水野仁輔著「いちばんおいしい家カレーをつくる」はカレー初心者はもちろん、中級者だと自覚している人も読んでおくべき一冊! 日本にただ一人しか居ないカレー研究者としての道をこれから彼はどう切り拓いていくのか注目しているよ!

2017年6月10日 from 食べ物の本

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もうかなり様々なところで話題になっている本だけど、水野仁輔君の素晴らしいカレー本が出た。水野君から献本いただきました、どうもありがとう!

ながらく彼を紹介するときには、カレーイベントのユニットである「東京カリ~番長の」とつけてきたが、とうとうかれは引退を表明。その一年前にはサラリーマンを辞めているので、文字通り「カレーで食べて行く」という道を選んだわけだ。しかもカレーで食べて行くというのは通常、飲食店のカレー屋さんをやるということだけども、彼はそれを選ばなかった。

それはそうだ、彼は単にカレーをおいしく作ることができる料理家という位置づけに収まる人ではないのだから。彼の著作群を読めば分かるが、彼はカレーについて思索し、問いを発し、必要とあらば現地まで行ってリサーチをし、一緒に料理をし、そして新しいカレーのクリエイションをするという、まさにカレーの全てを識ってカレーのすべてを活動するという、前代未聞の位置づけにいる。

その水野仁輔がこの本では「ファイナルカレー」を書いたというのが面白い。もともと彼はカレーの作り方を「システムカレー学」という体系に整理した。

そこでは、

「こういうカレーが作りたい」

という目標に応じて、

「それならここの部分をこうすればいい」

という最適化技法を、カレー料理の7段階の手順にまとめている。「研究者としての水野仁輔のたどり着いた、カレー好き必携の書である。

ところが、このシステムカレー学にはひとつだけ欠陥というか、構造的な問題がある。それは、「目標がしっかりイメージできていないと、カレーを作ることができない」ということだ。ふつうの人は難しいあれこれは考えずに「おいしいカレーを食べたい」くらいしか考えていない。

そんな相手に「欧風とインド風、どっちが好き?」「とろみはついてる方がいい?必要なばあい、どれくらいの濃度?」「スパイスが香る方がいい?それとも奥ゆかしいくらいがいい?」なんて訊いたって、おそらく「うーん 面倒だから、とにかくおいしいのがいい!」と返されるのがオチだ。

つまり、システムカレー学は、ある程度カレー作りをしたことがある人(ルーを溶かす以上のこと、という意味ですね)でないと、すとんと腑に落ちてこないところがあるわけだ。

おそらく水野君はそれを自分でもわかっていたのだろう。そこで「ファイナルカレー」である。もういろんな前提はとっぱらって、最初から「これは多くの人が『旨い!』といってくれるに違いない、ファイナルといっていい選択肢」としてのレシピ。それがファイナルカレーである。

この本には3つのレシピしか出てこない。それは、欧風カレー1つ、インド風のスパイスカレー1つ、そしてその二つをよい具合にミックスしたファイナルカレー1つである。これが実にすごいとしか言いようのない構成になっている。何がスゴいかというと、初心者でも簡単に作れる内容になっていて、かつ中級者以上でも「おお、なるほど、、、」と唸るほかないレシピなのだ。

なんつったって、最初の欧風カレーでは市販のルー(お好みで選ぶことになっているが)を使うことが前提となっている。通常、中級以上のカレー好きになると、「市販のルー? けっ そんなの使ってられるかよ」と言って、とかく小麦粉とスパイスを炒め、鶏ガラを入手してスープをとるところから始まってしまいがちだ。

ただし、残念なことにそれが百発百中でおいしくなるわけじゃない。結局のところは中級者レベルですからね、プロは安定しておいしいのを作れなければならない。

市販のルーは最適解ではないかも知れないけれども、確実に安定している。そこに合わせる具材の下ごしらえや、隠し味についての基本、そしてルーカレーを美味しく食べるための技(そのなかには、よく「この隠し味をいれると美味しい!」とか言われている都市伝説をひっくり返すことも含まれている)が書かれている。

つぎに、インド風のスパイスカレー。ここで中級者として「うわっ」と唸ってしまうのは、水野君が実にミニマムな数のスパイスでおいしいカレーを表現してしまうことだ。これなら1000円程度でスパイスを買えるので、一般家庭でも敷居が低くなる!

スパイスカレーの初心者はとかく、たくさんのスパイスを投入すればより複雑さと深みが増しておいしくなると思いがちだ。しかし、必ずしもそれは正しくないというのが水野仁輔の結論である。それは思いつきではなく、彼が何万食ものカレーを作り続けてきた経験と、日本人でトップクラスであろう名店探訪の遍歴から生まれた結論なのだ。

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そして最後のファイナルカレー。ここで彼は欧風とスパイスのよいとこどりをしてみせる。このファイナルカレーにいきつくまでに、欧風とインド風カレーの双方で解説されてきた細かな技が、「ああ、こういきつくのね!」と花開く。

この本には3つしかレシピが登場しないが、写真やイラストの解説は実に豊富である。それは、3つのレシピを解説するための情報が満載だから。しかも、文章がとても素晴らしい。水野仁輔はカレー研究家である一方で、文筆家としても素晴らしい存在なのである。しかも顔も彫りが深くてシュッとしててかっこいいのだから、どっちも持ってない俺はいやんなっちゃう存在。なのに、気取るところ無くいいやつだから、本当に素敵な男だと思うのだ。

最後にいっておくと「いちばんおいしい家カレーをつくる」は究極の本、これで打ち止めの本ではない。「じつはここから始まるのです、、、」というつくりになっている。カレー初心者はもちろん、自分は少なくとも中級者だと思っている人も、読むべき一冊だ。

いちばんおいしい家カレーをつくる
いちばんおいしい家カレーをつくる 水野 仁輔

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それにしても水野仁輔の今後が楽しみだ。ちなみにこのブログでも紹介した彼のスパイス販売サービスであるAIR SPICEだが、半年分のサービスが終了するやいなや、次は1年分をしっかり買わせていただきました。これ、ぜったいのお薦めでございます。

 

■東京カリ~番長の水野仁輔君が送るAIR SPICEのサービスがいい! 自分ではどうやっても創り出し得ないスパイスの組み合わせのアサリカレーに唸りつつ実感するのであった!
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2017/04/14294.html