山形県朝日町にしかない、生じゃ食べられないまっずいリンゴをめぐる、エコール辻 国立校とタルトタタンの物語。このリンゴで作るタタンがいと旨し! そして、学生達が作るお菓子・パンを買うことができるアトリエの素晴らしさ その1

2015年11月 9日 from 食材

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このリンゴの名前を、仮称「山崎リンゴ」としておこう。というのは、品種名もだれもわからないこのリンゴの価値を見いだしたのが、料理学校 エコール辻 国立校の山崎正也先生だからだ。

数年前、ぼくがまだ紙で出版されていた週刊アスキーという雑誌に、旅ものの連載をしていた頃の、大好きな山形県の朝日町を取材して掲載した。和合平のリンゴの話をメインにしたのだが、その際に町役場で水先案内をしてくれた阿部さんがこんなことをいうのだ。

「あのよぉ、生で食べると酸っぱくてたべらんねぇ、まっずいリンゴがあんのさ。でもこれ、料理にするとか焼き菓子にするとかで使えないか?ておもうんだよねぇ。誰か興味のあるひと、いねぇか?」

あ、それは面白いねということになって、週アス掲載時の本文に「誰かこんなリンゴに興味ある人いる?」と書き加えた。

そうしたら! こんなメールが来たのだ。

はじめまして エコール辻東京の山崎正也と申します。

昨日、週間アスキーで山本様の記事を読んだのですが、その中で加熱用のりんごについて、興味のある方はメールにてお知らせくださいと書かれてあったと思います。可能であれば一度使わせて頂きたいと思いました。

ご存知だとは思いますがフランス菓子にタルトタタンという菓子があります。直径20cmくらいの型にリンゴを12個ほど使って焼き上げる、まさにリンゴを使った菓子の代表と思っているのですが、当校では紅玉やフジで作っているもののフランス研修時代に使っていたレネット種で焼いたものには中々近づけないでいます。

自分の不勉強を棚に上げてリンゴのせいということにはしたくありませんが山本様の書かれていたリンゴに"ひょっとすると"という期待もあり、今回のお願いになった次第です。

メールでのご挨拶とお願いは失礼かと思いましたがお許しいただければと思います。

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うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお マジ!?

あのエコール辻が!?

ということで早速に連絡を取り、朝日町の阿部さんを紹介したのである。その年のうちに山崎先生ご一行は朝日町へ赴き、果樹園に生っているリンゴをその眼で見て、食べて、「うん、これはすっげー味だ!」と驚き、ぜひ試作をしてみたいと言うことになったのである。

そこからほぼ毎年、この名前のないリンゴを使い、タルトタタンを作る試みを山崎先生たちエコール辻のパティシエ科軍団が続けてきた。

その間、朝日町ではこのリンゴがいったいどんな品種なのか、DNA鑑定まで行ったという。
しかし、、、

「わっかんねぇんだよ、このリンゴがなんなのか、サッパリ。」

ということなのだ。もともと海外から持ち込まれたリンゴの品種を枝接ぎしてさまざまな掛け合わせをしていくうちに、突然変異が起きると言うことは十分に考えられる。このりんごもどうやらそうらしいのだ。

いまのところ、ひとつの品種として販売するほど十分な量が収獲できるわけではなく、コンテナ10箱分に留まっているそうだ。それを毎年購入して、理想のタルトタタンをめざしてレシピを工夫しているという。

それならば!

「ぜひ作ってるところを観に行きたいです!」

「それはもう!やまけんさんがいなければこのリンゴとの出会いがなかったわけですからね!ぜひおいで下さい!」

ということで、行ってきましたエコール国立!

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エコール辻 国立とは、柴田書店の「専門料理」とのコラボで、料理人のための野菜研究会というセミナーを開催してきた仲だ。ただ、ご存じの通り、仕事の軸足がさいきん牛肉のほうが多くなってきていることもあって、すこしその交流が途絶えていたところだ。

エコールの前でタクシーを降りたらなんと! タイユバンロブションをあがられたばかりの渡辺シェフが玄関から出てくるではないか。

「あれ~!いままでぼく、授業やってたんですよ!」 と握手をさせていただき、さい先のよいスタート。で、しばらく山崎先生のご同僚である大川先生に、タルトタタン造りを見せていただいた。

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「これが原料の山崎リンゴです。不揃いなのは、産地の方で「どれがどうだったか感想教えてくれ」ということもあって、色んな形のものが来ています。やはり、大きさによって味がボケていたり、香りが強かったりといろいろ違いますね。」

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「これを、まず最初にすこし水分を飛ばすためにオーブンに入れて焼くんですが、、、」

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「みていただくとわかるとおり、水分がそれほど出てきません。普通のリンゴ、フジや紅玉といったものを焼くと、この段階で鍋の底に水が溜まるくらいになります。それがないんですね。」

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ほんとうだ、水分は、種をくりぬいた部分にジワッと染み出てきては居るけれども、その程度におさまっている。

「このリンゴを、砂糖を溶かしたバターと一緒に火を入れていきます。」

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「この鍋に、リンゴ6つ分を詰め込んでいきます。」

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えっ 6つ分? そんなに入るの? と思ったけど、、、

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入れるのです!

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この状態でオーブンに入れて、、、

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190℃で90分焼いていく!

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その間、時間があるので授業の風景を見せていただく。実は授業をやっている片隅で、タルトタタンを焼いているのだ。

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※もちろん、授業風景を撮影させていただく許可を特別にいただいています。

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いつも思うのだけれども、エコール辻に通う生徒さんたちはみな真剣!

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そして、目標がしっかり決まっているからか、迷いが感じられない。

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みんなで協調しあいながら、しっかりと技術を学んでいるのが伝わってくる。

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ご年配の方がいて、先生かとおもったらなんと生徒さん! ビックリである。もちろん真剣!

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そうこうしているうちに、「ちょっとオーブン開けますよ!」と大川先生。

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バターがじゅくじゅく泡立っている。

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「これをみてください、普通の日本のリンゴなら、もうこの段階で鍋一杯に水分が出てくるんです。それがない!本当にこのリンゴは水分が少なくて、火を入れるのに向いていると思います。」

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だから、染み出てきた汁とバターをアロゼするように、リンゴにまわしかける。そしてまたオーブンへと戻す。

「さて、ベーカリーのクラスもご覧いただきましょう!」

ということで、おとなりのパン焼きのクラスへ。

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プ~ンとパン種が発酵するいい香りが鼻をくすぐる!

「何の練習やってるの?」とおもったら、「バタークリームをケーキに塗る練習です!」と。

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最近はバタークリームを使う作業も少ないらしいのだが、やはりクラシックは学ばないとということでやっているとのこと。

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ちょうど、発酵の終わったあんパンを焙炉から出すところ。

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みんなきびきびと取り出して、自分のテーブルへとはこぶ。

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何をやっているのかと思えば、、、

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パン生地にたまごの黄身を塗ったところに、麺棒の先端に芥子の実をつけたのをチョンと押して、あのあんパンのてっぺんができるのだ!

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これ、食べたかった、、、(笑)

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細工ができたら、いよいよ焼成。

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この時、オーブンに生地を入れていた女の子が腕をめくってぼくに見せる。

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「オーブンでやけどしちゃうんですけど、、、」 これがわたしの勲章です!といわんばかりに真っ直ぐな眼でニコッと。 クラクラッときちゃいました。かっこよすぎるぜ!

「この表、なんのためかわかりますか?」

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「授業で習う技術ができたかどうか、個人個人でシールを貼って進捗を記録するんです。」

いや、真剣勝負です、ホントに。

「さあ、じゃあエコール辻 国立ではじめた”お店”にご案内します!」

えっ お店って、、、あれですか!?

(続く)