輝かしい一ページが拓かれる。シチリア料理・無二路とキーコの新しい旅立ちを見届けよう!

2006年7月 7日 from 日常つれづれ



このブログで人気の店の一つが、笹塚のシチリア料理リストランテ・無二路(ムニロ)だ。大塚オーナーのシックな接客と重康彦シェフの衝撃的・ダイナミックな料理にやられてしまった僕と同様、はまってしまった人が多い。その無二路だが、実は大きな変化を迎えていた。

無二路のシェフが交代していたことに気づいた人はいるだろうか。実は、今年2月一杯でキーコこと重シェフが独立のため、退店したのである。昨年10月頃から独立を決意したキーコと大塚オーナーで諸般調整をしながら新しいシェフを捜し、大塚さんも快くキーコを送り出したのだ。

成功した店のシェフが交代するということはとても大きな出来事だ。シェフ、オーナー共に去来するものが多いだろう。でも、

「ずっと一緒にやってきた仲間なんだから、応援しますよ。何て言っても僕はキーコのファンですからね!」

と言っていた大塚さんの顔を僕は忘れられない。

新しくやってきた嵯峨山シェフはキーコや僕と同じ35歳。何か不思議な気分だ!
その料理を味わうために、着任後間もない無二路に足を運んだ。結果、新しい無二路の船出は絶対に成功すると確信したわけだ。

「実は嵯峨山シェフとスタッフを連れてシチリアに行ってきたんですよ!原点確認ですね。そこで嵯峨山シェフもシラクーサの流儀をたっぷり吸収してきました。無二路の代名詞となっている前菜群はこれからもこのままですし、パスタはこれまでどおりコバが担当します。セコンドは嵯峨山シェフとキーコの性格の違いが現れると思いますから、楽しみにしてください!」

とおっしゃる。なるほどね、変わる部分と変わらない部分が混在し絡み合い、新しい無二路になっていくのだ。


豪快な前菜群はこれまで通りだ。ただ、若干色味がくすんだ印象を受ける。なんというか今までよりひなびた色合いに成ってきている感じなのだ。

「そうなんですよ!嵯峨山シェフにとってはシラクーサの料理は初めてですから、それを忠実に再現するとこうなるんですね」

ああそうか!
なんだか懐かしいと思っていたが、これはシチリアの前菜そのものの色あいなのだ!
キーコは、シラクーサで修行してきたものに自分のテイストを付加していた。それが良さでもあったわけだが、嵯峨山シェフはシチリアの色をそのまま出している感じなのだ。

もちろん旨い!
米茄子をこっくりと色が付くまで揚げ煮したカポナータや豆の煮込み、イワシのマリネといった定番の旨さは変わらない。

「やまけんさん、変わっている部分もあるんですよ!キーコが出していたトマトや野菜の入ったレバーペーストに加えて、白レバーの旨さをストレートに出すビアンコ(白)のレバーペーストも一緒に出すようになりました。」


なるほど、この方向性に嵯峨山シェフの人柄を感じる。きっと、素材の味をストレートに表現することに注力する人なのだろう、味にそのストレートさが現れている。そして、いろんな意味で、塩梅がキーコより柔らかく優しい。これが新しい無二路の方向性といえるだろう。続くアスパラガスのボイル、焼き、そしてムースの三態が盛り込まれた皿を味わって本格的にそう思った。

このアスパラガスのムースがとても優しい味だ!

「やまけんさん、パスタ、食べてください」


とコバが持ってきたのが、シチリアの定番、イワシとウイキョウ、松の実のブカティーニだ。

これがまた秀逸!

キーコが居た時代もコバがパスタ番をしていたのだが、そのときよりも味の決まり具合がビシッとしている。イワシとウイキョウのパスタは若干味がぼけやすい。輪郭の柔らかい、家庭料理的な味のパスタなのだ。しかしコバが持ってきてくれたこのパスタは、表情がしっかりとしていて、最後まで飽きずに食べられる旨い皿になっていた。若きコバの表情も、以前よりグッと引き締まっているように見えるのだ。いやーかっこいいねコバ!

さてこの日は仕事のついでに寄ったので、軽く食べさせてね、くらいにお願いしていたのだけれども、セコンドまで出てきた。しかもこれである!

魚の塩竃かぁ、ゴージャスだな、と思っていたら嵯峨山シェフが出てきてくれた。

「いや、旨いですよ、今のところ全部!」

「ありがとうございますっ!」

と、塩竃を目の前で割ってくれる。



ええと魚は何だったろうか、忘れてしまった!でもこのパフォーマンスで、周りのお客さんが席を立って「なになに、なにあれ?」と覗き込むような事態に!


この魚に、加熱していないソースがかかる。ミニトマト、オリーブ、ケイパー、オイル、リモーネなどがほどよく乳化したソースだ。完成品はとても美しい絵のような一皿になった、、、


素晴らしいね!
素材の味が十二分に引き出されたシンプル・骨太・ストレートな旨い一皿。これが嵯峨山シェフの味なのだ!

写真みてもらえばわかるように、僕が食べてるのに後ろに他のお客さんがギャラリーで連なっている。味はストレートでシンプルだけど、すごくアピールするのだ、この塩竃パフォーマンスは。

このほか、セコンドとして大山地鶏の煮込みをいただく。これも味はしっかりこっくりついているが、やはり癖のないストレートど真ん中の風味だ。

感想を伝えると、嵯峨山シェフは実直な態度で応対してくれた。

「僕が修行してきた南イタリアの料理と、シチリアの料理では少しずつ違いがあります。シチリアのほうがより素材を活かすかもしれません。ぼくなりにそれを解釈して皿に表現できたらと思いますね」

嵯峨山シェフが着任してから数ヶ月経つわけだが、訪れる客数は落ちないという。それどころか最近は満員になることが多くホールも大変だということだ。この時写真は撮っていないが、ドルチェがまた風味が変わっていた。これまでドルチェ番だったコバから、ユウちゃんというスタッフに変わったらしいのだが、やはり女性的な感性の反映したドルチェになっていた。カッサータを食べたが、重たさが無く、かといって気抜けした味でもなく、実に美味しかった!

「やまけんさーん たまには来て下さいよネ」

とコバがヌッと顔を出す。彼のパスタは精緻さに磨きがかかってきた。いずれはセコンドもやるんだろうなあ、楽しみである。

これが新生・無二路調理場のみんなだ。明るく、楽しく、頑張っている。

大塚さんに感想を伝えると、「そうなんです、重が辞めてどうなることかと一時は思いましたけど、いま、雰囲気も最高だし、お客様もとても喜んでくださるし!とても面白いですよ!」ということだった。
本当に、店がはじけている。もう、大丈夫だ。

ということで、無二路はシェフが交代したが、無二路品質は形を変えながらそのままだ。

さて、それではキーコ(重)はいずこへ?

そう、キーコも実に、新しい旅立ちなのだ。実はこの7月7日の日、新しい店が誕生する。
無二路とキーコの新しい旅立ち、そう考えると、今年は何て贅沢な年なんだろう、と思わざるを得ないのだ。