ぼんぼり京橋店に放牧豚を持ち込んで食べた!

2006年2月26日 from 食材

いつもお世話になっている、こだわり漬物業者さんである、町田市の「べにふじ」の石川親子がご来社。土曜日だが、いろいろと打ち合わせ&情報交換をさせていただいた。そう、べにふじさんはあのJA幕別の新品種長いも「わねんじょ」の漬物を作ってくれている漬物屋さんである。

実はこの、長いもの漬物が非常に好評とのことで、春からまた新製品を作ろうと企んでいるのだ。これ、おそらくきいたらみんな「おもしれぇ~」というような、考えるだけでヨダレ出そうな長いも漬けなのである。こうご期待。

さて会議終了後、ぼんぼり京橋店へ。最近お客さんがいらっしゃるとすぐにここに来てしまう。なんといっても僕の事務所から歩いてすぐだし、材料を持ち込んで小池君に「ホイよっ」と渡すと「ハイよっ」と料理してくれるという信頼感があるからだ。

さて今日もとてつもない持ち込み品があるのだ。それは、石川社長が持ってきてくださった豚肉。それもただの豚肉ではない、「放牧豚」である。

放牧豚とは、文字通り放牧で飼われた豚を指しており、品種名ではない。ちなみに豚は通常、豚舎といわれる施設で飼われている。豚は分類上は中型家畜であり(牛は大型、鶏は小型)、比較的運動量も多いため、ある程度余裕のある施設の中で飼われている。しかし放牧豚は文字通り、ケージなどで周りを囲っただけの山地で放牧される。これを、静岡県の富士朝霧という地域でやっている農家さんがいるのだ。

「そこの農家さんが一人でやってるんだけど、本当に大変でねぇ。知名度が低いから、販売ルートがないんですよ。」

きけばなんとあの「どっ○の料理ショー」にも特選素材として登場したらしい。ちなみにあの番組は、民放で初めて品種や農家にスポットを当てたということでは功績のある番組だと思う。

さてその肉をみてみるとおわかりの通り、最近流行の、豚肉なのにビッシリとサシが入っているというものでは全くない。むしろサシはほとんどなく、肉色も淡いピンクで、いうなればマグロの赤身といった感じだ。

石川社長が用意してくださったのは、肩ロースのトンカツ用とスライス肉だ。
さっそくお料理ジャイアンこと小池シェフに渡しておいた。

「もう、やまけんさんが『お料理ジャイアン』って書くもんだから、初めてのお客さんが僕を指さして『ジャイアンだ(笑)』っていうんですよ!」

というが、ほんとにジャイアンみたいなんだからしょうがない。レジの前には、お客さんがプレゼントしてくれたというジャイアンフィギュアも飾られていた。粋なことをやる人が居るもんだ(笑)

さて本日のジャイアンの腕もブンブン唸っていた。

「冷製カッペリーニのフルーツトマトソースにナマコとマグロを乗せました。」

ちなみに上にトッピングされている芽葱(めねぎ)だが、なんとこれを育種・生産しているブリーダーさんがぼんぼりに来ていた時に偶然遭遇した。先方もびっくりされていたが、実に情熱溢れる葱ブリーダーさんだった!ご存じないかも知れないが、野菜も果物もブリーダーが居るのだ。葱の世界ではおそらく不知火とが居なさそうな感じの方であった。来年の葱の時期にはぜひ食材塾に来て頂こうと思う。

で、この冷製カッペリーニが美味い。あたりまえか?ものすごい贅沢食材である。だけどナマコは、フルーツトマトの美麗なソースにはちょっと癖が強すぎかもしれない。

「コンソメスープに平貝(タイラガイ)とノレソレ、山菜を合わせました。」

うおっ なんじゃこりゃ!
コンソメ椀ものである。一口啜ってみるとまごうことなきコンソメである。小池ちゃんこのコンソメ、店でひいたの?おそらくそうだろう、寝る時間惜しんで料理ばっかりしている、だからジャイアンと呼ばれてしまうのだ!しかしこれは美味い!

平貝の貝柱は「ジャクッ」とした歯触りが楽しい。切り分けられた貝のヒモの部分を食べて驚いた。
「スモークしてるじゃん!」
石川さんと顔を見合わせる。繊細なコンソメを邪魔しない程度の軽い薫煙をかけているようだ。そして山菜のコゴミの旨さと、ノレソレの絶妙なツルツルヌルリン感がたまらない。

「ワカサギを飯尾醸造の紅芋酢でエスカベーシュにしました、こちらの皮で包んで食べてください。」

まだ記事にしていないけど、先日、京都の宮津にある飯尾醸造に、お料理ジャイアンともども見学に行ったのだ。

「富士酢は最高ですよ!料理の味を引き出す酸味と薫りなんです。」

というだけあって本当に繊細なワカサギの旨さを引き出している。

次に出てきた野菜と豆の煮込みも実に美味かった。

白インゲンを中心に色んな野菜と肉がはいっているが、複雑に煮込まれていてわからん!しかも上にジェノベーゼ(バジルのソース)がチラされているのだが、この香りが小さなインパクトになって舌をダレさせない。ミネストローネにジェノベーゼを入れるような使い方が絶妙。これ、スゲー美味かった。

「バルバリー種の鴨の串焼きです!」

これはもういうこと無しだろう。

ちなみにジャイアンは料理によって塩を使い分けている。アンデスの塩、死海の塩、沖縄の塩、与論の塩など常時8種類程度を、料理別に使い分けているということなのである。

「さて、本日のメインイベントです!」

といって出てきたのが二種類の豚肉のイタリア風カツレツだ!

左が放牧豚、右がイタリアのなんとかという豚だ(名前忘れました)。
このテクスチャだけでも相当に違うのがおわかりいただけるだろう。

イタリア産の豚は切り口に脂をたっぷり湛えた、グラマラスな仕上がりだ。中に赤身が残った絶妙な状態のをそのまままるごと頬張って噛み締めると、中央からジュッと肉汁が染み出てきた。中堅というレベルの強さの、バランスを保ちながらも強い個性の豚だ。

「うまいねぇ、美味いですよ!」

と石川さんがニンマリする。そして満を持して放牧豚にとりかかる。

予想では放牧豚はサシがないため少しぱさついた淡泊な味ではないかと思っていた。
しかし違った!
淡泊という点はたしかにそうだが、それは「端麗」と言った方がいいような味である。かつ、サシがほとんど無いにもかかわらずシットリとした肉質で、ぱさつき感は全くない!脂の部分も上質で、カツの厚みなのに全く重さを感じない。これは素晴らしい肉だと思う。黒豚(バーク)系の特質とは全く違う面白い味だ。

その場で生産者の方へ連絡をして頂いて品種を確認すると、驚いたことによくあるLWDである。だけども肉の特質はまったく違う方向性だと思った。かなりの好感を持ってしまった。

「これは揚げ方にもポイントがあるんですよ。普通のトンカツみたいにタップリの油で揚げちゃうと、熱が入りすぎて旨味が全部抜けちゃうんですよ。イタリアのカツレツは少なめの油で、半分くらいの厚みが油から出ちゃってるくらいにしてゆっくり火を通していくんです。だから熱や空気、水分が肉から急に逃げたりしないで、旨さを封じ込められるんですよ。その代わりすんごく時間かかりますけどねぇ~」(お料理ジャイアン談)

なるほどである!

「放牧豚、旨い肉ですね!味がしっかりしてます。で、やまけんさん、もう一品、スライスの放牧豚で作ってみましたよ!」

と出てきたのが、スタミナ丼風の肉丼だ!

これ、小池君のスペシャルな和風ダレを使用したものなのだそうだ。

まあこの威容をみればおわかりの通り激ウマである!
甘辛ダレが染みた放牧豚は適度に柔らかく適度に歯応えがあり、そしてしっかりとした味が染み出てくる。「お口の中でとろけちゃ~う」なんていう形容詞の逆を行く、質実剛健な味なのだ。
この肉、いってみれば岩手県の山形村の放牧牛である「短角牛」の豚版といえるかもしれない


ところでこの豚丼についていた椀がマタ超絶であった!
オマール海老のコンソメだそうだ。これに強烈にノックアウトされてしまった!オマールだけで煮出したという強烈な海老テイストの濃厚なコンソメ、とてもじゃないが丼一杯は飲めないほどに圧倒的存在感のある液体であった!

「やまけんさん、あれやりますか?」

ああ、あれ!? やってちょうだい!
というのは、先日秋田県に行って来た際に入手した、ハタハタ100%の魚醤である塩汁(しょっつる)の素晴らしいのを味付けに使ったパスタだ。魚醤はちょっと臭いもの、と皆思っているかも知れないが、諸井醸造所というところの塩汁はまったく臭みがない、素晴らしい逸品なのだ。これがパスタに合う。詳しくはもう少ししたら秋田編で書くからね!

この塩汁をベースに、細めの乾麺にフルーツトマト、そして山菜である「うるい」をチラしている。「うるい」を使ってくれというのが僕のリクエストだ。この山菜、パスタに絶対的に合うのだ。

思った通りのまろやかな旨味。フルーツトマトのコクのある甘み、酸味とすばらしいマリアージュなのである。

「いやぁ、美味かったですよジャイアン!」

と、小池シェフと石川さんが料理談義を始めるが、二人とも体格的キャラがかぶっている(笑)

べにふじの石川社長とも乾杯である。この方も実に筋のとおった行き方をしていらっしゃったのだ。

最後に出てきたドルチェが奮っていた。

これ、なんだと思う?
先日種子島の黒糖を書いたと思うが、あの黒糖の延べ棒2枚を小池君にあげておいたのだ。

「それで作った○○○○です!(←名前忘れました)卵と黒糖を混ぜて湯煎しながらオーブンで焼き、冷蔵庫で固めたものなんですよ!」

これが、、、
もう言葉が出てこないほどに美味いのだ。黒糖の、あの他に何もいらないと思わせる複雑な世界観の味と香りに卵の優しい風味があわさり、とてつもなく重厚で拡がりのあるドルチェになっている。

「もう黒糖の残りが少ないんで、来週前半でなくなっちゃうと思います」

ということなので、食べてみたい人はすぐに行ってみた方がいいと思う。電話入れないとキツイと思うぞ。
とはいえこの黒糖、先日書いたように、日本橋三越に再来するので、また復活する可能性もあるが。

ああ満腹だ。石川親子にも満足して頂けたようだ。

「ごっそさん!」

しかしとにかく 本日のメインである放牧豚のように素晴らしい、面白い食材の流通がうまくいかないということが、自分も含め、この国の食を支える意識や仕組みの脆弱さを物語っている。食べ物に関していえば、「佳いものを作れば売れる」とは言い難い状況なのである。

「なんとかしなきゃね」

と石川さんと話しながら帰った。
放牧豚オフ会? んー しばらくオフ会はお休みにしたいしな、、、