雨後の竹の子のようにできている東京のステーキハウスの多くが美味しくないのは困ったもんだ。真空パックのUSビーフを剥いて冷蔵庫入れただけでドライエージングって謳うのは、そろそろ考えなおして欲しい。

2014年12月 4日 from ドライエージングビーフ,首都圏

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「ドライエージング」を看板商品にしながら、本当に美味しくない肉を出すステーキハウスが多い。今夜もそうだった。

店の外観・内観は格好いいし、サービスも心地よい。メニューもニューヨークっぽくて、デートで使えばかなりアガる感じを楽しめるだろう。前菜も美味しかったし、パンもオリジナルでよかった。

でも、肝心要のステーキが運ばれ、ナイフを入れて切り分ける時までなんだよな。

大きく切った肉を口に入れると、どうしようもないいやな匂いがぶわんと来る。「熟成香」ではありません。腐敗に転んだ「匂い」です。

しかし牛肉って偉大なもので、外側を高温サラマンダーで焼いていると、メイラード反応したところの香ばしさと旨みで、なんとなくマスキングされて食べられてしまう。よくわかってないお客さんはその嫌な匂いを「これが熟成の香りなのね」と勘違いしてくれたりする。

けれども、船便で持ってきたUSビーフのチョイスを、真空を開けて冷蔵庫に入れたって、その時点で肉の内部にある水分は半分ムレちゃってるわけで、よほどの風を使わない限り脱水できない。そして、酵素と微生物のはたらきを活用できなければ、風味も生まれない。

結果、何も起こっておらず、不快な匂いのみが増した肉となる。それをどんなにメイラード反応とバターの香り、果てはベアルネーズソースの濃さでマスクしようとしても、ダメなものはダメ。

そうなることがわかってたから、前菜一皿、サイドディッシュ無しでリブアイ750gだけ頼んで、ビール呑んでサッと出たんだけど、2人で24000円。今晩もいい勉強でした。原価がわかっているだけに、ひえーーーっとなってしまう。 国産の肉がすべて輸入より旨い、などというつもりはない。けれども国産に比べ格段に安い輸入肉をちょっと置いといて厚切りにして出しただけで、すさまじい値入を乗せてくるビジネスモデルは、早いとこ回収して撤収していただきたいな,と思ってしまう。 いちおう、ドライエージングビーフの普及の仕事もしてるから、店があると調査ということで自腹で食ってかないといけないんだけど、その仕事ってほとんどお金になってないので、苦しいんです。はやくブームが落ち着いて欲しいというのが本音です。

よく「こないだドライエージングビーフってのを食べたんだけど、よくわからなかった」と言う人がいる。この「よくわかんなかった」という時点で、それはドライエージングではなかったんだよ、と僕は言うことにしている。ドライエージングと呼ばれるための条件を揃えました、というのと、実際にドライエージングになっている、ということには大きな隔たりがある。いまは前者でもドライエージングと名乗ってしまっているのが実情。まあ、基準が存在しないから仕方が無いんだけどね。その基準をちゃんと作りたいところなのだけれども、業界全体の絡みもあってなかなか進みません。

その店を出て、友人の千葉ちゃんがやってる「格之進F」へ遊びに。イベントで貸し切りになってて店には入れなかったので、ちょっと立ち話。同行の平井君が「あー、この牛、いいわぁ、、、絶対旨いよね。最近こんな牛がいないんだよね、、、」と言ってる図。

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「熟成肉」「ドライエージング」に関しては、牛肉業界の中で本当にいろんなせめぎ合いが起こっています。まだしばらく、消費者が振り回される状況が続きそうだ。

俺はせめて、本当に正しいドライエージングビーフだと断言できるところだけ、そう書いていこうと思います。よって、今日の店の名前は書きまへん。