味しい和食を、信頼できる材料を使ってレベルの高い料理技術で提供しているお店。これで一つ肩の荷が下りたな。